【月が綺麗ですね。】私は先生に、青春全てを捧げて恋をする。

KOHARU

月が綺麗ですね。(41)決戦当日

それから柚木は休みの度に、私をご飯に誘ってくれだ。そのおかげか、いつもより時間が経つのが早く感じて、気がつけば夏休みは終わっていた。
2学期が始まってからも、先生と私の関係は変わることがなく、ただ挨拶をするだけ。
そんな先生の対応を見ると、あの時持てたはずの自信もどんどんなくなっていきそうになる。
でも、だからと言って引き下がるわけにもいかない。 
そしてとうとう、柚木と考えた作戦を決行する日が、やってきた。
それは、私が日直を担当する日の夕方。
先生が部活動で下校時刻まで学校に残ってる日の夕方。
その2つが重なる、今日という金曜日の夕方。
今日は、一日中このことだけを考えて生活していた。
正直、ちゃんと授業ができていたのか定かじゃないくらい、気持ちがふわついていたと思う。
気がついたら、もうすぐ下校時刻になっていた。作戦決行の時がどんどん近づいてくる。
[応援してますよっ]
数分前に柚木から送られてきたメッセージを、何度も確認して気持ちを落ち着かせた。
大丈夫。きっと大丈夫。 
そう思いながら、ただ時が来るのを待った。
「お疲れ様でーす」
そしてとうとう、先生が国語科室に戻ってきた。
体内に溜まっていた空気を一度全て外に出したし、
一気に新しい空気を取り込む。気合を入れて、私は小川先生の席へと向かった。
「すみません小川先生、少しお時間ありますか?」
「ん、どしたの?」
用件を聞いてから答えようとしている。 先生のそのずるさ、予想済みです。
「開かない扉があって。男の人なら開くかなと思いまして、力を貸していただけませんか?」
「なるほど。ならあとで俺が確認しとくよ。どこ?」
「いや、中の様子が見たくて。なので、お願いします」
行き先は伝えない。だって、今伝えてしまったらきっと先生は来てくれないから。
だから私は、一度も振り返りことなく足を進めた。
あの時の、あの場所に向かって真っ直ぐに進んだ。

「ここです」
「ここ、か」
「なかなか開けられないんですよ。錆びついてるんですかね?」
「ちなみに菊池は、ここを開けて何を確認したいの?」
私が先生をここに連れてきた理由、本当は私が何がしたいのか、きっと全てを察してる。
でも、良いんです。ここまで来たら私の勝ちです。簡単に返したりはしませんから。
「先生に、開けてもらいたいんです。」
もう先生は、完璧に私がしたいことを分かってる。
そして私は、先生がこの扉を開けたくないと思っていることを分かっている。
「自分を、納得させるためですから」
まっすぐ、先生を見つめて私は言った。そこに出来た間に、鼓動が強くなる。
「_______分かった。」
きっとこの言葉を発するのに、先生の頭の中では沢山のことを考えたのだろう。
でも先生は、その扉を開けてくれた。
もしかしたら、今日が最終決戦になってしまうかもしれない。
ただ私は、そうならないように全力を尽くすのみ。
先生はドアノブに差し込んだ鍵を躊躇なく回し、簡単に扉を開けた。
すぐに開くことを予測していたかという表情で、先生は私に顔を向け直す。
「すみません。嘘、付きました。」
こんな簡単にバレる嘘を私がついた理由。
「知ってるよ。」
理由なんて、ただ一つしかない。
「もう一度だけ、先生と屋上で話したいことがあったから、嘘ついて先生をここに呼び出しました。」
私と先生の原点。決して良い思い出とは言えない。でも、私はここが良い。
「少し、お話させてもらえませんか」
 「______。」
その時、先生がチラッと階段のほうに目を向けた。
このまま帰すわけにはいかない。
「すみません、嫌と言われても帰せません。」
私は先生が逃げられないよう、通路の真ん中に両手脚を広げて通せんぼの格好をした。
先生は、そんな必死な私に観念したのか一つ息をついておでこを人差し指で小さく擦った。
「分かったよ」
そう少し笑って、屋上へと入ってくれた。
だんだん夕日が沈んできて、外は少し暗くなっていた。
少し強めの風が吹き、私の髪の毛を崩しす。前が見えなくなり、前髪なんて気にせず髪をかき上げ耳にかけた。 
「余談なんてせずに、早速本題に入ります」
少し声を張って先生にそう伝えた。
風で聞こえずらかったのか、先生は私の方に何歩か近づいてきてくれた。
その時先生は、眩しいのか少し目を細めていた。それもまた、かっこいい。私はどこまでも、先生に惚れているんだな。
「先生は私と距離を置こうとしたじゃないですか。それは、なぜですか?」
「理由はもう言ったよ。他の生徒のこととか「
「それは見せかけの理由です。私は、本当の理由が知りたいです。」
「何だそれ」
「とぼけないでください。もう、良いですから」
少しとぼけたような口調で話す先生は、私のその言葉に私から目線を地面に下ろした。
言葉を選んでる。そんな顔をしてる。そして数秒の沈黙後、やっと先生が口を開いた。
「菊池には、もっと良いやつ、がいるよ。俺なんかよりも、幸せにできるやつが」
予想外の言葉に、言葉が詰まった。先生の頭の中が、不思議で仕方がなかった。
「どういう意味ですか。私の中には、ずっと先生だけです」
「それだよ。それが俺が言う変わってないところだ」
先生はもう一度、私に目線を戻した。
その顔は、とても真剣で、嘘偽りのない、真っ白な人の顔だと、すぐに分かった。
「菊池は、あの時も今も、周りが見えなくなってる。だからあの時、あんなに突き放したんだよ。
ちゃんと、周りを見て自分の道を決めて欲しかったから。なのに、教師にまでならせてしまった。中途半端にした、俺が、悪い。」
「何言ってるんですか、私は本当に教師になりたくて「
「じゃあなんでこの学校なんだよ。」
先生は、私の言葉を遮るようにそう言った。
目の奥に、強い想いを感じた。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品