お久しぶりです。俺と偽装婚約してもらいます。~年下ワケあり生真面目弁護士と湯けむり婚前旅行~
28. 頑張った葉月さんを、いっぱい甘やかさせてください(2)
「はあ~……」
すっかり大人しくなった母をホテルのロビーで見送ったあと、葉月は一気に脱力した。
「お疲れ様でした、葉月さん」
隣に立っていた朔也がねぎらうように葉月の肩を叩く。
「朔也くんもお疲れ様。ごめんね、あんなところ見せて」
「いえ、仕事柄慣れてますし。それに、かっこいい葉月さんが見られてよかったです」
「かっこいい……?」
「はい。スカッとしましたよ」
朔也の言葉に、葉月は母に初めてぶつかっていった自分を思い出した。
反発したらひどい目に遭う、と昔から怯えていたが、やってみれば意外と大したことはないものだ。
──でも、もし「私も変わろう」って思えてなかったら、きっといつまでもサンドバッグのままだった。
──朔也くんに会えて、本当によかったな……。
「ありがとう、朔也くん」
「俺は何もしてませんよ。ホテルやレストランを決めて予約したくらい。葉月さんが頑張ったんです」
ようやく笑顔になった葉月に朔也も微笑んだが、すぐにその眉が寄せられた。
「ですが、『絶対和解できる』と軽々しくは言えません。長年の問題ですし、解決にも時間がかかると思います」
「……うん、そうだね」
「でも、あの調子ならしばらくは高圧的にならないはず。お灸は据えられたんじゃないでしょうか」
朔也が顎に手をやり、手慣れた口調で評する。
その分野の専門家らしい冷静さは、なんとも頼りがいがあった。
「もしまだ攻撃してくるようであれば、今後は俺が出ます。葉月さんは十分戦った。あとはあなたの婚約者兼、顧問弁護士に任せてください。もう何も心配ありませんから」
「ありがとう、心強いな。婚約者兼、弁護士兼、私のヒーローだね」
「光栄です。赤い服でも買おうかな」
「ふふっ」
冗談を言って励ましてくれる朔也の優しさに、緊張がほどけていく。
「本当にお疲れ様でした、葉月さん。頑張りましたね」
朔也は葉月の手を取り、微笑んだ。
愛情のこもった眼差しや、そっと手を包んでくれる温かさに、溜まった疲労さえも溶けて消えてしまう。
「せっかくですし、ちょっと休んでいきませんか。ここの焼きたてスフレは絶品らしいですよ。俺も食べたいと思ってたんです」
「えっ! そうなの?」
ぱっと表情を明るくした葉月に、朔也が楽しそうに頷く。
葉月は辺りを見回した。
ベージュとブラウンが基調の広大なロビー。
その中央には噴水に似た大きな装花が飾られ、奥には舞台のセットのような赤絨毯の大階段があった。
大理石の床と柱はぴかぴかに磨き込まれ、二階分はある高い天井からはモダン風のシャンデリアがぶら下がっている。
ベルボーイや客たちが出入りしているが慌ただしい印象はまったくなく、冷静になって見ればとても美しく上品なホテルだ。
──あ……朔也くんが言ってたの、あのお店かな?
