【月が綺麗ですね。】私は先生に、青春全てを捧げて恋をする。

KOHARU

月が綺麗ですね。(28)再会


桜の舞う4月。
爽やかな風とともに、花粉な私の鼻をくすぐる。
新しいスーツに身を包みながら、一歩一歩慎重に足を運んだ。
今日が運命の日。
私と先生が、4年ぶりに再開する日。
この日のために、私は4年間必死に耐えて日々に努力を続けた。
先生を見かけた時も我慢した。先生と同じ先生になれるよう、先生のいる母校に就職できるよう、出席も単位も4年間必死で頑張った。そして晴れて今日、自分の母校に教師として戻る。
先生と同じ、国語科教師として。
「失礼します。本日からお世話になります、国語科の菊池です。よろしくお願い致します。」
『えー、お久しぶりですね、菊池さん。えー、これからは生徒ではなく教師として、えー、この学校をよろしくお願いします。』
懐かしい校長先生だ。うちの高校は、特別な欠員がいない限り基本1人しか採用されない。
たまたま去年2人の先生が退職し新人が3人採用されたため、今年は恐らく少ないだろうという予想ではあったが、本当に私1人だとは思わなかった。
でも、良かった入れて。先生のことを学校だと思って、愛を熱烈アピールしたのがよかったのかな。まあ、もしダメだったらまず私はフィールドにも上がれないところだった。無事、何より採用されてよかった。
校長室で段ボールに入った荷物を受け取り、隣の校舎の国語科室まで階段で上がる。
先生たちが昔行っていた通り、本当に遠いな。
たった4年でこんなにも体力って衰えるんだ。 
自分の体が重くてびっくりする。
自分の想像していたペースの倍はかかり、やっと国語科室にたどり着いた。
扉の前で、大きく深呼吸をする。この扉を開けたら、きっと先生がいる。
あの時と同じ場所、同じ風景。
だけど、もう私は生徒じゃない。
私は先生と同じ、先生になった。
「失礼します!」
ノックをしてから、少し張り切り過ぎてしまったかもしれないくらいの声量で挨拶をし、その勢いのまま扉を開けた。 
「本日からお世話になります、菊池華です!よろしくお願いします」
そう挨拶しながらぐるっと全体を眺める。
家具やデスクの位置、照明の明るさ、年季の入ったコーヒーメーカー。4年前のあの時と、何も変わっていない。
先生達も、懐かしい顔ばかり。
みんなが私を笑顔で出迎えてくれた。
だけどそこに、小川先生は見当たらない。
あれ、私が望んでいたシチュエーションと違う。
ここで運命の再会をして、先生が私のことを見てびっくりして、、、 
「久しぶり、華ちゃん」
声をかけられた。
でもこの声は、私が聞きたかった声じゃない。
4年間待ち望んでいた、人じゃない。
「お久しぶりです、栗原さん」 
同じ大学で同じ学部の1つ上の先輩の栗原さん。
去年栗原さんが、この学校に就職が決まったと知ったのは私が内定をもらった後だった。正直気まずいと思った。
あんなことをしてしまって申し訳ない気持ちもあるし、それに先生への気持ちを知られたくないから。
「荷物重そうだね、持ってあげるよ。」
そう言いながら、持っていたマグカップをテーブルに置き、ソファーから立ち上がった。
その席は、いつも先生が座っていた席だ。
先生だけの、席だ。
重いねなんて言いながら、栗原さんは私の荷物をデスクに置いてくれた。
「すみません、ありがとうございました。」
「この後何するかとか聞いてる?」
「いえ、特に何も」
「そっか、どうしようかな。んーまぁ俺以外誰もいないし、まず職員室のボードの使い方とか説明していいのかな」
そして栗原さんは、ちょっと待ってねと言って置くから資料を取り出し、それじゃあ行こうかと国語科室を出て2人並んで廊下を歩き出した。 
本当は今、私の隣には小川先生がいるはずだった。先生に、教えてもらうはずだった。
でもやっぱり現実はそう上手くはいかないらしい。
まぁでも、この学校にいれば絶対先生には会えるんだから。そんなに焦らない、自分。
「華ちゃん、聞いてる?」
「あ、ごめんなさい」
「全く、集中しなさい」
栗原さんのグーパンチが、私の頭に軽くコツンと当たった。栗原さんの話が全然頭に入ってこない。
私の頭はもう、先生でいっぱいだから。
「コラ、何してる。」
後ろから聞こえたその声に、私は全身が震え上がった。
だってそれは、私がずっと聞きたいと思っていた声だから。
だってそれは、私がずっと会いたかった人の声だから。
だってそれは、私がずっと大好きな人の声だから。


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