バッドエンドは全力でぶち壊す!

血迷ったトモ

第23話 やらかした

「やっべぇ!」

 大質量の水塊をぶち込まれた雄貴は、その次の瞬間には、つい反射的に動いていた。

 今まで手加減していた力を、結構本気に近いとろこまで引き出して、大きく跳躍する。

『と、跳んだ〜!今までで、一番高く跳んだぞ〜!』

 熱を入れて実況をする解説さん。

人間の2倍程の大きさの水塊を、大きく飛び越える。高跳びの選手が跳ぶ高さを、助走も無しに優に超えているだろう。

 そしてそのまま由橘乃の背後に着地する。

「ほいっ。」

 女の子に手を上げる趣味は無いので、軽く頭にチョップを入れる。

「きゃっ!い、いつの間に…。」

 水塊のせいで、視界が悪く、雄貴の動きが見えなかったのだろう。
 悲鳴を挙げ、それから背後を恐る恐る見た由橘乃は、愕然とする。

「俺の勝ちで良いかな?」

 図らずもこんな状況になってしまったが、取り敢えずは自身の勝利で良いだろう。
 そう思っての言葉だったが、これがまずかったらしい。

「ま、まだよ!あ、うわぁ!」

「あ、おい、危ない!」

 きっと睨みながら、距離を取ろうと動き出すが、自身の能力の影響で、すっかりぬかるんだ地面に足を取られて、バランスを崩した由橘乃。

 それをただ大人しく眺めてるだけの、血も涙もない人間では無いので、直ぐに助けに入る。

「よっと…。」

「な、何するのよ!」

「あ、おい、暴れるなって!」

 偶然にもこちらに伸びていた手を掴み、何とか抱き寄せる形で支えたところ、それがお気に召さなかったのか、逃れようと暴れる由橘乃。

 こんなぬかるんだ場所で、人が2人して動き回れば、当然、大変な事になる訳で…。

「きゃあ!」

「うわぁ!?」

 またしてもバランスを崩した由橘乃に、今度は雄貴までもが巻き込まれて、派手にすっ転んでしまう。

 今回は、流石の雄貴でも踏ん張れない足元のコンディションだったので、早々に諦めて、せめてクッションになろうと、転ぶ由橘乃の下に、身体を滑り込ませてやる。

「よいしょっ。」

 女の子とはいえ、女子高校生だ。流石に体重もあるだろうと、衝撃を覚悟したが、思ったよりも大した事もなく、軽々と受け止められた。

「あ〜、体操服が〜。」

 問題は、泥水で汚れてしまった体操服である。まさか、高等部に入ってから、1週間でここまで汚すとは、思いもよらなかった。

 臀部に感じる、不快な湿った感触に、眉を顰める。

「…。」

「あ、そうだった。大丈夫?怪我してない?」

 泥汚れが気になって、つい忘れてしまっていたが、由橘乃を抱きとめたのだ。
 しかし、何やら彼女の様子がおかしい。先程から一言も発さず、どうにも大人しすぎる。

「ど、どうし…た?…この、感触は…。」

 抱きとめた際、後ろから手を回して、怪我をしないようにしたのだが、どうにも右手から腕にかけて、とても良い感触を感じた。まさかと思いつつ、雄貴はその感触の主を確かめる為、自分の腕が回ってる所を見る。

「あ、ご、ごめんなさい!!殴る蹴るして良いですから、何卒通報だけは!」

 自身の触っている場所を確認した雄貴は、大慌てで離して、全力で謝罪をする。

 何と雄貴は、エロゲやその他諸々の主人公の特権である筈の、所謂ラッキースケベを起こしてしまったらしい。

 平均よりもありそうな由橘乃の胸を、しっかりと掴んでしまい、もう平謝りするほか無い。ラッキースケベと言えば、聞こえは良い…良くは無く、優しい響きになるが、実際にやってる事は、ただのわいせつ行為で、れっきとした犯罪である。

ーやらかした!!!!よりにもよって、この俺が!この役割は、悠人の筈だろ!ー

 『ウラデリ』では、悠人が同じように戦闘後に、ラッキースケベを起こしてるのだが、それを知っていて尚、他人事のように楽観してたのがいけないのだろう。

「そ、そこまで必死にならなくても良いわよ。アンタは、その、何と言うか、頭に血が上って、1人で勝手に転びそうになった私を、助けようとして、あぁなった訳でしょ?」

「はい、一応そのつもりで行動を起こしました。な、何か、やけに冷静ではありませんか?」

 確か、ゲームでもこの時点で、由橘乃の機嫌は直っていた気がする。しかしその理由は覚えてないので、恐る恐る聞いてみた。

「流石に2度も転んだり、転びかけたりすれば、驚きで怒りなんて吹っ飛ぶわ。それに、確かに触られて、吹っ飛ばしてやろうかとも思ったけど、その前にアンタが心配して声掛けたり、謝ったりして来て、怒る気が失せたの。」

 ゲームでは、ここで選択肢で、『1.ナイスオッ○イ、2.中々良い感触だった、3.申し訳ございません』が出てきたので、このままでは社会的に死にかねない雄貴は、全力で3番を選択する。

「本当に申し訳ございません。…それと、そろそろ立たないと、周りからの視線が。」

 このまま由橘乃の気が済むまで謝りたい所だったが、ここは外であり、それなりに人が居たのだ。いつまでもこんな格好していては、明日には変な噂がたちそうである。

「あぁ!こっちこそいつまでもごめん!」

 由橘乃は慌てて立ち上がるが、今度はちゃんと足元には気を付けており、転ぶ心配は無さそうだった。
 それをしっかり確認してから、『よっこらせ』と呟きながら、ゆっくり立ち上がる。やはり、臀部の濡れた感触が、非常に不快である。

 前半は、結構な激闘を繰り広げた2人だったが、最後の最後に、何とも締まらない展開となってしまい、煮え切らない状態で、模擬戦は幕を下ろすのだった。

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