向こうにソファが並んだカフェラウンジを発見し、葉月はますます顔をほころばせた。
「調べてくれたんだね、すごく嬉しいよ。さっそく行こっか」
「はい」
朔也が葉月の手を引いて歩き出す。
しかし、なぜか彼の足はカフェラウンジではなく、エレベーターホールへ向かった。
「あれっ、朔也くん、あっちじゃないの?」
「いえ、こちらで合ってますよ」
朔也がにやりと笑い、スーツのジャケットの内ポケットから何かを取り出す。
薄くて小さな白いカード──このホテルのルームキーだ。
「スフレはルームサービスで頼みましょう」
「えっ……!?」
驚きに絶句する葉月を、朔也はエレベーターの中へ連れ込んだ。
彼の指が、最上階へのボタンを押す。
「話し合いで疲れた葉月さんがすぐ休める場所が必要だと思って、一泊取っといたんです」
「そ、そんな理由で……!?」
「ええ。俺、葉月さん大好きなので」
さらっと告げられた言葉に葉月は目を瞬かせ、頬を赤らめた。
一流ホテルの最上階客室。スイートルーム。
縁がなかったので具体的な金額はわからないが、とんでもない贈り物をされたのはわかる。
「……それに、顔合わせも済んでやっと正式に婚約できると思うと嬉しくて。明日は葉月さんも俺も休みだし、ゆっくりしていきましょう」
「朔也くん……ありがとう」
「おいで、葉月さん」
軽く手を引かれ、葉月はおずおずと朔也に体を寄せた。
たくましい腕に抱かれて、頭を優しく撫でられる。
「頑張った葉月さんを、いっぱい甘やかさせてください」
低く囁く声は、逆にどこか甘えるようでもあった。
スーツ越しでも伝わる朔也の体温や、ほのかに立ち上るシトラスの香りまでもが、葉月の心をとろけさせていく。
「いいでしょ?」
額に口づけてから微笑まれ、ドキッと鼓動が跳ねた。
「うん──あっ、駄目だよ」
葉月は無意識に頷きかけたが、ここがエレベーターの中だと思い出し、慌てて朔也から離れた。
だが朔也はますます笑みを深めて葉月に近づき、壁際まで追い込んでくる。
「さ、朔也くん、ほんとに駄目。誰か入ってくるかも」
「スリルあっていいじゃないですか」
「よくない……っ」
「葉月さんは可愛いですね」
仕様上、最上階へ向かうエレベーターが途中で誰かに止められることはないが、葉月はそれを知らない。
知っているが言わない朔也は、壁を背にした葉月の顔の隣に手をつき、屈んできた。
「ん、っ……」
唇を奪われ、思わず目を閉じる。
瞼を開くと、朔也がすぐそばで楽しげに葉月を見つめていた。
表情こそ意地悪だが、その眼差しには深い愛情と包容力が感じられる。
視線がぶつかった瞬間、葉月の体の奥が甘く疼いた。
「可愛いから、何だってしてあげます。してほしいことがあったら言ってくださいね」
朔也が心底愛おしそうに囁き、葉月の髪を梳く。
もう片手の指先がスーツのネクタイを緩めたのが色っぽくて、どんどん鼓動が速まっていった。
普段の生真面目さとはまた違う一面にときめいて、もっともっと朔也を好きになってしまうのが止められない。
「顔、真っ赤ですね。暑い?」
「っ、え、ええと……」
「……ふふ。ねえ、葉月さん。してほしいこと、言ってくれなきゃわかりませんよ」
朔也が目を細め、小さく笑い声を漏らす。
その表情や声に再びゾクッとして、葉月は下半身から力が抜けそうになった。
朔也の大きな掌が葉月の腰を支えてくれる。そのまま抱き込まれ、ますます互いの体が密着した。
「さ、朔也くん、私……」
「何ですか?」
「……キス、してほしい……」
「はい。いいですよ」
ちゅ、と朔也が可愛らしい音を立てて葉月の唇をついばみ、それだけで顔を離す。
