【月が綺麗ですね。】私は先生に、青春全てを捧げて恋をする。

KOHARU

月が綺麗ですね。(1)


高校一年生、菊池華。
今日から、プレミアムな3年間がスタートする。
華のJ K。アオハル。
中学生の時にそんな単語をたくさん聞いてきて、さぞかし高校生活とはきらびやかな物なのだろうと、私はずっと楽しみにしていた。
『えー。新入生の皆さん。えー、本日は、お日柄も良く、えー』
でも、そのスタートは全然楽しくない。
全国共通の、校長先生の話が長い問題。
少し辺りを見回すと、何人もの生徒の首がコクコクと前に倒れている。まぁ、これは眠くなっても仕方がない。
私も飽きてしまって、暇つぶしに辺りを見回す。
入学式だからみんなスカートも長くしてメイクも薄い。特に悪目立ちする子がいるわけでもなく、至って普通の学校。
みんな同じ格好をしてるけど、かっこいい子、可愛い子は髪の毛で分かる。あの髪の毛クルクルな子、きっとすごいおしゃれなんだろうな。
私も高校生からはおしゃれして、髪の毛巻いてメイクしてって、考えたこともあった。
でも、特に目立つ人間でもない私が突然おしゃれを始めても全然似合わないし、ちょっと家で練習して髪の毛を巻いてみた日にはエジソンが実験失敗しましたみたいな顔だねって家族に大笑いされた。
だから、私はいつも通りが一番いい。
そう思って、高校デビューをするのは諦めた。

そのまま私は、壇上にいる他の先生に目を移す。
6人並んで座っているあの先生達は、きっと新入生の担任の先生たちだろう。私の担任の先生は、あの中の誰かな。
端に座ってる、眉毛の凛々しい人は怖そう。
真ん中に座ってる、遠目でも分かる色白の美人な人、素敵だな。
その隣の、なんだか猫背でやる気がなさそうな男の人、眠たいのか、ずっと斜め下一点を見つめている。隣に並ぶ女の先生とは対照的。
舞台から少し遠い上に、俯いているから顔はあまり見えない。
あ、あの先生あくびした。
必死に口を開けまいと力を入れるけど、どうしても少し開いてしまうのを隠すために、斜め下を向いたまま少し横に首を傾けた。
そんな男の先生を見て、隣の女の先生がクスッと笑った。
男の先生も少し笑って、すみませんって口が動いたのがわかる。
そして何事もなかったかのように前を向き直すけど、目に溜まってしまった涙であくびをしたことはバレバレ。
その涙を一瞬手で拭おうとしそうになったが、式の最中にそれではまずいと思ったのか、手をぐーにして膝の上に置き必死に目をパチパチさせて目に溜まってるものを馴染ませようとしてる。
なんか、可愛い先生だな。
そんな風に思ってしまったその時、やっと視界がクリアになった先生が、急に私の座る座席の方に目線を向けた。
しばらく先生をばかりを見ていた私と、先生の目線が重なってしまった気がする。まずい、ガン見してたのがバレちゃう。
私は急いで先生から目を逸らした。
なんでこの時、先生が突然こちらを見たのかはよく分からない。
ただ分かるのは、すごくカッコよかったということ。
この距離でも分かるくらい鼻がすらっとしてて、ちょっと流してる前髪が似合ってて。
何より、やる気がなく眠たそうな目をしているのに、その時私はそこになぜか吸い込まれてしまうような感覚に陥ったのと。
このまま見ては行かないと、本能的に感じた。

“一目惚れ”

その1つの単語が、私の頭の中に浮かんだ。
長い校長先生の話が終わり、いよいよ担任の発表になった。そして壇上の先生達が一斉に立ち上がる。
きっとここが、高校生活最初のターニングポイントとなる。
クラスのメンバーや担任の先生、これである程度の高校生活が決まる。
出来ることなら、あの先生のクラスになりたいな。自分のクラスが書かれている紙をこそっと確認する。私はC組だ。
あれ、私ってこんな一瞬で人を好きになる人だっけ。いやいや、そんなことはない。
だって、話してもないし近くで見たわけでもない。
それに相手は教師。
少女漫画じゃないし現実世界で生徒と教師が恋愛をするなんてそんなのあり得ない。
 「えー、国語科の小川圭です。」
初めて聞いた先生の声に、ドキッとしなかったと言ったら嘘になる。C組、そう言って。私は自然に、そう願っていた。
 「B組の担任をさせて頂きます。よろしくお願いします。」
初めて聞いた先生の声は、甘くて、優しくて。でも悲しい言葉だった。
今私の気持ちは、分かりやすいくらいがっかりしてる。
日頃の行いが良く無かったのかな、もっと良いことしたらあの先生のクラスになれたのかな。
隣のB組の子達を見て、嫉妬してる自分がいる。
先生は自分のものでもなんでもないくせに、取られた気持ちで胸が苦しくなった。

そのあとすぐに式は終わり、式で隣の席だった女の子と友達になり、話しながら自分の教室に向かう。
名前は柚木と言うらしい。
髪の毛も巻いてて爪もピカピカ。絶対モテるんだろうなと、一瞬で感じた。

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