バッドエンドは全力でぶち壊す!

血迷ったトモ

第29話 何故に何故

 「…えっと、安曇・・さん?どうしたの?」

 1クレジット分をプレイし終えた雄貴は、振り向きながら聞く。

「え、あ、き、気付いてたの?」

 雄貴をこっそり見ていたのは、何と由橘乃であった。

「まぁね。横目でチラッと見えたから。」

「そうじゃなくて、私だと良く分かったわねって事。折角変装してるのに。」

 今の由橘乃は、目深に被った帽子に、地味な目立たない服装だ。普段の凛とした姿からは、想像出来ない格好なので、気が付かれないと思われてたのだろう。

 だがゲームでは、たまたまゲームセンター前で、同じような格好の由橘乃を見かけるというシーンがあったので、一瞬で気が付けた。

「うんまぁ同じクラスだし、安曇さんは目立つから、直ぐに分かったよ。」

 とはいえ、馬鹿正直に気が付いた理由を言える訳では無いので、それっぽい事を言っておく。

 どんな格好であろうとも、由橘乃はメインヒロインを張る女子だ。目立つ事には間違い無い。

「…他の人にはバレなかったのに (ボソッ)。」

「ん?何か言った?ちょっと音が大きくて、聞こえなかったんだけど。」

「ううん。何でもないわ。それよりも、音ゲー好きなの?」

 ゲームの音で全く耳に届かなかったので、聞き返したのだが、何故だか誤魔化されてしまった。

「うんそうだね。新曲出たら、即座に理論値目指して、ゲームセンターに来るくらいには。ここに居るって事は、安曇さんもやるの?」

 『ウラデリ』の中では、ゲームセンターで見かけはするものの、由橘乃が何かをする前に話しかけてしまう為、クレーンゲームを軽く一緒にして終了だった。

 恐らく音ゲーをプレイしている事は、恥ずかしくて言えなかった、という設定にしたのか。裏設定にまでは詳しくないので、何とも言えない所である。

 しかし、由橘乃の性格から考えると、こういうガチ目な音ゲーは、女性率が低いので、隠すのが自然な行動だと言える。

「う、うん、まぁね。何かおかしいかしら?」

「いや、そんな事は。ただ単純に、こういうのやる女性は少ないから、まさかその少数が安曇さんだった事に、驚いてるだけ。」

 言葉通り、雄貴は単純に驚いているだけだ。自分の趣味と由橘乃の趣味が被っているとは、夢にも思わなかったからだ。

「確かに周りでやってる子は居ないわね。」

「マッチングでもする?」

「う、うん。私で良いなら。」

「それじゃあ、さっきの曲を…「初見であの難易度は止めて。」りょ、了解です。」

 雄貴の誘いを受け快く乗るが、超高難易度はお断りな由橘乃だった。


「れ、レベルが違いすぎる…。」

「いや〜、色んな曲が出来て良かったよ。1人でやってると、どうしても選曲が偏るから。」

 十数分後、満足した顔の雄貴と、疲れた顔の由橘乃がそこには居た。

 まぁ由橘乃は由橘乃で、普通に楽しそうにしてたので、問題は無いだろう。

「別のもやる?」

「う〜ん…。今日はもう疲れたから、帰るわ。」

「そっか。じゃあまた学校で。」

 先日の模擬戦の最後の事故・・のせいで、若干気まずくなっていたが、一緒に遊んだ事で、払拭出来たようだ。

 妙な空気感になっているよりも、仲が良好な方がより、悠人とくっつけるのに都合が良いだろう。
 そういう訳で、雄貴にとってここで由橘乃と遊べた事は、ここ最近で一番良い出来事であった。

ーうん、ゲーセンに来て良かった。こう収穫があると、ありがたい限りだよな。ー

 嬉しそうに考える。

「うん、じゃあ「おぉ〜?そこの子、可愛いじゃん〜?俺っちと遊ばない?」…え。」

 何か言いかけた由橘乃の言葉を遮って、チャラついた不快な声がかかる。

ーあ、あれ?このイベント、もう少し後な上に、悠人と一緒の時に発生するやつちゃう!?何故に何故!?ー

  この不快な声かけに、雄貴は聞き覚えがあったので、驚愕して固まる。

「い、いえ、私は…こ、この人とデートしてるので!」

 固まる雄貴の方を見てから、意を決したように覚悟を決めて、腕に抱き着いてから、衝撃発言をする。由橘乃としては、特に間違ってない発言だったが、雄貴には更に追い打ちをかけた。

ーそ、そのセリフは、悠人と絡まれた時に言うやつ!俺ちゃうわ!こんのクソ野郎。よくも変な所でイベントを消化しやがったな!?ー

 とんでもない事をして来たクソ野郎に、雄貴は怒りの視線を向ける。

 男は、くすんだ金髪の髪で、いかにも軽薄そうな、ヘラヘラした薄笑いを浮かべていた。『ウラデリ』においても、確かこんな感じの容姿の奴に絡まれていた筈だ。

「そういう訳なんで、申し訳ないです。」

 営業スマイルを浮かべて、由橘乃と共にこの場を離れようとしたが、男は不機嫌そうに雄貴に視線を向けた。

「あぁ?何か言ったか、クソガキ。」

「…お兄さん。ちょっとこっちで話そうか?」

 クソガキ・・・・と呼ばれた雄貴は、良い笑顔を浮かべたまま、男の首に腕を回す。

「え、あ、は?な、何だお前。」

「俺、こういう者なんだけど、お兄さん、普段からこういう事してんの?こういうのって、都の条例に違反してんだよね。」

 手帳を開いて見せる。すると、効果覿面で、一瞬で顔色を真っ青にする男。

「な、お、お前…いや、あなたは…け、警察の方でしたか。はははは…。」

「いや、笑い事じゃないですよ?あ、それと、お兄さんの匂いは覚えた・・・ので、もしそういう被害者の女性から、同じ匂いがしたら、即バレると思って下さい。」

 有無を言わせぬ笑顔で、雄貴は追い詰めていく。

「に、匂いですか?」

「えぇ、匂いです。実は私、身体能力・・強化系の超能力者でして、他の人間よりも嗅覚やその他諸々が優れてるんです。お兄さん…今日の朝食は、コンビニの魚介ラーメンですね?それと、家の近くかな?この辺りで人気なカレー店があるのでは?あそこのスパイスは、独自の比率で調合されてるんですよ。」

「ひ、ひぃっ!ご、ゴメンなさ〜い!!」

 どうやら図星だったようだ。男は情けなく謝りながら、遁走していく。

 こうして思わぬ形で、イベント消化されてしまったのだった。

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