「え……」
「何でしょう?」
物足りなくて戸惑い、葉月は潤んだ目で朔也を見上げた。
朔也も葉月を見つめながら、唇の端を上げている。
「もっとしてほしい?」
耳元に顔を寄せて吐息混じりに囁かれ、葉月の肩がびくりと跳ねた。
「わかりました」と朔也がさらに葉月を抱き寄せる。
そのとき、チン、とエレベーターのベルが鳴った。
「はは、到着。野暮なエレベーターだ」
朔也が唇へ軽く口づけてから体を離し、葉月の髪を整えてくれる。
切なくてつい朔也を視線で追っていると、彼はにっこり笑ってもう一度耳元に口を近づけてきた。
「そんな顔しないでください。部屋に入ったらすぐ、いーっぱいしてあげますから」
内緒話するようにひそめた声で予告され、繋いだ手を引かれる。
葉月はかっと体が熱くなった。
すっかり大人しくなった母をホテルのロビーで見送ったあと、葉月は一気に脱力した。
「お疲れ様でした、葉月さん」
隣に立っていた朔也がねぎらうように葉月の肩を叩く。
「朔也くんもお疲れ様。ごめんね、あんなところ見せて」
「いえ、仕事柄慣れてますし。それに、かっこいい葉月さんが見られてよかったです」
「かっこいい……?」
「はい。スカッとしましたよ」
朔也の言葉に、葉月は母に初めてぶつかっていった自分を思い出した。
反発したらひどい目に遭う、と昔から怯えていたが、やってみれば意外と大したことはないものだ。
──でも、もし「私も変わろう」って思えてなかったら、きっといつまでもサンドバッグのままだった。
──朔也くんに会えて、本当によかったな……。
「ありがとう、朔也くん」
「俺は何もしてませんよ。ホテルやレストランを決めて予約したくらい。葉月さんが頑張ったんです」
ようやく笑顔になった葉月に朔也も微笑んだが、すぐにその眉が寄せられた。
「ですが、『絶対和解できる』と軽々しくは言えません。長年の問題ですし、解決にも時間がかかると思います」
「……うん、そうだね」
「でも、あの調子ならしばらくは高圧的にならないはず。お灸は据えられたんじゃないでしょうか」
朔也が顎に手をやり、手慣れた口調で評する。
その分野の専門家らしい冷静さは、なんとも頼りがいがあった。
「もしまだ攻撃してくるようであれば、今後は俺が出ます。葉月さんは十分戦った。あとはあなたの婚約者兼、顧問弁護士に任せてください。もう何も心配ありませんから」
「ありがとう、心強いな。婚約者兼、弁護士兼、私のヒーローだね」
「光栄です。赤い服でも買おうかな」
「ふふっ」
冗談を言って励ましてくれる朔也の優しさに、緊張がほどけていく。
「本当にお疲れ様でした、葉月さん。頑張りましたね」
朔也は葉月の手を取り、微笑んだ。
愛情のこもった眼差しや、そっと手を包んでくれる温かさに、溜まった疲労さえも溶けて消えてしまう。
「せっかくですし、ちょっと休んでいきませんか。ここの焼きたてスフレは絶品らしいですよ。俺も食べたいと思ってたんです」
「えっ! そうなの?」
ぱっと表情を明るくした葉月に、朔也が楽しそうに頷く。
葉月は辺りを見回した。
ベージュとブラウンが基調の広大なロビー。
その中央には噴水に似た大きな装花が飾られ、奥には舞台のセットのような赤絨毯の大階段があった。
大理石の床と柱はぴかぴかに磨き込まれ、二階分はある高い天井からはモダン風のシャンデリアがぶら下がっている。
ベルボーイや客たちが出入りしているが慌ただしい印象はまったくなく、冷静になって見ればとても美しく上品なホテルだ。
──あ……朔也くんが言ってたの、あのお店かな?
