【月が綺麗ですね。】私は先生に、青春全てを捧げて恋をする。

KOHARU

月が綺麗ですね。(42)


「それは、ただ「
「もし俺がこの学校を辞めていたら、それでも菊池はこの学校を選んでいたか?
もし俺が来年この学校を辞めると言ったら、菊池はこの学校で教師を続けるのか?」
先生のその質問に、私は何も返すことができなかった。
だって、図星だから。先生の考えている、通りだから。
「簡単に自分の道を決めるな。もしダメになった時、真っ暗になるから「
「それが、本当の理由ですか?」
今度は私が、先生の言葉にわざとかぶせるようにが問いかけた。
「先生を目標に生きちゃ、ダメなんですか?先生はどうして、どうして...」
思わず、涙が込み上げてきた。ダメだ。こんなところで泣いたら。自分の気持ちにきつく紐を締める。
「私から先生を取り上げたら、真っ暗になるって分かってるのに、先生はどうして私の前からいなくなろうとするんですか」
頑張って泣かないよう一生懸命涙を堪えた。でも、この涙声は隠しきれない。
きっと先生にも、私が泣きそうなのは伝わってしまった。
「何でですか。私が子供だからですか、元教え子だからですか、世間の目があるからですか。先生って、呼ぶからですか」
数秒の沈黙が訪れる。2人の間に、重たい空気が漂う。
「そうだよ」
その先生の言葉は、この重たい空気よりも重かった。でも逃げない。私はその言葉を逃すまいと、必死にしがみついた。
「あの時の先生と今とでは、意味が違います」
「違わない」
「違います。もう私は大人です。もう、23です。」
 「俺は36だよ」
「年齢なんて関係ないです。」
「関係あるよ。それに菊池は、何も変わってない」
「私はもう先生の生徒じゃないです。同じ、教師です」
「でも菊池の言う先生は、あの時と何も変わってないよ」
私の言う先生、それはずっと大好きな先生。それは、変わるはずがない。
「菊池の中の俺は、あの時のままだよ」
「4年ぶりに会って一緒に桜を見に行ったあの夜、先生は私に、変わってなくて安心したって言ってくれました。
それが、先生の中にある私の思い出なんじゃないんですか。
先生の言った、もう教えてある答えなんじゃないんですか。」
また少しの沈黙が2人の間に流れた。
こんなに開放的な空間なのに、空気はすごく重い。
そんな中、先生の声で小さくごめんという言葉が私の耳に届いた。
何で先生は謝るんですか。何で、そんな悲しそうな顔をするんですか。
「何でですか。ずるいです、先生は。何であの時、変わってなくてよかったって笑顔で言ったんですか。
卒業式にくれた、“綺麗な月でした”は、どういう意味だったんですか!私には、何も分かりません。何も、伝わってません。
私は、どうしたら良かったんですか」
感情が溢れ出し、涙が止まらなかった。
もう自分でも、どうしたら良いのかわからなかった。
「ごめん」
また先生は謝った。違う。私が聞きたいのは、そんな言葉じゃない。 
きっとこの時の私の顔は、酷いものだったと思う。
きっともう、メイクも崩れてる。それでも良い。
先生の言葉が聞きたくて、私は涙で歪んだまま先生の顔の方をじっと見つめた。 
「何が、ごめんなんですか」
「大切なことを忘れてかけていた。俺が止めなきゃいけなかったのに。俺が悪い、本当にごめん。もう、終わりにしよう。」
そして先生は、私に背を向けた。
どんどん遠くなる。 
先生が次第に、小さくなる。
嫌だ、行かないで。私を1人、置いていかないで。
「待ってください」
私は大きな声で、先生を呼び止めた。
先生はその声に足を止め、ゆっくりと振り返る。
何でそんな簡単に振り返るんですか。 
止まって欲しかった、でも止まって欲しくなかった。
また期待をしてしまう。まだ何か、あるんじゃないかとそう願ってしまう。
先生は1度目を瞑り、一つ大きく息を吸ってからその息を吐くと同時にゆっくりと目を開けた。
私の視線と、先生の視線が重なる。
何を言われるのだろう。
どちらも目線を外すことはない。
ただお互いにじっと、見つめ合った。
 「俺は、俺のことを先生という奴とは恋愛できない」
そう言って先生は、今度こそ本当に私を1人屋上に残し、私の前からいなくなってしまった。
あれ、おかしいな。笑えてくる。自然と面白くないのに、笑みが溢れる。笑っているのに、涙は出る。
追いかけたいのに、足が動かない。
もう本当に終わった。
これ以上、私にはどうにもできない。これ以上進む、勇気もない。
私達はもう、どうにもならない。 
結局は、私がどうあがいたって先生と並ぶことなんてできなかったんだ。
先生から言われた3度目のあの言葉には、そんな意味が込められている気がした。
その時、屋上のドアが開く音がした。
まさか。
今希望を失ったくせに、すぐに新しい希望を感じてしまう。私は本当に、バカで単純な人間だ。


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