お久しぶりです。俺と偽装婚約してもらいます。~年下ワケあり生真面目弁護士と湯けむり婚前旅行~
9. どれでもいいなら自動的にコーラです(1)
窓の外を流れる青い空。
ひたすら続く高速道路の白いフェンスと灰色のアスファルト。
衝撃的な再会から一ヶ月が過ぎ、葉月は偽装婚約のお披露目の場──雨宮家の家族旅行へ向かっていた。
──ああ……気まずい……。
ラジオの音声だけが薄く流れる、朔也の車に乗って。
──そうだよね、あの日以来会ってなかったし、怒らせたまま別れちゃったし。私と話したくないのかも。
葉月は相変わらずちり一つない助手席で縮こまりつつ、隣で運転している朔也に視線をやった。
彼は紺色のジャケットを羽織り、白いシャツにベージュのチノパンツを合わせている。眼鏡は前回と違うカジュアルなデザインのものだった。
スーツも似合っていたが、私服の爽やかさも魅力的だ。
ずっと険しい顔でフロントガラスの向こうを睨んでいる朔也にそんなことはとても言えないが。
「……葉月さん、サービスエリア入ります。ちょっと休憩しましょう」
「う、うん。ありがとう」
一時間ぶりの会話に若干挙動不審になってしまう。
大きな屋外駐車場に停まり、葉月は車から降りて伸びをした。
春の午前中のまだ冷たく澄んだ空気に、普段の生活圏ではお目にかかれない広々とした空間。
緊張の反動か、一気に体と心がほぐれていく。
「──っ、危ない」
駐車場を横切って売店へ行こうとしたところで、後ろから朔也が葉月の手首を掴んだ。
「あ……」
目の前を車が走っていって、かばわれたのだと遅れて察する。
「ごめん、朔也くん!」
葉月は慌てて振り向き、朔也を見上げた。
ほっとしたのか、朔也の強張っていた顔が少し緩む。
「いえ……無事で何よりです。一緒に行きましょう」
「あ、ありがとう」
また勝手にどこかへ行くと思っているのか、朔也は葉月の手を握ったままだった。
隣にぴったり張り付いて、車が来ないか注意深く見回しながら売店まで連れていってくれる。
──うわ、ま、守られちゃってる……彼氏ってこんな感じなのかな……。
並んで歩くと、改めて朔也の背の高さや体格の良さを感じてしまう。
胸がドキドキしたが、こんなことになったのは自分が頼りないせいだと気づいて葉月は恥ずかしくなった。
「十五分後にここで集合です」
「うん、わかった」
ひなびたコンビニエンスストアにたどり着き、手を離される。
売店エリアは庶民的な雰囲気だった。
コンビニの外壁に沿って軽食の出店がいくつかあり、そちらのほうが人気なのか行列ができている。
焼き鳥、たこ焼き、五平餅、ソフトクリーム、パン……どれもおいしそうだ。
「葉月さん」
「わっ! ごめん、サービスエリアなんて久々だからつい」
「……あなたを見てると、気が抜けるのにハラハラします。車にひかれないでくださいね。あと、迷子になってたらアナウンスで呼びます」
「だ、大丈夫だよ」
無表情なので本気なのか冗談なのかわからないが、朔也は葉月が思った以上に心配しているようだ。
──駄目だ、私のほうが年上なんだしもっと頑張らないと。そもそも朔也くんを助けたくて旅行に来たんだし。
──会話が弾まないなら、自分から盛り上げるくらいの気概を持って……!
葉月はひそかに決意しつつ、朔也と一旦別れた。
ひたすら続く高速道路の白いフェンスと灰色のアスファルト。
衝撃的な再会から一ヶ月が過ぎ、葉月は偽装婚約のお披露目の場──雨宮家の家族旅行へ向かっていた。
──ああ……気まずい……。
ラジオの音声だけが薄く流れる、朔也の車に乗って。
──そうだよね、あの日以来会ってなかったし、怒らせたまま別れちゃったし。私と話したくないのかも。
葉月は相変わらずちり一つない助手席で縮こまりつつ、隣で運転している朔也に視線をやった。
彼は紺色のジャケットを羽織り、白いシャツにベージュのチノパンツを合わせている。眼鏡は前回と違うカジュアルなデザインのものだった。
スーツも似合っていたが、私服の爽やかさも魅力的だ。
ずっと険しい顔でフロントガラスの向こうを睨んでいる朔也にそんなことはとても言えないが。
「……葉月さん、サービスエリア入ります。ちょっと休憩しましょう」
「う、うん。ありがとう」
一時間ぶりの会話に若干挙動不審になってしまう。
大きな屋外駐車場に停まり、葉月は車から降りて伸びをした。
春の午前中のまだ冷たく澄んだ空気に、普段の生活圏ではお目にかかれない広々とした空間。
緊張の反動か、一気に体と心がほぐれていく。
「──っ、危ない」
駐車場を横切って売店へ行こうとしたところで、後ろから朔也が葉月の手首を掴んだ。
「あ……」
目の前を車が走っていって、かばわれたのだと遅れて察する。
「ごめん、朔也くん!」
葉月は慌てて振り向き、朔也を見上げた。
ほっとしたのか、朔也の強張っていた顔が少し緩む。
「いえ……無事で何よりです。一緒に行きましょう」
「あ、ありがとう」
また勝手にどこかへ行くと思っているのか、朔也は葉月の手を握ったままだった。
隣にぴったり張り付いて、車が来ないか注意深く見回しながら売店まで連れていってくれる。
──うわ、ま、守られちゃってる……彼氏ってこんな感じなのかな……。
並んで歩くと、改めて朔也の背の高さや体格の良さを感じてしまう。
胸がドキドキしたが、こんなことになったのは自分が頼りないせいだと気づいて葉月は恥ずかしくなった。
「十五分後にここで集合です」
「うん、わかった」
ひなびたコンビニエンスストアにたどり着き、手を離される。
売店エリアは庶民的な雰囲気だった。
コンビニの外壁に沿って軽食の出店がいくつかあり、そちらのほうが人気なのか行列ができている。
焼き鳥、たこ焼き、五平餅、ソフトクリーム、パン……どれもおいしそうだ。
「葉月さん」
「わっ! ごめん、サービスエリアなんて久々だからつい」
「……あなたを見てると、気が抜けるのにハラハラします。車にひかれないでくださいね。あと、迷子になってたらアナウンスで呼びます」
「だ、大丈夫だよ」
無表情なので本気なのか冗談なのかわからないが、朔也は葉月が思った以上に心配しているようだ。
──駄目だ、私のほうが年上なんだしもっと頑張らないと。そもそも朔也くんを助けたくて旅行に来たんだし。
──会話が弾まないなら、自分から盛り上げるくらいの気概を持って……!
葉月はひそかに決意しつつ、朔也と一旦別れた。
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