バッドエンドは全力でぶち壊す!

血迷ったトモ

第48話 理由

「…はぁ。雄貴君がそういう人って事は、分かってた筈なんだけどな。」

 泣いて怒って、ようやくスッキリしたのか、十分後には少しだけ落ち着いていた。

「そういう人って、どういう意味だよ?」

「そのまんまの意味だよ。優しくて、愚直で、不器用な人。」

「最初の2つは兎も角、不器用ってのは正しいな。」

 自身が不器用なのは、嫌という程、思い知っているので、苦笑いする。

 「優しくて愚直って事には、自覚が無いんだね。」

「うん、まぁね。仮にもし俺が優しく見えたのなら、それは自分自身の為の行動の結果だし、愚直…ってほど馬鹿正直には生きてきて無いからなぁ。俺、実は隠し事大量だよ?呆れるほど隠し事があるよ。」

 おどけた笑みを浮かべながら、冗談っぽく言う。この際なので、この程度の事は言うべきだと考えたのだ。

「え、そんなに隠し事が?い、意外だよ。で、でも、優しい人って事には、変わりは無いから!」

「お、おう?例えば、どんな所が?」

 グッと握りこぶしを作り、力強く言い放つ夏帆。どうしてそこまで言えるのか不思議なので、雄貴は首を傾げる。

「ほら、前にさ、何人かの女の子に告白されてたよね?」

「あ〜、うん、そうだね。それと、俺が優しいって話に関連ある?ただキッパリと振っただけだぞ?」

「関係あるよ。だって雄貴君さ、振った女の子が、その後どうなったかを暫く気にしてたよね?人に探りをいれたり、自分で確認しに行ったり。」

「ど、どうしてそれを…。俺、そんなに分かりやすく気にしてたか!?」

 確かに夏帆の言う通り、雄貴は振った女の子達を気にかけていた。

 振った直後は、それとなく追いかけて、危なそうなら直接声を掛けるか、人を使って1人にしないようにした。

 更には、後日それとなく気軽に話し掛けたりなんだりと、世話を焼いていた。

 まぁもっとも、大半は5秒で立ち直るような、心配無用な女の子達だったので、気に病んで損であったのだが。

「私が気が付いたのは、たまたまだったよ。校舎裏で告白されてて、それを見ちゃったんだけど、その後の雄貴君の行動があまりにも不自然でさ。その場から立ち去った女の子を、コッソリと追いかけて、で、友達の所に行ったのを確認して、ホッとしたように頷いてたよね。」

「…ガッツリ見られとるやん。」

 自身の不審者みたいな行動を、しっかり見られてしまい、ショックを受ける。

「何となくで、付き合っちゃう人とかも居たのに、馬鹿正直に真正面から断って、それで相手を気にかけて、変な人だな〜って最初は思ってたよ。」

「ド直球で心を抉ってる!」

「けど、底抜けに優しくて、良い人だなってさ。それが段々と分かってきて。だから、話せるようになった時は、結構嬉しかったの。」

「そ、そっか。」

 掛け値なしの夏帆の言葉に、むず痒さを感じてしまう。雄貴は確かに心配はしたが、本編開始後に、悪影響を及ぼす存在になり得るか等、そういう方面にも気を付ける意味もあったので、100%好意では無いのだ。

 それを馬鹿正直には告げられないので、互いに無言で、何とも言えない雰囲気になる。

「…少し、その優しさに甘えても良い?」

 またしても、沈黙を破ったのは、夏帆であった。……しかし、優しさに甘えるとは、どういう事だろうか。

「別に良いけど…。何をすれば良いんだ?」

 戸惑いながら雄貴は問い、そのまま夏帆の言われるがままになって動く。

 そしてそこから数分後には、夏帆の望む環境・・が整った。

「えっと…これは?」

 堤防に腰掛けた雄貴の隣に座り、肩が触れ合う距離まで近付く夏帆。

「これからちょっと嫌な事を話したいから、少しでも楽な体勢になりたくて。嫌だったかな?」

「い、いや、嫌じゃないよ。」

「ありがと。…うん、落ち着く。」

 ポスンと、夏帆が頭を雄貴の肩に預けて言う。

ーな、なんやこれ。こんな甘ったるい空気、おいちゃんには耐えられ無いって!ー

 夏帆から漂ってくる良い匂いに、精神的な何かがゴリゴリに削られてゆくのを感じる。

「えっと、それで、夏帆さんの話って?」

「…私がどうして生徒会に過剰反応した、だね。」

「……。」

 雄貴は黙る。何故なら、夏帆の事情をある程度知ってしまっている為、下手なことは言えないのだ。

 万が一口を滑らせて、本人しか知らないようなことを言ってしまったら、目をも当てられない。

 そんな雄貴の沈黙をどう捉えたかは分からないが、夏帆は静かに口を開く。

「私に兄が居るのは、知ってるよね?」

「…知ってるよ。」

 当然に・・・知っている。思わずそう答えそうになるが、グッと堪える。ゲーム内でのイベントにおいて、主人公がそう答えると、夏帆が酷い表情をしたのを、記憶しているからだ。

「私の兄、百田俊彦は、小さい頃からずっと優秀だったの。運動も勉強も得意で、性格も悪くない。贔屓目抜きにしても、顔も整ってる。そんな兄を、両親は可愛がってたわ。」

 感情が読めない無表情で語る夏帆。今までこんな様子は見たことが無い程だ。

 その尋常じゃない様子に、雄貴は思わず口を開いてしまう。

「夏帆さんは、お兄さんのことどう思ってる?」

「…好きだった・・・かな。幼心に、凄い人だって分かったし、とても優しかったし。」

 過去形で、懐かしむように言う。

「そっか…。話の腰を折ってごめん。」

「ううん。大丈夫だよ。今回の話にも関わる事だから。私は確かに昔は兄が好きだった。けど、両親が私と兄を比べて、『夏帆は出来が悪い』って言う度に、どんどん妬ましくなっていったわ。」

「……。」

 エピソードとしては知っていたが、いざ本人から言われると、言い様のない感情が湧いてくるのを感じる。

「…そして、私が中一の時、転機が訪れるわ。私に超能力が目覚めたの。その時思ったの。これで私と兄を見返してやれるってね。」

「でも、お兄さんも超能力に目覚めたと。」

「うん、そう。しかも、私よりも遥かに強力な、Sランクのね。その結果、両親からの評価は変わる事が無かったわ。だから、ネームバリューが欲しくて、生徒会に所属したかったの。これ以上、兄に差をつけられたくなくて。…どう?幻滅した?」

 自嘲の笑いを浮かべる夏帆。

 ー俺が夏帆をに対して幻滅する?そんな馬鹿な・・・・・・。ー

「はぁ…。」

  夏帆の言葉に、雄貴は溜息をついてから、口を開くのだった。

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