【月が綺麗ですね。】私は先生に、青春全てを捧げて恋をする。

KOHARU

月が綺麗ですね。(5)


『菊池さん、ちょっとこのままだとまずいかもしれないわ』 
4月といえばクラス替えともう一つ大事なイベントがある。
それは学力テストだ。 
特に勉強が得意ではないのに、国語だけ群を抜いてできない。
だから、学力テストの後の担任の先生との個人面談は大嫌い。
『菊池さん、文系学部の受験を考えてるわよね?』
「はい」
「そうなるときっとね、どこの大学に行くのにも国語は試験科目に入ってしまうと思うの。
それに国語って慣れだから、今のうちにやっておいた方が後々楽になると思うんだ』 
白石先生は、いつだって優しい。
一人一人のテストの結果を見て、こうやって一緒に考えてくれて。
『菊池さんの1年生のテストからもう一回確認してみたんだけどね』
白石先生は、いつも綺麗でお洒落で。
『これ、菊池さん用に作った苦手なのところまとめた練習問題。』
いつだって優しくて。
『出来たら、私に出してくれたら大丈夫だから。時間がある時にやってみて!』
いつも先生のそばにいる白石先生に、私は嫉妬していた。
私には勝てることが何もない。
白石先生より美人でもないし、頭も良くないし、優しくもない。それになにより、私は大人じゃない。
たまに廊下を2人で並んで歩いてるところとか、全校集会の時に笑顔で2人で話してる姿とかを見るたびに、私の胸は苦しくなった。
私には無理だ、そんな現実を突きつけられてる気がした。
白石先生何も悪いことしてないし、本当に優しくて良い先生なのに、そう素直に思えない自分が憎い。
そんな、汚い心の自分が憎い。
「ありがとうございます。やってみます」
『うん!分からなかったら、聞きにきてくれたらいいからね』
本当は、小川先生に教えてもらいたかった。 
こんなに良くしてくれる先生を前に、こんなことを思う私はやっぱりひどい。
だけど、気持ちに嘘はつけないの。
だって私、先生が好きなんだもん。
 「失礼しました」
国語科室の隣にある国語科準備室での白石先生との面談が終わって、1人階段を降りる。
他の職員室は教室のある校舎と同じところにあるけど、何故か国語科室だけ隣の校舎の2階にあって、いつも授業に来るのが大変だって白石先生が言ってた。
放課後だけど今日はクラブ活動がお休みなのか、この校舎には誰もいないように感じる。
あぁ、さっき私と白石先生が面談をしていた隣の国語科室には、先生がいたのかな。
そんなことを考えながら、私は誰もいない音楽室に入って窓を開けた。
桜の花びらと一緒に、春風が窓の中に向かって吹いてくる。
「春のいい香り。」
この風に乗って、先生が私の前にサッと現れてくれたら良いのに。
そんなことを願っていると、爽やかな風と一緒にタバコの匂いがした。
誰だろう。
すると、1つ上の階から、私と同じように窓から乗り出している人がいた。
それは、私がずっと会いたい会いたいと願っていた人。
「小川先生」
私は思わず、そう口に出してしまった。



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