家庭訪問は恋のはじまり【完】

くっきぃ♪コミカライズ配信中

第43話 クリスマスプレゼント

私は、夜9時過ぎに帰宅して、シャワーを浴びる。

はぁ…
なんか、疲れた。

サンタさん、こんなとんでもないプレゼントはいらないんだけど。

そんな事を思ってたら、突然、玄関のチャイムが鳴った。

っ!!

こんな時間に誰かが来るなんて思ってないから、心臓が止まるかと思うくらいびっくりする。

インターホンを見ると、瀬崎さんだった。

私は慌てて玄関を開ける。

「こんばんは」

玄関でにこやかに挨拶をする瀬崎さんに、

「こんばんは。どうしたんですか?」

と思わず質問してしまった。

「うん。これを渡したくて」

と瀬崎さんは小さな紙袋をくれた。

「これ…?」

「メリークリスマス。夕凪にプレゼント」

そう言って、瀬崎さんは微笑む。

「え?  もらえないよ。
 私、何も用意してないし、それに、保護者の方からこういうの、もらっちゃダメなんだ」

そう。
これは、成績を上げてもらうための賄賂と見なされかねない。

「んー、じゃあ、春まで預かってて。
 で、春、夕凪が欲しいと思ったらもらって。
 もし、いらないと思ったら、返してくれて構わないから」

預かる?

「中身は、何?
 春まで放置してもいいもの?」

「ああ、大丈夫。
 50年後でも使える物だから、安心して」

そんなに長持ちする物?

「うん、じゃあ、分かった。
 春まで預かるね。
 開けてもいいの?」

「もちろん。
 今、開けてごらん」

瀬崎さんに言われて、紙袋を覗くと、中には落ち着いたラッピングの小さな箱。

リボンを解いて、赤い包装紙を捲ると、見た事のある有名ブランドの箱。

蓋を開けると、そこにはジュエリーケースと思しき箱が…

「瀬崎さん…?」

私はそれ以上、開けられなくて、瀬崎さんを見上げる。

「ほら、まだ中身は見えてないよ。
 ちゃんと開けてごらん」

瀬崎さんが、私の手にある紙袋や包装紙などを持ってくれて、箱を開けやすいように手伝ってくれる。

だけど、開けてしまったら、もう元には戻れない気がして…

きっと中身は受け取ってはいけない物だと思うから。

「でも、これ、受け取れないよ」

私が言うと、

「そしたら、春に返してくれればいいから。とりあえず、ここまで開けたんだから、最後まで開けようよ」

と、瀬崎さんに促されて、私はジュエリーケースの蓋を開けた。

そこには、きらめく大粒の立て爪ダイヤの左右に小ぶりのダイヤが列をなす今まで見た事もないような豪華な指輪が鎮座していた。

「これ… 」

「指輪の中も見てごらん」

そう言われて、指輪を取り出してリングの内側を見る。

《 An Everlasting Love 》

「永遠の愛?」

「バツイチの俺がこんな事を言うのは、片腹痛いと思うかもしれないけど、永遠に夕凪だけを愛する事を誓うよ。
 だから、夕凪…
 結婚しよう」

「え…  あの… 」

「うん。
 夕凪が答えられないのは、分かってる。
 だから、春まで、預かってて。
 もし、OKなら、それを指にはめて。
 もし、俺とは結婚できないと思うなら、捨ててくれて構わないから」

捨てる?
そんな事、できる訳ない。

いくら私がブランドやアクセサリーに疎くても、この指輪が何十万円もするって事くらいは分かる。

もしかすると百万を超えてるかもしれない。

「こんなすごい指輪、贅沢すぎて怖いよ。
 怖くて受け取れない」

私が正直に言うと、

「だから、夕凪が好きなんだ。
 そんな夕凪だから。
 夕凪、俺のために受け取ってくれないか?
 今は、こんな形でしか夕凪への思いを表せないから」

「ええ!?
 だって、私、教師なんだよ?
 もらっても、学校にはしていけないんだよ!?」

「そうか。
 じゃあ、休日限定で」

いやいや、休日も、こんな豪華な指輪をつけて出かけるような所に行く事もないし。

「気持ちだけいただくから。
 本当に私なんかには勿体無すぎて、宝の持ち腐れになるだけだから」

私は断るけど、瀬崎さんも思いの外、頑固で。

「夕凪、夕凪がどうしてもって言うなら、春に返してもらうから、今は夕凪が持ってて」

そう言うと、瀬崎さんは私が右手に持っていた指輪を取り上げて、私の左手を取った。

まさか、このシチュエーションって…

私が一瞬息を飲んで固まってる間に、瀬崎さんは私の左手の薬指に、それをはめてしまった。

ぅわぁっ…
すっごく、きれい…

サイズもピッタリ。

でも、どうしよう!?

「うん。 
 よく似合ってる」

瀬崎さんは満足そうにひとつ頷くと、

「じゃ、嘉人が待ってるから帰るよ」

と言った。

えっ? あっ!
嘉人くん!!

「嘉人くんは、今、1人でお留守番してるんですか?」

「いや、今日は実家でクリスマスパーティーをして、そのまま泊まってるよ。
 実家には大きなツリーがあるからな」

ほっ…

「それならよかった」

私が胸を撫で下ろすと、

「夕凪、愛してる」

と囁いた瀬崎さんに口づけられていた。

玄関で靴を履いたままの瀬崎さんと、スリッパを履いて一段上にいる私。

いつもより小さくなった身長差のお陰で、腕を背中に回しやすい。

私は、きらめく指輪をはめた手で、瀬崎さんの背中にギュッと抱きついた。

瀬崎さんは、身を起こして私の頭に手を置くと、

「来年は朝まで一緒だから」

と言い残して、帰っていった。

私の左手には、結局、返せなかった指輪がまばゆい光を放っていた。

私は指輪を外す前に、指輪をつけた自分を見たくて、洗面所に向かう。


そしてようやく気付いた。


私、すっぴん!!

そう、お風呂上がりの私は、すっぴんの上にパジャマ姿。

ええ〜!?

どうせプロポーズされるなら、もっとドレスアップした姿でされたかったよ。

なんでこんな残念な姿で、こんな豪華な指輪を貰ってるの!?



だけど…

嬉しい。


できれば、朝まで、瀬崎さんの腕の中にいたかったな。


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