【月が綺麗ですね。】私は先生に、青春全てを捧げて恋をする。

KOHARU

月が綺麗ですね。(9)


「私、本は好きなんですけど、国語が苦手で」
とりあえず、話題を変える。これが1番安全だ。
 「知ってるよ。白石先生が頭抱えてたもん。」
白石先生、小川先生に相談するんだ。
そらくらい、仲良いんだ。
私の心が、またキュッと締め付けられた。
白石先生を困らせていた申し訳なく思うけど、それよりもそんな風に悩み相談をするほどの仲に2人がなってる事の方が気になっちゃう。
「仲、良いんですね」
 「ん?」
何言ってんの。
せっかく先生と話せるチャンスなのに。こんなこと聞いて嫌われたりでもしたら、もう先生と話せなくなるのに。
「すみません、何でもないです」
 「あ、また謝った」
「あっ」
子供のように指を刺して笑う先生を見て、私も自然と笑顔になる。
先生ってやっぱり、周りの人を幸せにする力を持ってる人だな。
 「その本難しいでしょ。高校生には」
先生は立ち上がり、コーヒーメーカーでコーヒーをマグカップに注いでいた。
そして戻ってくるその手には、2つマグカップが用意されていて。
 「はい、どうぞ」
取手を私の方にくるっと向けて、先生から渡されたコーヒー入りのマグカップ。
本当はコーヒー、苦すぎて飲めない。だけど、初めて先生から貰ったものだもん。
飲まない訳が、ない。ありがとうございますとお礼を言って、マグカップにゆっくりと口をつけた。
ンワッ、やっぱり苦い。これを普通に飲んでる先生は、やっぱりすごいや。
ちょっと、一回休憩しよう。そう思って、一口飲んだマグカップをゆっくりとテーブルに戻すと、先生はまたンフフフと子供みたいに笑い始めた。 
 「全力で苦いですって顔するね」 
「えっ、すみません。そんなつもりは」
 「あ、また謝った。それ禁止。今ミルクと砂糖持ってくるから、ちょっと待ってて」 
そう言って、先生は奥の冷蔵庫から牛乳を取り出して私のカップの中へと沢山注いでくれた。 
 「こんだけあれば平気?」
「多分大丈夫です、ありがとうございます」
そして一口飲んでみると、さっきのは嘘みたいに苦味がなくなっていて。何だか、魔法のように感じた。 
そんな私をみて、また先生は笑った。
 「子供だなぁ」
やっぱり先生にとって、私は子供になるのかな。やっぱり私は、先生に並ぶことはできないのかな。
 「どこまで読んだの?」
先生の目線は、私の持ってる本に向けられてた。
何度も本の話をする先生は、本当に好きなんだろうなってすごく感じる。それよりどうしよう。正直この本の内容よく分かってない。
でも、変に見栄を張って嘘つく方がなんか良くないよね。
「途中まで読もうと思ったんですけど、難しくてなかなか進まなくて。」
もう先生に嘘はつきたくない。どうせ、バレてしまう気がするし。だから私は、正直にそう答えた。
 「まぁ、国語苦手問題児ガールには難しいだろうね」
やっぱり、この本は国語が苦手な私にとって東大受験をしているようなもんだったのかもしれない。
また子供みたいかな。そう考えると、悲しくなった。 
 「まぁ、また今度教えてあげるよ」
「え?」
今先生、なんて言った?教えてあげるよって、言った?
 「君には特典で、俺によるこの小説のプレミアム解説をつけてあげよう。」
「...良いんですか?」
 「良いですよ。放課後金曜日なら職員会議もなくて暇だし」 
金曜日、絶対空けます。
「来ます!ありがとうございます」
 「はいよ。ほら、暗くなんないうちに帰りなさい」
先生に子供みたいな扱われたけど、そんなのどうだっていい。子供で、国語が苦手で、良かった。
そのおかげで、私は先生を独り占めできる時間をもらえたんだから。 
「ありがとうございました!失礼しました!」
 「じゃーね。菊池さん」
私がドアを閉める直前に、そんな先生の声が聞こえた。
私の名前、覚えてくれていたんだ。
だめだ、しあわせが渋滞してる。 
幸せが、混雑してる。


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