バッドエンドは全力でぶち壊す!
第6話 脅威の治癒力
「おや?出戻りですか?」
「あはは…。」
 右腕を包帯で固定した状態で、飲み物を買う為に自販機の前に居たところ、白衣の眼鏡の男性に声をかけられる。
 雄貴には見覚えがあり、確か前回の検査入院の際に、診察してくれた医師の助手の、上井とかいう人だった筈だ。
「冗談です。強盗犯相手に、大立ち回りしたそうですね。」
「みっともなく足掻いただけですよ。その結果がこれです。」
 雄貴は右腕を強調する。
 彼の腕は、元々蹴られた時点で、少し罅が入っていたらしい。その状態で、本来なら有り得ないパワーを発揮して、強盗犯を殴った為に、それがトドメとなり、ポッキリ折れてしまったのだ。
「その怪我は勲章みたいなものですよ。雄貴君は、余人には出来ない、立派な事をしたんです。」
「…ありがとうございます。」
 この怪我については、陽子さんに迷惑をかけてしまったという事で、落ち込んでいたので、こうして予想外の事を言われて嬉しい反面、恥ずかしさを感じて、素直に受け取れなかった。
「まぁ医療に従事する者としては、あんまり怪我はして欲しくは無いのですが。」
「ははは。すみません。」
「じゃあ小さな英雄君に、これをあげよう。」
 そう言って、上井は自販機でお茶を買い、渡してくる。
「あ、ありがとうございます。」
「それじゃあ自分はこれで失礼するよ。」
 上井は白衣を翻して、この場から立ち去るのだった。
 渡されたお茶を持ち、雄貴は一言呟く。
「これ、開けるのに苦労しそうだな…。」
 右腕の尺骨がポッキリ逝っていて、片手で開けるのは骨が折れた。骨折してるだけに。
 …非常に寒いギャグは置いといて、雄貴は現在、経過を見るという事で、あの事件から2週間後である今日、8月24日に、病院に来ていたのだ。
 医者には、4週間ぐらいで治ると言われてたので、もう半分で自由になるようだ。
「ふぅ〜。」
 お茶を飲み、ほっと一息つく。
 あの事件は、雄貴にとって、とんでもない収穫をもたらした。
 まずは人間離れしたパワー。雄貴はてっきり、あの時だけの、火事場の馬鹿力であると思っていたが、道端に転がっていた瓶に、軽くデコピンしたら、粉々に砕け散ったのを見て、そうでは無いのだと分かった。
 恐らく雄貴はあの時、この身体が持つ性能の限界を、壊してしまったのだろう。限界に縛られていた身体能力が、解き放たれたのだ。あの鎖が、本来の人間の身体能力に繋ぎ止めておく、何かであったのだ。
 これは恐らく、自身の超能力によるものだと推測出来た。でなければ、人間を超えた馬鹿げた力を、生身で発揮出来る訳が無い。
「となれば、あとは実験かな。具体的には、どんな能力なのか。」
 あの時は無我夢中で、鎖を破壊した。すなわち雄貴には、何かを破壊するという能力があるのだろう。
 診察前に陽子さんに言って、買いに行かせてもらってたので、少し急ぎ足で待合室に戻る。
「あら、お茶で良いの?」
「うん。さっき上井さんって人にもらったんだ。検査入院した時、助手してた人。」
「え?そうなの?後でお礼を言わないと。」
 子供らしく飛び乗っても良いが、その場合、力加減を上手くしないと大惨事なので、静かにゆっくりと、陽子さんの隣に座る。
「お茶好きなの?」
「うん。炭酸とか他のジュースよりも、お茶の方が飲みたいかな。」
 確かに個人的には、お茶が好きなのだが、それに加えて、この世界のジュースには、何と言うか、パチモンみたいな名前の物が多いのだ。
 『五矢サイダー』とか、『コケ・コーロ』とか、オレンジジュースだと『かっちゃん』とかがある。
 正直これらの飲み物を、果たして吹き出さずに飲み切れるかと聞かれれば、首を横に振らざるを得ないだろう。
 名前をそのまま使えなかったのは分かるのだが、せめて他に良いネーミングは無かったのだろうか。
