バッドエンドは全力でぶち壊す!

血迷ったトモ

第34話 縮まる距離

「うにゃあああ!?」

「ははは。物の見事にボロボロにされたね。」

 面白い叫び声と共に、撃沈した由橘乃を見て笑ってしまう。

「何よこの譜面!もう製作者は反省して爆発して!」

 よく音ゲーマーが叫ぶ事を、由橘乃も叫ぶ。どうやらこういう所は世界共通であるらしい。

「というかアンタもアンタよ!何あの手の動き!参考にならないじゃない!」

 笑っていたら、今度はこちらに飛び火してしまった。まぁ、雄貴の動きは明らかに人を止めてるレベルのものなので、こうなるのも当然であろう。

 というより、身体能力のリミッターが外れてる雄貴はまだしも、これを生身で完璧にクリア出来る奴が居るというのが、世界の恐ろしい所である。

 もうゴリラを超えて、神の領域に片足突っ込んでるまである。

「配信数時間で理論値叩き出すプレイヤー達が悪いんじゃないかな?」

 譜面難易度のインフレは、日に日に酷くなるばかりである。

「は〜、もう疲れたわ。腕がもうパンパンよ。」

 腕をぷるぷると振りながら言う。確かに由橘乃の細腕にはキツい、体力譜面だったろう。

「もう18:30だし、そろそろ帰ろうか。幾分か治安も悪くなるし、この間みたいに安曇さんに絡んで来るかもしれないし。」

「…そうね。絡まれてもアンタがどうにかしてくれそうだけど、面倒事は避けた方が良いわね。」

「おし、じゃあ帰ろうか。」

 そう言って、筐体の前から離れようとするが、何か言いたげな由橘乃が口を開いた。

「あ、あの、この後時間が…携帯電話?」

 何かを言いかけた由橘乃が動きを止める。何ともタイミングが悪いが、雄貴の携帯に着信が入ってしまったのだ。

「あ〜、こりゃ対策課からだな。ちょっと出るね。」

「う、うん。」

 タイミングの悪さに、少し苦笑いして電話に出る。

「はい。…はい…はい、了解しました。」

 そう言って通話を終了させる。

「えっと、やっぱり事件?」

 遠慮がちに聞いてきた由橘乃。少し不満そうな顔してるのは、気の所為だろう。

「うん、そうだった。軽くノして来るよ。変な奴に絡まれたら、俺に電話して。必ず駆け付けるから。」

「うん、分かったわ。じゃあ気を付けて。」

「安曇さんも!」

 軽く手を振り、この場を後にする雄貴。由橘乃が何を言いかけたのか知りたかったが、その時間は無い。まぁそのうち聞けるだろう。

「残念ね…。」

 残された由橘乃の呟きは、雄貴の耳に届く事は無かった。


「よし、こんぐらいで良いか!お疲れさん。もう帰って良いぞ!」

 資料とにらめっこしていた優斗巡査部長が、顔を上げて、元気良く言う。

「はい、了解です。お先に失礼します。」

「女とする時は、ちゃんと気を付けろよ〜。その歳で子持ちは辛いからなぁ〜。」

「…アンタ、何時か俺にぶっ飛ばされますよ?」

 優斗の下品な軽口に、顔を顰めながら返す。言いたい事は理解出来るが、いきなりする話としては、非常に不適切な物だろう。

「そこは誰か、じゃなくて、俺、なんだな。まぁ知り合いには、何人かそういう奴が居るから、お前にはそうなって欲しくないんだ。」

「何か真面目そうな話してますが、完全に顔がニヤけてますよ?巫山戯てますよね?」

「あちゃあバレたか。いや〜、最近雄貴から、女の匂いがするからさ。しかも複数人。」

「…優斗さんの鼻は、警察犬並ですか?」

 シンシアとは、以前から比較的仲良くしてたが、最近になって夏帆と由橘乃と、少し距離が近付いたので、その事を指摘されたのだろう。とんでもない嗅覚である。

「ま、お前なら羽目は外さんだろうが、失敗して学ぶのが若者だからな。何かをやらかしてからじゃ、遅い時もあるんだ。」

「んで、本音は?」

「雄貴が女の子とイチャイチャとか、めっちゃ見てみてぇ!どんな顔するんだろう!」

「ヲイ!」

 たまには良い事を言うと思ったら、本音は酷い物で、上司である優斗に、思わずツッコミを入れてしまった。

「お、何か通知が来てるぞ?見なくて良いのか?」

「え、あ、はい…。」

 ツッコミから逃れる為か、机の上に置きっぱなしになっていた雄貴のスマホを指し、そんな事を言ってきた。

 開いて見ると、由橘乃からのチャットで、特に急を要する内容では無かった。

「ほほう…『今日はありがとう』か。中々やるな。」

「優斗さん?アイアンクローとスタマッククロー。どちらが宜しいですか?」

 画面を覗き込んで来た優斗に、目が笑ってない笑顔で、究極の二択を突き付ける。

「い、胃だと、色々と内容物が飛び出そうだから、頭で勘弁して下さい!」

「はぁ…。ま、隠すような事じゃありませんし、別に良いですよ。」

「良いのか。ま、確かに色気もへったくれもない会話だな。」

「色気が無くて悪かったっすね。そういう訳ですので、優斗さんが期待してるような事は、何にも無いっすよ。」

「えぇ〜、つまらねぇ〜。あ、ラーメン奢るから、最近の学校での話を聞かせてくれよ。なっ!良いだろ?」

「教えるかどうかはさておき、取り敢えずゴチになります。」

 お誘い自体は有難いので、喜んで了承する。これから夕食を用意するのも、面倒なので、丁度良いだろう。

 由橘乃に、『こちらこそ』と返信してから、優斗に着いていくのだった。

「学園」の人気作品

コメント

コメントを書く