バッドエンドは全力でぶち壊す!

血迷ったトモ

第37話 誘拐?

 5月3日金曜日。4連休の最初の日に、朝早くからシンシアに突如呼び出しを受けた雄貴は、チャットで指示されるがまま行動し、電車に乗ったり車に乗ったりしてる内に、気が付いたら所謂、プライベートジェットと呼ばれる物に乗せられ、雲の上に居た。

 これはある意味、誘拐と言っても差し支え無いのではないか。

「…え、これ、どこ向かってんすか!?」

 今更、高度1万メートルで騒いだ所で遅いのだが、ついそう言わずにはいられなかった。

「あれ?チャットで言いませんでしたか?」

「いえ、聞いていませんが…。な、なぁ悠人・・達は何か聞いてない?」

 先に飛行機に乗っていた、悠人、由橘乃、夏帆の3人に聞いてみる。ゴールデンウィーク中に、こんなイベントが発生すると記憶していなかった雄貴は、もうすっかり頭の回転が落ちており、自分で答えに辿り着くのは不可能であると、早々に諦めたのだった。

「俺は沖縄・・に行くと聞いたぞ?最初は渋ったんだが、雄貴が行くと聞いてな。」

「は?沖縄?」

 あまりに突飛な目的地に、雄貴は目を点にして聞き返す。

 すると夏帆が、非常に楽しそうに笑顔で頷く。

「うんそう沖縄!先輩のお家の、別荘があるんだって!今から楽しみだね!」

「夏帆。そんなにはしゃいじゃ駄目よ?」

「は〜い、ごめんなさい由橘乃ちゃん。」

 何時の間に仲良くなったのか、大分親しげに話す由橘乃と夏帆。

「あ〜、その、雄貴君に声をかけたつもりになってて、今朝になって慌ててチャットを送ったんです。本当にごめんなさい。」

「…特に着替えも何も、準備してないんですが、向こうに、お店とかあるんですか?」

 言われるがままに来てしまった雄貴も雄貴なので、特に責める事無く聞く。

「あ、それなら、こちらで全て用意してるので、全く問題ありません。サイズはピッタリな筈です!」

「…ありがとうございます。何故俺のサイズを知ってるのかは、深くは聞かないようにします。」

「あははは…。」

 そっぽを向いて、誤魔化し笑いを浮かべるシンシア。流石は美少女。どんな表情でも見蕩れるほど可愛い。

「それにしても雄貴は、本当に何の準備も無しに来たのか?」

「え、あ、うん。まぁ、普通に都内行くとかなら、財布とスマホがあれば十分だと思ったから、それ以外は持って来て無いね。ま、一度は行ったことあるし、どうにかなるでしょ。」

 この世界に来てからは行った事が無いが、今の所は殆どの都市が同じ感じだったので、前の世界の同じ地理感覚で問題無いだろう。

「へ〜、雄貴君、行った事あるんだ?旅行?」

「んーまーそうだね。昔に個人でちょろっと行った事あるぐらい。というか、これは何の集まりなんだ?」

 ポロッと漏らしてしまった言葉を取り消さず、誤魔化す方向に向ける雄貴。というより、本当に何の集まりなのか、本気で気になっていたというのもある。

 本来の『ウラデリ』のストーリー内には、こんなイベントは無かった筈だ。だから、全くの未知の展開になっており、雄貴は完全に混乱していた。

「それは、私と由橘乃さんが、学校で話す機会があったから、今度の連休に、沖縄でもどうですかと誘ったのがきっかけです。」

「それで、せっかくだし、クラスで良く知ってる人と一緒の方が良いかと思って、アンタたちの名前を出したのよ。」

 ここで『仲の良い人』と言わないあたり、由橘乃の性格が分かるというものだろう。

 それは兎も角として、2人の話で何となく状況を察した雄貴。

「あ〜…なるほど。何となく理解出来たよ。」

 シートに深く腰掛ける。唐突に飛行機に乗せられる事になったが、旅行自体は楽しみなので、もう何も言う事は無かった。

「いきなりなのに、大分落ち着いてるな。」

「あ〜、まぁハチャメチャな状況には慣れてるから。気が付いたら、見知らぬ場所に居た事とかあるしな。それに比べれば、全然平気だよ。」

 笑いながら言う。気が付いたらゲーム世界におり、更には他人の身体に乗り移ってた雄貴は、大抵の状況は受け入れられるのだ。

「…雄貴は一体、どんな人生を送ってるんだよ?」

「そ、そうね。気が付いたら見知らぬ場所に居るとは、一体どんな状況下で起こるのよ?」

「ゆ、誘拐?誘拐された事があるの?」

「大丈夫だったのですか?」

 茶化して言ったつもりが、この場の全員から心配をされてしまった。

「い、いや、別に誘拐って訳じゃないから大丈夫だよ。さ、それよりも、今はどこ遊びに行こうか、ネットで調べようか。」

 深く突っ込まれると、色々とボロが出そうなので、スマホを開いて観光地の情報を収集する。

ーふ〜ん…やっぱ変わらんな。ま、適当に癒されつつ、この3人のメインヒロインと悠人をくっ付ける事に専念するか。ー

「むむ!何だか雄貴君が、変な顔してる〜!せっかくの旅行なんだから、もっと楽しそうにしないと!」

「むぐっ!」

 夏帆が、スマホに目を落としていた雄貴の顔を、ぐっと持ち上げ、両手で挟み込んでぐにぐにしてきた。

にゃにゃにしゅるんだなにするんだしゃっしゃとさっさとはにゃせ離せ。」

 夏帆の手をぽんぽんと叩きながら、必死にそう訴える。距離が近いので、離れてくれないと顔が赤くなってしまう。

 更に、唐突な行動のせいで、考えていた事が全部吹っ飛んでしまった。

「うん、やっと顔が元に戻った!正直さっきの顔は、あんまり好きじゃないよ。」

「…そんな顔してた?」

「「「「うん、してた (ました) (ぞ) (わ)」」」」

 夏帆の指摘に首を傾げると、この場の全員から一斉に頷かれてしまった。

ーえ、も、もしかして俺、結構顔に出るのか!?ー

 雄貴は愕然としてしまうのだった。

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