「何だか最近、ゆうちゃんがどんどん健康的になってくれて、ママ嬉しいわ。」
「そ、そう?」
 お茶を飲んでただけで、こんなに感動されるとは、雄貴は一体どんな食生活を送っていたのだろうか。心底不思議でならない。
『高月さ〜ん。高月雄貴さ〜ん。一番の診察室にお入り下さい。』
 話していたら、雄貴の順番が来たらしく、スポットがかかる。
「あ、呼ばれたみたいだね。」
「じゃあ行こっか。」
 先に雄貴が立ち上がり、後に陽子さんが続く。そして、ドアを陽子さんに開けてもらい、中に入ると、2週間前にも担当してくれた、沼尻という50代ぐらいの医師が、待っていた。
「こんにちは。腕の調子はどうかな?」
「こんにちは。もう痛みは無くなりました。」
「そうですか。今日は、レントゲン撮って、変に骨が動いてないか見ますね。」
「はい。」
 何個か問診を受けてから、レントゲン撮影をする。
 そして数十分後、レントゲン写真を見ながら、沼尻が難しい顔をする。
「えっと、何か問題でもありましたか?」
 恐る恐る雄貴が聞くと、沼尻は写真から目を離して、驚愕の表情で見てくる。
「いえ、問題は無いのですが、あまりにも治るのが早いのです。見て下さい。こっちが2週間前に撮った写真で、これが今日撮ったものです。」
 2枚の写真を見比べふと、2週間前前は確かにポッキリと折れてるのに、今日の物はすっかり綺麗に隙間なく繋がっていた。
「元々、あまり骨が離れてなくて、神経も血管も傷付けて無かったので、4週間ぐらいで治ると判断したのですが、見るともう完璧に治ってます。ギプスを取れば分かりますが、内出血も無くなってるので、今日から日常生活を普通に送れると思います。」
「え?」
 沼尻医師から告げられた衝撃的な事実に、雄貴は固まってしまう。
ー俺、人間をやめちまってねぇか!?ー
 病院の中で叫ぶ訳にもいかず、ぐっと堪えるのだった。
「あはは…。」
 右腕を包帯で固定した状態で、飲み物を買う為に自販機の前に居たところ、白衣の眼鏡の男性に声をかけられる。
 雄貴には見覚えがあり、確か前回の検査入院の際に、診察してくれた医師の助手の、上井とかいう人だった筈だ。
「冗談です。強盗犯相手に、大立ち回りしたそうですね。」
「みっともなく足掻いただけですよ。その結果がこれです。」
 雄貴は右腕を強調する。
 彼の腕は、元々蹴られた時点で、少し罅が入っていたらしい。その状態で、本来なら有り得ないパワーを発揮して、強盗犯を殴った為に、それがトドメとなり、ポッキリ折れてしまったのだ。
「その怪我は勲章みたいなものですよ。雄貴君は、余人には出来ない、立派な事をしたんです。」
「…ありがとうございます。」
 この怪我については、陽子さんに迷惑をかけてしまったという事で、落ち込んでいたので、こうして予想外の事を言われて嬉しい反面、恥ずかしさを感じて、素直に受け取れなかった。
「まぁ医療に従事する者としては、あんまり怪我はして欲しくは無いのですが。」
「ははは。すみません。」
「じゃあ小さな英雄君に、これをあげよう。」
 そう言って、上井は自販機でお茶を買い、渡してくる。
「あ、ありがとうございます。」
「それじゃあ自分はこれで失礼するよ。」
 上井は白衣を翻して、この場から立ち去るのだった。
 渡されたお茶を持ち、雄貴は一言呟く。
「これ、開けるのに苦労しそうだな…。」
 右腕の尺骨がポッキリ逝っていて、片手で開けるのは骨が折れた。骨折してるだけに。
 …非常に寒いギャグは置いといて、雄貴は現在、経過を見るという事で、あの事件から2週間後である今日、8月24日に、病院に来ていたのだ。
 医者には、4週間ぐらいで治ると言われてたので、もう半分で自由になるようだ。
「ふぅ〜。」
 お茶を飲み、ほっと一息つく。
 あの事件は、雄貴にとって、とんでもない収穫をもたらした。
