バッドエンドは全力でぶち壊す!

血迷ったトモ

第32話 炎

 4月22日月曜日。机で一限の準備をしていた雄貴に、夏帆が話しかけてきた。

「おはよう。」

「おはよう。夏帆さん。」

「ね、ねぇ雄貴君。一昨日何だけど、駅前を安曇さんと一緒に歩いてなかった?」

「ふぇ?」

 思わぬ質問に、変に聞き返してしまう。ただ素直に頷けば済む話だったが、夏帆から聞かれるとは全く思って無かったので、ついこんな反応をしてしまったのだろうか。

「うん、一昨日の土曜日。で、お昼ご飯かな?半個室のお食事処に入ったよね?」

「そ、そうだね。たまたま鉢合わせてね。丁度昼飯時だったから、飯でもどうかなってさ。」

「ふ〜ん…。2人って、仲が良いんだね〜。」

 ジト目になりながら、おかしな口調で言ってくる。何だか責められてる気分になってくる。

「い、いや、そういう訳では無いぞ?」

「そう?私とは一緒に食事した事無いのに… (ボソッ)。」

 何だか、夏帆の瞳に何らかの炎が点った気がしたが、触れるべきでは無いと判断し、取り敢えずスルーする事にした。

「う、うん?今なんて?」

「ううん。何でも無いよ?それよりも、今度の休み、暇だったりする?」

「ん?土日の事?なら全く問題無いけど、何か用事でもあんの?」

 ギュッと雄貴の腕に抱き着きながら、甘えるように聞いてきた夏帆に、全く動じずに答える。

 少しドキドキするが、みたいなものだ。そう言い聞かせて、努めて平静を装う。

「うん、少しね。じゃあ…土曜日を空けといてもらえる?」

「あぁ分かった。…いや〜、夏帆さんからデートのお誘いとは、いつの間に好かれたのかな?」

「で、デート!?そんなつもりじゃ!」

「え、いや、冗談やで。まさかそこまで過剰に反応するとは…。」

 一瞬で顔を真っ赤にして大声を出した夏帆に、ビックリする。

「そ、そうなの?ご、ごめん。ちょっと取り乱しちゃった。」

ー純情っつーか、ビュアっつーか、初々しい反応だな〜。おじさん、眩しくって直視出来んわ〜。ー

 そっち方向の話に弱い夏帆に、精神的な年齢差を感じる。

「むむ。何か孫を見る、おじいちゃんみたいな目付きをされてる。」

「え?そんな目付きしてた?」

 そんな指摘をされてしまい、雄貴は目をぱちくりさせる。

「うん、してた。人生経験豊富な人の目。少なくとも同年代には出せない雰囲気を醸し出してた。」

「…それは、俺が枯れてるって事かな?」

 元の年齢とこの世界で過ごした年数を足しても22歳である。そんな事を言われるのは心外であった。

「確かに枯れてるかも。だって雄貴君、中学の頃、告白してきた女の子を全員断ってたよね?」

「よくご存知で。よく知りもしない子と、そういう関係になるってのは、ちょっと考えられなかったからね。」

「そういう自分の考えを持ってる所も、やっぱり同年代の他の子よりも、ずっと大人だよね。」

 どういう感情を懐いているかは分からないが、夏帆がじっと雄貴を見ながら言う。

「…お〜い、お2人さん?イチャイチャを止めてそろそろ戻らんと、先生が来るぞ?」

 そこに、悠人が声をかけてくる。2、3分もすれば先生が来そうなので、丁度いいタイミングだろう。

「…イチャイチャはしとらん。けど、そろそろ戻らないと不味いのは確かだな。ん?夏帆さん?」

 ふと夏帆を見ると、顔を真っ赤にしてプルプルと震えていたので、何か不味いことでもあったかと顔を覗き込む。

 すると、パッと離れたかと思うと、キッと悠人を涙目で睨み付けた。

「い、イチャイチャなんかしてないもん!」

 何やら夏帆の周囲の気温が、ぐっと上がった気がする。

「ちょ、エキサイトし過ぎだぞ?発火・・でもしたら、大変だから落ち着いて。」

 慌てて夏帆の肩を掴み揺さぶる。教室が燃やされでもしたら、大事件であり、今後のストーリー展開にも大きく影響を及ぼす可能性がある。

「え……あ、う、うん、ごめん。少し慌てちゃった。」

「あ〜何かすまん。つい失言しちまったみたいだな。」

 雄貴との間で巫山戯る分には問題無いみたいだが、第三者から揶揄われると、恥ずかしさが先立ってしまうのだろうか。

 大慌ての夏帆に謝る悠人。

「いやいや。今のは夏帆さんが過剰に反応し過ぎだと思うぞ?」

「うぅ…ごめんなさい。」

 少し揶揄われたぐらいで暴発・・させるなど、幾ら何でもやり過ぎである。だがしかし、そういう所もチャームポイントではあるので、しょんぼりとしてる夏帆を慰める。

「まぁでも、乙女の純情を弄んだ悠人も悪いから、50/50じゃないかな?さ、そろそろ席に戻ろっか。」

「…うん。じゃあ土曜日よろしくね!」

 軽く肩を叩いて言うと、少しは立ち直ったのか、笑顔を見せて戻ってくのだった。

「ホントに雄貴は、夏帆と付き合って無いんだよな?」

「え?そうだけど?見てれば分かるんじゃ?」

「は〜。その反応だけで色々と察した。それよりも、次は古典だな。眠いんだよな〜。」

「何か気になる言い方だけど…ま、良いか。というか悠人は、どの授業だって眠そうにしてるじゃないか。」

 雄貴は文系がかなり得意なので、全く問題無いのだが、悠人はそうでも無いようだ。

「古典だって日本語なんだ。適当に解釈してれば、文章の流れから自ずと答えが導かれるんだよ。」

「そうか…おやすみ。」

「寝るんかい。」

 偉そうに講釈垂れてると、段々と瞼が落ちてきた悠人。そのまま、授業が始まる前に、ぐっすりと寝入ってしまうのだった。

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