お久しぶりです。俺と偽装婚約してもらいます。~年下ワケあり生真面目弁護士と湯けむり婚前旅行~
26. 本物のあなたと
自分の肌から朔也の香りがする。
葉月が目覚めても、甘い夢は続いていた。
温かくて、とろけるほど心地いい。葉月は大きなベッドで、愛おしい人と同じ布団にくるまっていた。
今は夕方、なのだろうか。障子越しの外は薄暗く、寝室は照明の淡い光にぼんやりと照らされている。
朔也は隣で瞼を閉じ、葉月に腕枕をしてくれていた。
葉月と同じく裸で、眼鏡はない。
無防備さが可愛いが、落ちて顔にかかった前髪や伏せられた長い睫毛からは事後の色香が漂っていた。
見とれていると、ぱっと彼の目が開く。どうやら眠ってはいなかったようだ。
「おはようございます」
「うん……おはよう」
朔也の柔らかい微笑みに、彼と結ばれたのは現実なのだと再び喜びが湧き上がる。
葉月は大きな掌に背中を支えられて起き、朔也と一緒に水を飲んだ。
たくさん声が出てしまったせいか思ったより喉が渇いていて、体に水分が染み渡っていく。
「体、大丈夫ですか」
「ありがとう、全然大丈夫だよ。朔也くんがいっぱい優しくしてくれたから」
「ちょっとがっついた気もしますけど」
「……っ、そ、それも、嬉しかった」
「ふふっ、そういうこと言うとまた食べちゃいますよ」
「えっ」
「冗談です。もう無茶させません」
朔也は照れつつも、葉月を抱き寄せて自分の肩に頭を乗せさせた。
汗をかいた素肌同士が触れ合ってぺたりとくっつく。不快なはずのその感触が、なぜかとても幸せだった。
「……葉月さん、めちゃくちゃ可愛かったです」
「も、もう、さっきもいっぱい言ってくれたのに……」
「何度言ったっていいでしょう? 事実確認は大切ですから」
心が通じ合ったあとの慈しむような交わりは、驚くほど気持ちよかった。
終わってしばらく経った今でも、まだ快感の炎が体の芯に灯っているようだ。
「ああ……でも、訂正します。『可愛かった』じゃない。今も可愛い」
「朔也くん、からかわないで……」
「本心ですよ。恥ずかしがってるところも可愛い。ものすごく、かなり、とっても」
朔也の手が葉月の髪を撫で下ろし、そのままじゃれるように指の背で頬を撫でる。
怜悧な美貌をとろんと緩めて微笑む朔也を見て、葉月はくすぐったいほど甘い気分になった。
──朔也くんが、こんな顔するなんて……。
「ん……」
温かくて柔らかな朔也の唇を唇で感じる。
体の中いっぱいに幸福感が広がって、つい泣いてしまいそうだった。
「葉月さん」
朔也が優しく葉月の左手を取る。
彼はいつの間にか、とても真剣な表情をしていた。
そして、葉月が書斎へ置いていった偽りの婚約指輪がもう片手に握られている。
「今度は本当の意味で、この指輪をもらってください」
葉月は目を見開いた。
また幸せが弾け、熱いものが胸の奥からこみ上げる。
「……うん……! ありがとう。私も朔也くんの本当の婚約者になりたい」
「ありがとうございます」
葉月が涙を堪えながら笑うと、朔也も万感の思いがこもった微笑みを浮かべ、左手の薬指に指輪をはめてくれた。
プラチナの台座に敷き詰められた、大小のダイヤモンド。
同じもののはずなのに、以前よりもきらきら輝いているように見える。
「綺麗……」
「そうですね。あなたに本当に似合う」
「ねえ、これはやっぱり……昔くれた指輪に似たのを選んだの?」
葉月はサイドチェストに置いてあったお守りの指輪を手に取り、それらを見比べてみた。
おもちゃとジュエリーの差はもちろんあるが、雰囲気が似ている気がする。
「ええ、まあ。勝手に決めてしまってすみません。これはいわくつきでもありますし、改めてもう一つ別の……」
「だ、大丈夫だよ。私もこの指輪大好きだから、これだけで十分。朔也くんが似たのを選んでくれたのかなって思ったときも、すごく嬉しかったし」
申し訳なさそうな朔也に本気だと悟り、葉月は慌てて彼を止めた。
それからおもちゃの指輪を見下ろし、愛情を込めて撫でる。
「これね、ずっとお守りにしてたんだ。つらいときに見ると幸せだったことを思い出せるから」
「……葉月さんもそうだったんですね。俺もドラゴンレッドで似たようなことをしてました」
「そうだったんだ。ふふっ、おそろいだね」
掌の中で優しく転がすと、指輪が鈍く光る。
補修の跡が残るくすんだ銀メッキ。欠けたダイヤ。
大切に扱ってはきたが、十四年も持ち歩いているからかなりくたびれている。
「私、ずいぶんこの指輪に助けてもらっちゃった。むしろ頼りにしすぎてたのかも。つらいことがあっても、過去ばかり見てた」
「葉月さん……」
「もう、休ませてあげようかな」