 まずは人間離れしたパワー。雄貴はてっきり、あの時だけの、火事場の馬鹿力であると思っていたが、道端に転がっていた瓶に、軽くデコピンしたら、粉々に砕け散ったのを見て、そうでは無いのだと分かった。
 恐らく雄貴はあの時、この身体が持つ性能の限界を、壊してしまったのだろう。限界に縛られていた身体能力が、解き放たれたのだ。あの鎖が、本来の人間の身体能力に繋ぎ止めておく、何かであったのだ。
 これは恐らく、自身の超能力によるものだと推測出来た。でなければ、人間を超えた馬鹿げた力を、生身で発揮出来る訳が無い。
「となれば、あとは実験かな。具体的には、どんな能力なのか。」
 あの時は無我夢中で、鎖を破壊した。すなわち雄貴には、何かを破壊するという能力があるのだろう。
 診察前に陽子さんに言って、買いに行かせてもらってたので、少し急ぎ足で待合室に戻る。
「あら、お茶で良いの?」
「うん。さっき上井さんって人にもらったんだ。検査入院した時、助手してた人。」
「え?そうなの?後でお礼を言わないと。」
 子供らしく飛び乗っても良いが、その場合、力加減を上手くしないと大惨事なので、静かにゆっくりと、陽子さんの隣に座る。
「お茶好きなの?」
「うん。炭酸とか他のジュースよりも、お茶の方が飲みたいかな。」
 確かに個人的には、お茶が好きなのだが、それに加えて、この世界のジュースには、何と言うか、パチモンみたいな名前の物が多いのだ。
 『五矢サイダー』とか、『コケ・コーロ』とか、オレンジジュースだと『かっちゃん』とかがある。
 正直これらの飲み物を、果たして吹き出さずに飲み切れるかと聞かれれば、首を横に振らざるを得ないだろう。
 名前をそのまま使えなかったのは分かるのだが、せめて他に良いネーミングは無かったのだろうか。
「何だか最近、ゆうちゃんがどんどん健康的になってくれて、ママ嬉しいわ。」
「そ、そう?」
 お茶を飲んでただけで、こんなに感動されるとは、雄貴は一体どんな食生活を送っていたのだろうか。心底不思議でならない。
『高月さ〜ん。高月雄貴さ〜ん。一番の診察室にお入り下さい。』
 話していたら、雄貴の順番が来たらしく、スポットがかかる。
「あ、呼ばれたみたいだね。」
「じゃあ行こっか。」
 先に雄貴が立ち上がり、後に陽子さんが続く。そして、ドアを陽子さんに開けてもらい、中に入ると、2週間前にも担当してくれた、沼尻という50代ぐらいの医師が、待っていた。
「こんにちは。腕の調子はどうかな?」
「こんにちは。もう痛みは無くなりました。」
「そうですか。今日は、レントゲン撮って、変に骨が動いてないか見ますね。」
「はい。」
 何個か問診を受けてから、レントゲン撮影をする。
 そして数十分後、レントゲン写真を見ながら、沼尻が難しい顔をする。
「えっと、何か問題でもありましたか?」
 恐る恐る雄貴が聞くと、沼尻は写真から目を離して、驚愕の表情で見てくる。
「いえ、問題は無いのですが、あまりにも治るのが早いのです。見て下さい。こっちが2週間前に撮った写真で、これが今日撮ったものです。」
 2枚の写真を見比べふと、2週間前前は確かにポッキリと折れてるのに、今日の物はすっかり綺麗に隙間なく繋がっていた。
「元々、あまり骨が離れてなくて、神経も血管も傷付けて無かったので、4週間ぐらいで治ると判断したのですが、見るともう完璧に治ってます。ギプスを取れば分かりますが、内出血も無くなってるので、今日から日常生活を普通に送れると思います。」
「え?」
 沼尻医師から告げられた衝撃的な事実に、雄貴は固まってしまう。
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 病院の中で叫ぶ訳にもいかず、ぐっと堪えるのだった。
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