第08魔装救助部隊〜この命は誰かの為に〜

笑顔付き

第15話 

回復魔法で応急処置をされた銀河は、そのまま病院へと搬送された。そこで検査を受けると、結果が出るまで待機となった。
銀河は病院のベットで横になっていると、金髪の女性が現れた。

「こんにちは、銀河さん。採血の時間です」
「わかりました。お願いします」

そこで銀河は見覚えのある顔だと言う事に気が付いた。

「もしかして、百合香さんですか?」
「はい。その通りです。気付かれていないんじゃないかと思ってドキドキしてました」
「もし気付かなかったらどうでした?」
「ショックでした。百合園百合香なんて名前にこの金髪ですから、忘れられる方が珍しいんですよ。だから人に忘れられる事に慣れてなくて」
「人に忘れられるのに慣れていないって凄いですね」
「でも実際そうなんですよ、忘れられた事ないです。妹の方は私の印象に潰されてしまって覚えてもらえない事が多いんですけどね。覚えてます?」

百合園百合香は『ターミナル区役所テロ事件』で銀河が救助した百合園かずはの姉だ。その後でお礼を言う為だけに何時間も待って会食したものの、銀河の急な呼び出しで終わりとなってしまった経緯がある。
銀河は病院で会うとは予想外だった。しかも看護婦と怪我人として。
銀河は言う。

「覚えてますよ、自分で助けた人ですから。かずはちゃん、ですよね」
「その通りです! 百合園かずはです! 嬉しいです! 覚えていてくれて!」
「百合香さんはここで働いているんですか?」
「はい。この病院の看護婦さんをやらせてもらってます。美人で優しくて仕事ができるって評判良いですよ」
「それを自分で言っちゃうと台無し感がありますが、そんなに評判いいんですか。それはめでたいですね。そしてラッキーです。そんな美人で優しく仕事のできるって評判の人に採血してもらえるなんて。上手いんですか? 採血」
「採血に上手い下手無いと思いますけど……安心して任せてください!」

グッと拳を握ってやる気を見せる百合園百合香に、銀河は苦笑いで返した。
採血を終え、ベッドの上で時間を持て余していると来客があった。花宮愛華だ。彼女は青い顔して、恐る恐るといった様子で話しかけてきた。

「こんにちは、花宮愛華です。生きてますか」
「はい、生きてます。適切な応急処置のお陰で後遺症もなく、元気です。時間をまてあましてます」
「それは良かったです。死んでしまったらどうしようかと……」

花宮愛華は幽霊に仲間を殺された過去がある。銀河が刺された原因も花宮愛華にある。だからその記憶がフラッシュバックしてしまって体調が悪くなっていたのだ。

「傷は残りましたか?」
「見ますか?」

花宮愛華が返答する前に、銀河は服を脱ぎ始めて背中を見せた。花宮愛華の記憶では背中を滅多刺しにされて血塗れになっていたのが最後の記憶だが、今は綺麗な背中がある。適度に鍛えられた体が健康的な雰囲気を醸し出している。

「良い筋肉ですね」
「筋肉?」
「間違えました。綺麗な背中と言いたかったんでした」

グッと力を入れて、腕の筋肉を盛り上がらせると、花宮愛華の視線がそちらに釘付けになる。前を向いて割れた腹筋を見せてみると、やはり視線が腹筋に移る。

「良い筋肉ですね」
「でしょう? 鍛えているんです。第01魔装救助部隊に入るには首席でないといけなかったので、体は鍛え上げました」
「そういえばビルの側面を魔力ブレード突き刺して登ってましたね。私の事も刺されながら持ち上げて助けてくれましたし」
「ええ、基礎能力と精神力には自信があります。あ、そういえば突然飛行魔法が消えたのかなんなんだったんですか?」
「あ、それついては関連して色々分かりました。私たちが追っていたメンバーには逃げられてしまいましたが、金剛征四郎さんは数人捕まえていたので、尋問してわかりました」
「凄い。あの短時間で他のメンバーを捕まえていたんですか。それで何が分かったんですか?」