向こうにソファが並んだカフェラウンジを発見し、葉月はますます顔をほころばせた。
「調べてくれたんだね、すごく嬉しいよ。さっそく行こっか」
「はい」
朔也が葉月の手を引いて歩き出す。
しかし、なぜか彼の足はカフェラウンジではなく、エレベーターホールへ向かった。
「あれっ、朔也くん、あっちじゃないの?」
「いえ、こちらで合ってますよ」
朔也がにやりと笑い、スーツのジャケットの内ポケットから何かを取り出す。
薄くて小さな白いカード──このホテルのルームキーだ。
「スフレはルームサービスで頼みましょう」
「えっ……!?」
驚きに絶句する葉月を、朔也はエレベーターの中へ連れ込んだ。
彼の指が、最上階へのボタンを押す。
「話し合いで疲れた葉月さんがすぐ休める場所が必要だと思って、一泊取っといたんです」
「そ、そんな理由で……!?」
「ええ。俺、葉月さん大好きなので」
さらっと告げられた言葉に葉月は目を瞬かせ、頬を赤らめた。
一流ホテルの最上階客室。スイートルーム。
縁がなかったので具体的な金額はわからないが、とんでもない贈り物をされたのはわかる。
「……それに、顔合わせも済んでやっと正式に婚約できると思うと嬉しくて。明日は葉月さんも俺も休みだし、ゆっくりしていきましょう」
「朔也くん……ありがとう」
「おいで、葉月さん」
軽く手を引かれ、葉月はおずおずと朔也に体を寄せた。
たくましい腕に抱かれて、頭を優しく撫でられる。
「頑張った葉月さんを、いっぱい甘やかさせてください」
低く囁く声は、逆にどこか甘えるようでもあった。
スーツ越しでも伝わる朔也の体温や、ほのかに立ち上るシトラスの香りまでもが、葉月の心をとろけさせていく。
「いいでしょ?」
額に口づけてから微笑まれ、ドキッと鼓動が跳ねた。
「うん──あっ、駄目だよ」
葉月は無意識に頷きかけたが、ここがエレベーターの中だと思い出し、慌てて朔也から離れた。
だが朔也はますます笑みを深めて葉月に近づき、壁際まで追い込んでくる。
「さ、朔也くん、ほんとに駄目。誰か入ってくるかも」
「スリルあっていいじゃないですか」
「よくない……っ」
「葉月さんは可愛いですね」
仕様上、最上階へ向かうエレベーターが途中で誰かに止められることはないが、葉月はそれを知らない。
知っているが言わない朔也は、壁を背にした葉月の顔の隣に手をつき、屈んできた。
「ん、っ……」
唇を奪われ、思わず目を閉じる。
瞼を開くと、朔也がすぐそばで楽しげに葉月を見つめていた。
表情こそ意地悪だが、その眼差しには深い愛情と包容力が感じられる。
視線がぶつかった瞬間、葉月の体の奥が甘く疼いた。
「可愛いから、何だってしてあげます。してほしいことがあったら言ってくださいね」
朔也が心底愛おしそうに囁き、葉月の髪を梳く。
もう片手の指先がスーツのネクタイを緩めたのが色っぽくて、どんどん鼓動が速まっていった。
普段の生真面目さとはまた違う一面にときめいて、もっともっと朔也を好きになってしまうのが止められない。
「顔、真っ赤ですね。暑い?」
「っ、え、ええと……」
「……ふふ。ねえ、葉月さん。してほしいこと、言ってくれなきゃわかりませんよ」
朔也が目を細め、小さく笑い声を漏らす。
その表情や声に再びゾクッとして、葉月は下半身から力が抜けそうになった。
朔也の大きな掌が葉月の腰を支えてくれる。そのまま抱き込まれ、ますます互いの体が密着した。
「さ、朔也くん、私……」
「何ですか?」
「……キス、してほしい……」
「はい。いいですよ」
ちゅ、と朔也が可愛らしい音を立てて葉月の唇をついばみ、それだけで顔を離す。
「え……」
「何でしょう?」
物足りなくて戸惑い、葉月は潤んだ目で朔也を見上げた。
朔也も葉月を見つめながら、唇の端を上げている。
「もっとしてほしい?」
耳元に顔を寄せて吐息混じりに囁かれ、葉月の肩がびくりと跳ねた。
「わかりました」と朔也がさらに葉月を抱き寄せる。
そのとき、チン、とエレベーターのベルが鳴った。
「はは、到着。野暮なエレベーターだ」
朔也が唇へ軽く口づけてから体を離し、葉月の髪を整えてくれる。
切なくてつい朔也を視線で追っていると、彼はにっこり笑ってもう一度耳元に口を近づけてきた。
「そんな顔しないでください。部屋に入ったらすぐ、いーっぱいしてあげますから」
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