fluch

おっしゃマン

徴税官ユルゲン・ザイファート

 はっとして顔を上げた。最初に目に飛び込んできたのが微笑をたたえた中年の男だった事は今でもよく覚えている。それが、我が主の肖像画であると理解するには、控えていたメイドの呼びかけが必要だった。しかも三回も!!

「ザイファート様、領主様がお呼びです。」

 私は前の日の晩、自身の執務室で眠ってしまったらしい。ぐっと、伸びをした。窓から差し込む朝日が私の重い体を抱え起こしたからか、掌が太陽に届きそうな感覚を覚えた。このまま太陽を取り込んで、私の中から曇り空を追い出したい―、天井を見上げ、思う。

「ザイファート様、、、?」

 メイドが落ち着きのない様子で呼びかける。見慣れない顔であるからして、おそらく新入りなのだろう。つい最近まで野原を走り回っていたような、そんな活力を感じさせる瞳だ。かすむ視界の中で異質な輝きを放つ2つのそれをしばらく楽しんでいたが、そうこうしているうちに彼女のあどけない顔は焦燥の色を濃くしていった。幼いメイドをこんなにせかすとは。我が主は余程の急用を私に言いつけるつもりらしい。そう思って、少々焦った節もある。彼女が持ってきたぬるま湯で顔を洗い、椅子にかかっていた上着を羽織るまでに、いつも以上の時間がかかったような気がした。

「領主様はどちらに?」

「先程は食堂で朝食をとられておりました、、、。」

「わかった、ありがとう。」

 朝食をとる余裕はあるらしい。従って、訃報の類ではなさそうだ。とすると、昨夜寝る間を惜しんで仕上げた報告書について尋ねられるのだろうか。であれば、資料を持ってこなかったのは失策だったか、、、。廊下を歩く私の思考は冴えつつあったが、すれ違う人が皆、不思議そうに私の顔を窺う原因にまでは気が回らなかった。おそらく独り言が漏れていたのだと気づいた時、私が食堂の扉をノックするのは時間の問題だった。

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