バッドエンドは全力でぶち壊す!

血迷ったトモ

第9話 彼女との関係

「な、何でここに居るんですか?」

 電話で話してた相手が、目の前に居る事にびっくりした雄貴。目を真ん丸くして、じっと見つめてしまう。

「ふふふ。驚いてもらえましたか?実は、少し前からここに居たんです。」

「目立つのは嫌だと、前に言いませんでしたか?」

 得意気なシンシアに、雄貴は目を細めながら言う。自分の部屋の近くで、こんな目立つ人物に待たれてしまっては、次の日から噂になりかねない。
 しかも、その目立つ人物が、ほぼ全ての憧れの人である、六通学園の高等部、生徒会副会長であれば、噂の広まる速度は、とんでもないものになってしまう。

「その件については、大丈夫です。問題はありません。」

 やはり得意気である。ここまで堂々とした態度を取られると、疑う気持ち霧散してしまうのだが、念の為聞いてみる。

「根拠は何ですか?」

「この寮に居る生徒は、ほぼ全員、打ち上げなどで出払ってるからです。」

 誰でも簡単に予測出来るような事柄を告げられ、雄貴は一瞬だけ固まる。

「…それは盲点でした。疑ってすみません。確かに今日は卒業式で、7割方の人は打ち上げに出てますね。自分は適当に理由を付けて、断りましたが。」

「体調でも悪いんですか?」

「いえ。少し、やりたい事がありまして。ま、急ぎでは無いので、後回しでも問題はありませんが。」

 新学期に向けて、主人公君に対するアプローチを、改めて考えたかっただけなのだ。それは既に、この4年間で考え尽くしてるので、ただの確認作業となる予定である。

「そ、そうなのですか?なら、この後の予定は…。」

「買い物行く以外はありませんね。何か急ぎの用ですか?態々いらっしゃいましたし。」

 シンシアがこうして寮までやって来る事など、初めてではないだろうか。それ程までに、緊急事態が発生してるのだろうか。
 雄貴の記憶では、そんな事態、入学式前には発生しなかった筈だ。何なら、まだ主人公君は、この市にやって来ても無い筈だ。

「えっと、その…こ、この後、食事でも一緒にどうかと思いまして!」

 顔を赤くして言われた言葉に雄貴は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして、首を傾げてしまう。

「…食事?」

「や、やっぱり、私みたいな女とは、食事はしたく無いですよね。帰ります。」

「うぉい!諦め早すぎませんか!?まだ一言聞き返しただけなんすけど!」

 何時もは凛としてるのに、何故だか雄貴と対面した時だけは、どこまでも自信が無くなるシンシア。
 
 踵を返して、早々に帰ろうとしている彼女の手を掴み、慌てて引き留める。

「待って下さい。今日は少し豪勢にいこうと思ってたんで、先輩からのお誘いは渡りに船です。宜しければ、ご一緒させてもらえないでしょうか?」

 大金持ちのお嬢様であるシンシアならば、趣味の良い、美味しい店を予約してるに違い無い。少し懐は痛いが、散財したい気分なのだ。

 それに、たまにはシンシアの様な美少女と、一緒に食事するというのも、これからNHSと激しい戦いを繰り広げる事になる自分自身への、前払いの報酬になるだろう。

「そ、そうですか?無理してないですか?」

「俺は先輩と居るのが嫌いなんじゃありませんよ?目立つのが嫌なだけなんです。俺が言うのも何ですが、そこの所、間違え無いで下さいね。」

「なら良かったです。外で会っても、中学の頃の一年間も、とても冷たかったので、てっきり嫌われてる物だと。」

 シンシアは中3の時に、超能力が覚醒し、六通学園の中等部に編入して来たのだが、彼女は雄貴と郵便局で会ってた事を、ちゃんと覚えてたらしく、校内で見掛けた時に、笑顔で話しかけて来たのだ。

 その際雄貴は、シンシアの能力が非常に強力で、編入前からそれなりに噂になってたので、目立つのを嫌い、赤の他人のフリをした。
 後になって連絡先とチャットアプリのIDを書いたメモ用紙を、こっそりと手渡したという経緯があった。

 そんな事されれば、当然、嫌われてるものだと思うだろう。

「なんかすみません。でも俺は、どっちかといえば、先輩の事は…いや、飯に行きましょうか。」

 雄貴は言いかけて止める。これから先は、自分自身の感情なんて、どうでも良いのだから、ここで変な事を言う必要は無い。

「え?ゆ、雄貴君?今なんて言いかけたんですか?」

「ははは!この先が知りたくば、えっと、そうですね。先輩が生徒会長になれたら、考えましょうか。」

 シンシアが生徒会長になっているという事は、ストーリーの山場をほぼ完全に越えた、後日譚になるので、その時も雄貴がこの世界に残っていれば、プレッシャーの解放によりハイテンションになり、何でもかんでもぶちまける事、間違い無しである。

 何なら嬉しさのあまり、シンシアに抱き着いてしまいそうである。

ーそんな事したら、全身に風穴・・を開けられて、その辺に打ち捨てられるだろうけど。ー

「さて、行きましょうか。」

 アホな事を考えながら、雄貴は歩き出す。

「あ、うん。」

「先輩?」

 だがシンシアは、顔を赤くしたまま、何故かその場から動こうとしないので、どうしたのかと、様子を見る。

 暫く見ていると、観念したのか、モジモジと言いづらそうに、口を開く。

「あの…手を…。」

「手?」

 シンシアの言葉に、首を傾げながら自分の手に意識を向けて、ようやく彼女の手を握ったままになってる事に、気が付いた。

「あ、すみません!」

 雄貴は慌てて手を離す。女性の、しかも、エロゲのメインヒロイン張れるレベルの、超絶美少女の手を握ってしまった事に、テンパってしまう。

 その為、ポツリと呟かれたシンシアの言葉を、聴き逃してしまう。

「そ、そういう所は、やっぱり年相応ですよね…。」

「え?何か言いましたか?」

「いえ、何でもありません。では、行きましょうか。」

「はぁ。」

 あからさまに誤魔化されてしまった雄貴は、追及しても、地雷原に突っ込みそうな予感がしたので、大人しく頷いておくのだった。

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