バッドエンドは全力でぶち壊す!

血迷ったトモ

第31話 由橘乃と食事

「おぉ、こりゃ美味しそうだね。」

 コース料理は、目ん玉が飛び出でる程、お高かった為、雄貴は合鴨肉のステーキセットを、由橘乃は鯛の炊き込みご飯を頼んだ。

 それぞれに、お吸い物やお新香などが付き、¥4500という、中々に良いお値段である。

「そうね。というか、そうやってお肉を頼むのを見ると、やっぱり男の子なんだなって思うわ。」

「…それは、普段の俺から男っぽさを微塵も感じないって事かい?」

「う〜ん、まぁそうかな。ほら、アンタって線が細いし、顔立ちも可愛い系だし、あんまり日焼けしてないから、どうしても女の子っぽいのよね。」

 元の世界でも、こちらの世界でもずっと言われ続けた言葉に、雄貴は苦笑いする。全世界の女性に刺されそうだが、体質により、全く太れないというのも、中々に辛いものがある。

「ははは…。」

「あ、ご、ごめんなさい!私、いつも一言多いって言われるの!」

 どうやら苦笑いするのを見て、由橘乃が慌てて謝ってくる。珍しい事もあったんもんだ。

「いや、いつも言われる事だから、気にしてないよ。そんな事よりも、早く食べないと冷めちゃうよ?」

 そう言われるのは仕方の無い事なので、一々気にしていられない。それに、悪口という訳でも無いし、雄貴は割り切っているので、この反応が当然である。

「あ、そういえばそうね。落ち着いて食べたいし、もう食べ始めた方が良いわね。」

 雄貴の言葉をどう受け取ったのかは分からないが、取り敢えずは謝罪をやめて、頷いてくれる。

「「いただきます。」」

 2人でこうして一緒に挨拶して食べたのは、初の事であるので、何だか不自然な感じがしてくる。

「おぉ、美味しい。」

「あ、これも美味しい。」

 どうやらここの店は、値段に見合う味だったようで、2人して思わず頬を緩ませる。

「1切れ食べる?」

 ステーキの乗ったお皿を、少し由橘乃の方によせる。

「あ、ありがとう。じゃあ私の炊き込みご飯も…。」

 互いにトレードしてみる。高い店ではマナー違反かもしれないが、半個室で誰にも見られていないので、全く問題無いだろう。

ー何かこれ、恋人同士のあれちゃう!?だ、だが、今更止めようとか言っても、何か意識してるみたいで、恥ずかしいし!ー

 ふとここで、我に返った雄貴。互いに食べさせ合うとか、そんな事をしてる訳では無いが、経験が皆無な雄貴としては、十分に照れる行為だった。

「ん、これは美味しい。」

「こっちも美味しいわね。」

 互いの頼んだ料理を食べる。すると、そんな照れも吹っ飛んでしまうくらいには美味しかった。

 トレードし終え、それぞれの料理を食べ進めながら、他愛も無い会話をする。

「そういえば、アンタはいつ頃、超能力に目覚めたの?」

 ふとそんな質問が、由橘乃からくる。

 特に隠す必要も無いので、普通に答える雄貴。

「俺は小6の夏休みかな。ちょっとした事件に巻き込まれて、その時にね。」

「ちょっとした事件?」

「…この事件だよ。」

 端末を操作して、ネットの記事を表示させて見せる。見出しには、『お手柄小学生、銃を持った強盗に立ち向かう!』とあった。

「え、アンタまさか、超能力も何も無い頃に、強盗犯に立ち向かったの?結果としては、超能力が発現して助かったけど、普通なら死んでるわよ?」

 ド正論である。

「まぁでもあそこで、あの子を見捨てる選択肢は無かったから、仕方が無いね。」

「あの子?それってつまり、誰かを庇って立ち向かったって事?」

「そうなるかな。銃床ストックで殴られそうだったから、当たり所が悪ければ死んじゃうし、もし逸れて顔にでも当たってたら、一生モノの傷になりそうだったからね。しかし流石に、銃口を向けられた時は、死を覚悟したね。ま、儂もあの頃は、若かったって事さね。ふぉっふぉっふぉっ。」

 何だか暗い話になりかけてしまったので、ここで巫山戯て和まそうとする。

「いや、全然笑えないでしょ…。というか、アンタは昔から、同じような性格をしてたのね。妙に正義感強いところとか。」

「そうかな?別に正義感で立ち向かった訳じゃないよ?ただ目の前で死なれでもしたら、寝覚めが悪いからね。それに殴られそうになってた女の子、結構可愛かったし。」

 茶目っ気たっぷりにウィンクしながら、巫山戯て返す。本当に正義感もクソも無くて、ただシンシアやこの身体を殺す訳にはいかず、必死こいた結果であったので、褒められるのは違う気がした。

「男ってホントそうなのね。ちょっと可愛い女の子にホイホイ引っかかって…。みんな同じ思考回路してるの?」

「ははは。中々に辛辣だね。まぁ安曇さんからすれば、都合良く男を使えるんだから、特に問題は無いでしょ。」

 何で容姿が優れている由橘乃が、自身には関係無い風な口調で文句を言うのか、少し疑問であるが、何も言い返せないのであるから、苦笑いする。

「な、何で私の話になるのよ。」

「はい?だって安曇さん可愛いじゃん。…あ、決して口説いてるとか、そういう訳では無いからね?普通に真面目に言ってるから。だ、だから怒るのだけは勘弁してもらえると助かるんだけど。」

「…はぁ。アンタがそういう奴だっていう事で、納得する事にしたわ。アンタの感性では、私が…その…可愛いのよね。」

 モジモジと顔を赤くして、言いづらそうに言葉を切って話す由橘乃は、実に可愛らしく、少し鼓動が跳ねてしまいそうだった。

 誤魔化すかのように、ボケをかます雄貴。

「おぉっと安曇選手。照れているようだ!SランクのSは、シャイのSか〜!」

「アンタ!仄暗い水の底に沈めるわよ!?」

 解説さんのネタをパクり、上手い事を言ったつもりだったが、今度は別の意味で顔を真っ赤にした由橘乃の罵声が飛ぶ。

 この数十秒後には、お店の人から注意されるのは、言うまでも無いことであった。

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