感謝を込めて指輪をそっと握り、胸元に寄せる。
朔也はそんな葉月を眩しげに目を細めて見つめ、微笑んだ。
「……そうですね。俺もいいかげんドラゴンレッドに休暇をあげないと。働かせすぎましたよ、塗装も剥げるほどに」
冗談に二人で笑い合う。
それが収まったあと、朔也は再び真面目な表情になって葉月の手を取った。
「葉月さんとの思い出が俺を支えてくれてました。でもこれからは思い出じゃなくて、本物のあなたと支え合って生きていきたい」
「……うん。私も同じ気持ちだよ」
見つめ合うと、それだけで力や勇気が湧いてくる。
以前は不安でしかなかった未来も明るく思えて、もうお守りにすがりつかなくても大丈夫だと確信できた。
「これから俺は自分のしでかしたことの後始末をします。いろいろやりましたから、報いを受けることになるかもしれません。でも、あなたがいてくれたら立ち向かえる。もう逃げない」
朔也の凜々しく力強い瞳に、胸が熱くなる。
「私も逃げない。ずっと朔也くんのそばにいるよ。一緒に頑張ろうね」
「はい。ずっと一緒です」
抱きしめられ、葉月も朔也の背中に手を回した。
朔也の体温や息遣い、石鹸と彼自身の香り。それらすべてが葉月を温かな幸せで包んでくれる。
──二人でいれば、何だってできる。そうだよね、朔也くん……。
しばらくそのまま浸っていたら、ぐう、と突然葉月の腹が鳴った。
「……ごめん」
「ふっ、ふふ……」
いい雰囲気をぶち壊してしまって顔を赤くする葉月に、朔也が肩を震わせて笑う。
「すごいですね、葉月さんは」
「ほ、ほんとにごめん……」
「駄目ですよ、謝らないでください。からかってるわけじゃなくて本気です。あなたは勇気だけじゃなくて元気までくれる」
朔也がまだ笑いながらぎゅっと抱きしめてくる。
再会した直後からは考えられない、美貌を崩してまでの心底楽しそうな笑顔。
そんな表情をされたら、恥ずかしいのに許してしまうし、見とれてしまう。
「まずは一緒に夕飯食いましょう。葉月さんは可愛いので俺のデザート譲ってあげます」
「えっ! い、いいよ、ここの料理本当においしいし、朔也くんも食べなきゃもったいないよ」
「可愛い反応ですね。明日の朝食のデザートもあげます」
「さ、朔也くん……っ」
甘やかされて戸惑う葉月の頬を、朔也がますます上機嫌で撫でる。
窓の外がすっかり暗くなってしまっても、二人はずっとその調子だった。
葉月が目覚めても、甘い夢は続いていた。
温かくて、とろけるほど心地いい。葉月は大きなベッドで、愛おしい人と同じ布団にくるまっていた。
今は夕方、なのだろうか。障子越しの外は薄暗く、寝室は照明の淡い光にぼんやりと照らされている。
朔也は隣で瞼を閉じ、葉月に腕枕をしてくれていた。
葉月と同じく裸で、眼鏡はない。
無防備さが可愛いが、落ちて顔にかかった前髪や伏せられた長い睫毛からは事後の色香が漂っていた。
見とれていると、ぱっと彼の目が開く。どうやら眠ってはいなかったようだ。
「おはようございます」
「うん……おはよう」
朔也の柔らかい微笑みに、彼と結ばれたのは現実なのだと再び喜びが湧き上がる。
葉月は大きな掌に背中を支えられて起き、朔也と一緒に水を飲んだ。
たくさん声が出てしまったせいか思ったより喉が渇いていて、体に水分が染み渡っていく。
「体、大丈夫ですか」
「ありがとう、全然大丈夫だよ。朔也くんがいっぱい優しくしてくれたから」
「ちょっとがっついた気もしますけど」
「……っ、そ、それも、嬉しかった」
「ふふっ、そういうこと言うとまた食べちゃいますよ」
「えっ」
「冗談です。もう無茶させません」
朔也は照れつつも、葉月を抱き寄せて自分の肩に頭を乗せさせた。
汗をかいた素肌同士が触れ合ってぺたりとくっつく。不快なはずのその感触が、なぜかとても幸せだった。
「……葉月さん、めちゃくちゃ可愛かったです」
「も、もう、さっきもいっぱい言ってくれたのに……」
「何度言ったっていいでしょう? 事実確認は大切ですから」
心が通じ合ったあとの慈しむような交わりは、驚くほど気持ちよかった。
終わってしばらく経った今でも、まだ快感の炎が体の芯に灯っているようだ。
「ああ……でも、訂正します。『可愛かった』じゃない。今も可愛い」
「朔也くん、からかわないで……」
「本心ですよ。恥ずかしがってるところも可愛い。ものすごく、かなり、とっても」
朔也の手が葉月の髪を撫で下ろし、そのままじゃれるように指の背で頬を撫でる。
怜悧な美貌をとろんと緩めて微笑む朔也を見て、葉月はくすぐったいほど甘い気分になった。
──朔也くんが、こんな顔するなんて……。
「ん……」
温かくて柔らかな朔也の唇を唇で感じる。
