【月が綺麗ですね。】私は先生に、青春全てを捧げて恋をする。

KOHARU

月が綺麗ですね。(12)


次の日からは、背伸びして髪巻いたり香水つけたり、スカートを短くするのもやめた。
月曜日、学校で柚木に金曜日のことを話したら、もうキャーキャー騒いで仕方がなかった。
『それは絶対、華の事気にしてるじゃん!
暗くなってからこんな可愛い子返したら、痴漢に会うかもしれないから明るいうちに早く帰れって意味でしょ?思ったよりやる男だな。』
「いやいや。そんなことは無いと思うけど」
『ねぇ華。うちの学園祭のジンクス、知ってる??』
学園祭。うちの学園祭の最後には恒例で花火が上がる。その花火を好きな人と見れたら、幸せになれるっていうジンクス。 
「知っては、いるよ」
『いつか見れたらいいね』
考えたことが無いわけじゃない。 
先生と見れたらって。でも現実的に、それはやっぱり夢のまた夢の話で。
先生と一緒に花火を見る風景を想像して、勝手に恥ずかしくなって。
そこまで考えてしまうと、やっぱり実現になったらななんて考えてしまう。
でもダメ。
先に進むことばかり考えて、現状を失ってしまったら元も子もない。
そんなことを考えながら、私は1人で国語科室に向かっている。
いつも私1人が歩く廊下だけど、今日は違った。
私と同じように教室から国語科室に向かう生徒がもう1人いる。
すっごく小さい歩幅で進んでいて、追い抜かそうかと思ったんだけど、なんだか気が引けて私ものその子のスピードに合わせて進んだ。
そしてその子が足を止めたのは、国語科室の前。
なんでか分からないけど、私はその子に見られないように、階段の影に隠れた。
バレないよう、少しだけ頭を出して覗いてみる。
その子は、扉の前でしばらく止まったまま。
何するんだろう。
そう思いながらしばらくして、やっとその子は大きく深呼吸をして、国語科室の扉を開けた。
『小川先生、今少し、お時間ありますか』
中からほいよって先生の声が聞こえると、すぐに先生が出てきた。
「長くなりそう?そっちの教室使う?」
そういって入って行ったのは、私と先生がいつも勉強している国語科準備室。 
あそこは私と先生だけの空間だと思ってたからか、なんだか悔しくなる。
2人は中で、何を話しているんだろう。2人は中で、何をしているんだろう。
良からぬ想像ばかりが頭の中を駆け巡る。
聞きたい、ちょっとだけ。
そう思い少し足を前に出したけど、やっぱり盗み聞きなんで良くないや。
そしてすぐに、出した足を元に戻した。
その時、バンと大きな音が鳴って私は思わずびっくりして持っていた教科書とペンケースを全部床に落としてしまい、ペンケースの蓋は開き中身が散らばってしまった。
まずい私がここにいたのがバレる。
そして、急いで拾い集める私の前を1人の女の子が走って通り過ぎた。顔を下にして、両手で顔を覆ったまま。
きっと泣いているんだと、すぐに分かった。
先生と話していた女の子が、その部屋から泣いて飛び出してきた。
中で何があったのかは、容易に想像がつく。
きっと彼女は、先生に告白した。
そして、フラれた。
どんな顔して先生に会ったらいいのか分からないまま、私は先生のいる国語科準備室に入った。
先生は、じっと窓の外を眺めている。
「先生」
「お、早いねもう来たか。座ってどうぞ」
いつも通りの先生。
だけど、あの子あんなに泣いてた。
先生はあの子に、どんな言葉を掛けたんだろう。
あの子の、何がいけなかったんだろう。
他人事には、どうしても思えなかった。
「先生あの」
 「ん?」
聞きたい。でも、やっぱり聞けない。
「やっぱり何でもない「
 「見ちゃいました」 
そして先生は、いつもの席に座った。
 「って顔してるけど。見ましたか?」
なにも答えられない。
見たらどうなるの?ここは、嘘をつくべきなの?
 「黙ってるってるのはYesとみなす。だから、さっきのことは他の人に言わないこと。俺が悪いから」
“俺が悪いから”それは、どういう意味ですか。
あの女の子を庇うためにそう言ってるんですか。
それとも、本当に先生は何かしたんですか。
「俺が悪いって、どういうことですか」
 「菊池は知らなくていいよ」
何でそうやってはぐらかすんですか。
私には、関係ないんですか。
「先生はいつもそうやって、大事な答えをはぐらかします」
何でかわからないけど、ムキになってしまう自分がいる。
 「すぐに答えを与えないで考えさせる。それが教師だよ。どうしても気になるなら、答え教えてあげるけど、そんなに聞きたい?」
そう言う先生の顔は、今まで見た中で1番寂しくて、怖くて、冷たい顔だった。
これ以上は入ってくるな、そう見えない線が引かれた気がした。
学園祭だ花火だなんて、考えてたこと自体がバカみたい。少しでも可能性を感じた自分が、バカみたいだ。
「いえ、大丈夫です。すみません」
 「よし、じゃあ始めようか」
いつものように先生は私に授業を始めた。
本当に、何事もなかったかのように。

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