花宮愛華は三つ指を立てた。

「端的に纏めると、パイオニアのリーダー、ユーフェミアの母親、私達に使った魔法無効化アイテムの出所です」
「パイオニアのリーダーとは?」
「名前はラフィーア・エルトリック。ユーフェミアの母親と推定される人物です。そして魔法無効化アイテムの製作者でもあります」
「パイオニアを使えといったのは自分が作った組織だったからでしたか」
「そうなりますね」
「ラフィーアとユーフェミアの母親だと分かった理由は?」
「ラフィーアはユーフェミアの実母でした。記録が残ってたんです。行方をくらます前にユーフェミアを出産して名付けています。ですから正式にはユーフェミア・エルトリックです」
「ユーフェミア本人にファミリーネームを教えなかったのは何故?」
「恐らく……本人が敵に喋らないように、か。単純に家族だと認めていないから、でしょう」

後者だと前者に比べて闇が深いと銀河は感じた。自分が腹を痛めて産んだ子供にファミリーネームをつけない、認めないというのは強い憎悪や悪意といった悪いものを感じる。そして子供はそれを知らず、母親だと思って尽くしているのが辛かった。いや、知っているのかもしれない。だからこそSCを獲得する事で認められようにしているのかもしれない。
そう考えると複雑な家庭だ、という感想を銀河は持った。

「どちらにしてもユーフェミアは母親に信じてもらえてないようですね。自分が犯罪をしてるから関係無いようにする為、という可能性もSCを探させている時点で犯罪者となるから無しです。魔法無効化アイテムの製作者だと分かった理由は何ですか?」
「管理者に問い合わせたところ過去に対暴徒用魔法無効化アイテムの制作メンバーとして名前がありました」
「それがそのまま使われたという事ですね。今後は魔法が使えない場面を想定して実体装備が必要となりますね。ああ、だからユーフェミアは魔力ブレードではなくロングソードを使っていたんですね。魔法が無効化されても良いようにと」
「これまでの傾向からしてユーフェミアと戦う際は気にしないで良さそうだとは思いますが、ほら、魔法が得意な子っぽかったでしょう?」

銀河は同意した。

「問題はパイオニア達と戦う時ですね。気をつけなければなりません」
「そうですね。パイオニアと戦う際は特に気をつけなければなりません」

と、そこで百合園百合香が現れた。

「お話中すみません、銀河さん。検査の続きがまだありまして」
「そうですか、わかりました。お見舞い、ありがとうございます。行ってきますね」
「はい、行ってらっしゃい」

百合園百合香に連れられて歩く銀河を見送っていると、花宮愛華は唐突に胸が痛んだ。二人が仲睦まじく雑談を交えながら笑って歩く姿を見ているとズキズキと痛み始める。

「……? 不整脈?」

自分の体に異常があるんじゃ無いかと思って、体のあちこちを見てみるが特に変わった様子はない。ただの看護婦と患者の関係なのに名前で呼び合っているところにきづくと、更に胸が痛くなった。

「?」

花宮愛華は自分に暗い感情と同時に、子供じみた感情が湧いているのを理解する。それは嫉妬という感情だった。もやもやとした気持ちは彼女の中で沈殿している。だが一つ分からない事があった。何故、そんな感情を抱くのかだ。

「もしかして、私は銀河さんに惚れている?」

そんな馬鹿な、有り得ない。と断する事が出来ず、戸惑う。出会って間もない彼に惚れるなんてそんな事あり得るんだろうか? 趣味は知らないし、思想に至っては真反対だ。目の前の人をとにかく助ける銀河と、助かる人を確実に助ける花宮愛華では反発する。それなのに……惚れる? そんな事、あり得るのだろうか。
花宮愛華はモヤモヤとした気持ちを抱えたまま、帰路につくのだった。

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