体の中いっぱいに幸福感が広がって、つい泣いてしまいそうだった。
「葉月さん」
朔也が優しく葉月の左手を取る。
彼はいつの間にか、とても真剣な表情をしていた。
そして、葉月が書斎へ置いていった偽りの婚約指輪がもう片手に握られている。
「今度は本当の意味で、この指輪をもらってください」
葉月は目を見開いた。
また幸せが弾け、熱いものが胸の奥からこみ上げる。
「……うん……! ありがとう。私も朔也くんの本当の婚約者になりたい」
「ありがとうございます」
葉月が涙を堪えながら笑うと、朔也も万感の思いがこもった微笑みを浮かべ、左手の薬指に指輪をはめてくれた。
プラチナの台座に敷き詰められた、大小のダイヤモンド。
同じもののはずなのに、以前よりもきらきら輝いているように見える。
「綺麗……」
「そうですね。あなたに本当に似合う」
「ねえ、これはやっぱり……昔くれた指輪に似たのを選んだの?」
葉月はサイドチェストに置いてあったお守りの指輪を手に取り、それらを見比べてみた。
おもちゃとジュエリーの差はもちろんあるが、雰囲気が似ている気がする。
「ええ、まあ。勝手に決めてしまってすみません。これはいわくつきでもありますし、改めてもう一つ別の……」
「だ、大丈夫だよ。私もこの指輪大好きだから、これだけで十分。朔也くんが似たのを選んでくれたのかなって思ったときも、すごく嬉しかったし」
申し訳なさそうな朔也に本気だと悟り、葉月は慌てて彼を止めた。
それからおもちゃの指輪を見下ろし、愛情を込めて撫でる。
「これね、ずっとお守りにしてたんだ。つらいときに見ると幸せだったことを思い出せるから」
「……葉月さんもそうだったんですね。俺もドラゴンレッドで似たようなことをしてました」
「そうだったんだ。ふふっ、おそろいだね」
掌の中で優しく転がすと、指輪が鈍く光る。
補修の跡が残るくすんだ銀メッキ。欠けたダイヤ。
大切に扱ってはきたが、十四年も持ち歩いているからかなりくたびれている。
「私、ずいぶんこの指輪に助けてもらっちゃった。むしろ頼りにしすぎてたのかも。つらいことがあっても、過去ばかり見てた」
「葉月さん……」
「もう、休ませてあげようかな」
感謝を込めて指輪をそっと握り、胸元に寄せる。
朔也はそんな葉月を眩しげに目を細めて見つめ、微笑んだ。
「……そうですね。俺もいいかげんドラゴンレッドに休暇をあげないと。働かせすぎましたよ、塗装も剥げるほどに」
冗談に二人で笑い合う。
それが収まったあと、朔也は再び真面目な表情になって葉月の手を取った。
「葉月さんとの思い出が俺を支えてくれてました。でもこれからは思い出じゃなくて、本物のあなたと支え合って生きていきたい」
「……うん。私も同じ気持ちだよ」
見つめ合うと、それだけで力や勇気が湧いてくる。
以前は不安でしかなかった未来も明るく思えて、もうお守りにすがりつかなくても大丈夫だと確信できた。
「これから俺は自分のしでかしたことの後始末をします。いろいろやりましたから、報いを受けることになるかもしれません。でも、あなたがいてくれたら立ち向かえる。もう逃げない」
朔也の凜々しく力強い瞳に、胸が熱くなる。
「私も逃げない。ずっと朔也くんのそばにいるよ。一緒に頑張ろうね」
「はい。ずっと一緒です」
抱きしめられ、葉月も朔也の背中に手を回した。
朔也の体温や息遣い、石鹸と彼自身の香り。それらすべてが葉月を温かな幸せで包んでくれる。
──二人でいれば、何だってできる。そうだよね、朔也くん……。
しばらくそのまま浸っていたら、ぐう、と突然葉月の腹が鳴った。
「……ごめん」
「ふっ、ふふ……」
いい雰囲気をぶち壊してしまって顔を赤くする葉月に、朔也が肩を震わせて笑う。
「すごいですね、葉月さんは」
「ほ、ほんとにごめん……」
「駄目ですよ、謝らないでください。からかってるわけじゃなくて本気です。あなたは勇気だけじゃなくて元気までくれる」
朔也がまだ笑いながらぎゅっと抱きしめてくる。
再会した直後からは考えられない、美貌を崩してまでの心底楽しそうな笑顔。
そんな表情をされたら、恥ずかしいのに許してしまうし、見とれてしまう。
「まずは一緒に夕飯食いましょう。葉月さんは可愛いので俺のデザート譲ってあげます」
「えっ! い、いいよ、ここの料理本当においしいし、朔也くんも食べなきゃもったいないよ」
「可愛い反応ですね。明日の朝食のデザートもあげます」
「さ、朔也くん……っ」
甘やかされて戸惑う葉月の頬を、朔也がますます上機嫌で撫でる。
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