配属先の先輩が超絶美人だけど冷酷すぎて引く

笑顔付き

第23話 収束

銀の極太ビームは銀河を飲み込んでも勢いを衰えさせず、会場にぶつかり大きな穴を開けた。吹き飛んだ水が雨のようにユーフェミアの頭に降ってくる。
それを振り払ってロングソードを構える。まだ倒し切れていない可能性があるからだ。油断なく構えられた剣。ビンと張り詰める空気があった。
ユーフェミアは確信する。まだ終わりではないと。

「魔力収束」

その声が聞こえた瞬間、ユーフェミアは一気に距離を詰めた。自分と同じような砲撃魔法を使わせない為だ。
渾身の力を込めた一撃は銀河の魔力ブレードに受け流される。そして魔力ブレードを持つ手とは逆の、もう片方の手がユーフェミアに向けられた。

「拘束魔法、発動!」
「えっ」

魔力のワイヤーがユーフェミアに絡みつき自由を奪う。
ユーフェミアは銀河と違って砲撃魔法を避ける、防御する事ができる。だからこそ、砲撃魔法を当てるにはまず動きを止めなくてはいけなかった。その為の拘束魔法だ。

「動け、ないっ」

なんとか体を動かして拘束から逃れようとするユーフェミアだが、その時間が既に銀河とっては王手に等しかった。
魔力ブレードの切っ先を向ける。そして呪文の相性を開始した。

「魔法陣展開、多重展開、目標を固定、魔力収束開始」

ユーフェミアの目の前で収束していく魔力に彼女は息を飲む。あの一撃を喰らってしまったら死にはしないものの意識を失ってしまう。そしたら敗北だ。自分のSCが全て奪われてしまう。

「そんな事はさせない! 魔法陣展開!」

動けない中で導き出した結論は同等の威力の砲撃魔法を放って相殺する事だった。だが、しかしロングソードを媒体とした砲撃魔法でなければ大した威力は発揮できない。魔法は己の精神力がそのまま反映される。『自分なりの必殺技の撃ち方』を決めていればいるほど威力は高まり、それを外れるほど威力は弱まっていく。

「魔力ブレード・砲撃版」

光の奔流がユーフェミアを飲み込んだ。圧倒的な、暴力的なまでの魔力の奔流はユーフェミアの意識を一瞬で刈り取り、撃破した。もちろん死んでいない。生きている。しかし間近で砲撃魔法を浴びたのだ。意識を取り戻すには時間を必要とするだろう。

銀河はユーフェミアを回収して、SCを確保しようとしたその時だった。

『使えないこと。あの人形は』

天から声が降り注ぐ。
ユーフェミアの母親、ラフィーアの声だ。その声は冷たく、心底失望した色がありありと表されていた。

「何の用だ、ラフィーア」
『貴方には関係ない事よ。SCを回収するだけだもの、貴方の分もねぇ!!』

時空が歪み、魔力ビームが落ちてくる。銀河は咄嗟にユーフェミアに庇い、全身にビームを浴びる。威力を一切加減されてない一撃は銀河の体を焼き焦がし、更に複数の魔法が展開され隠し持っていたSCだけを的確に奪い去っていく。
魔法通信が入る。

『銀河くん、大丈夫かい!? こっちにも砲撃魔法を撃たれたけど複数人で防御したからなんとか無事だよ! この威力を一人で浴びるのはやばい。なんとか逃げるんだ!』
「逃げません。ユーフェミアを守らなくては!」
『見捨てても良い! 座標は特定した! 君の役目は果たしたんだ!』

ガードジャケットだけは何とか維持してユーフェミアを守り切ったが、意識が朦朧をしていた。銀河は最後の力を振り絞ってユーフェミアを陸地まで連れて行く。それで事切れた銀河は膝から崩れ落ち、顔面から地面に倒れた。



ウェルシェパードは忙しく下部組織へ指示を飛ばしていた。

「攻撃終了! 防御魔法展開解除!」
「銀河くんとユーフェミアを探して! あの威力をまともに受けたんだったらやばい! 生命の危機だ! 海の中だったら最悪だ」
「サーチ魔法発動、検索中、発見しました! 二人とも陸地にいるようです!」
「良かった。逆探知は!?」
「完了してます! 敵の本拠地を突き止めました!」
「よし、良くやった! まずは威力偵察で下部組織の戦闘員を送り込む。すぐに脱出できるように転移魔法を発動できるようにしておいて」
「了解」
「それから銀河くんの回収したら医務室へ。ユーフェミアは拘束具をつけるのを忘れずに」

ウェルシェパードは次々に移り変わる状況に対して命令を下して行く。それを見ていた金剛征四郎は驚いていた。いつも安全な所からでしか指示を送ってこなかった男が、現場にいても変わらず指示を出せる事に。
狂人部隊と言われる第08魔装救助部隊だが、狂人というのは我を通し過ぎるという意味で間違いないようだ。スペック的にはエリート部隊である第01魔装部隊と同等の力があった。

「よし、ここも撤収だ。第08魔装救助部隊待機室へ帰還するやり
「わかった」



銀河が目を覚ますと、治療されていた。ベットから降りようとすると包帯で縛られていて動きにくかった。銀河は包帯を解くと、部屋から出て同じ部隊の仲間を探して廊下を歩いていた。すると第08魔装救助部隊待機室から人の声が聞こえてきた。
そこに入って行くと、ウェルシェパード、花宮愛華、金剛征四郎、そして全身に拘束具をつけられたユーフェミアがそこにいた。

「何をしているんだ?」
「これからラフィーアの本拠地へ乗り込み捕縛作戦を行うんです。ユーフェミアがここにいるのは本拠地の位置が合っているか確認させる為ですね。無駄みたいですが」
「無駄?」
「この様子なんですよ」

花宮愛華はユーフェミアを指差した。そこには顔を真っ青にしてぶつぶつと呟く少女がそこにいた。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
「どうなっているんです? なぜ彼女はこんな状態に?」
「お前に負けたからだろうな。それで母親から見捨てられてるのを恐れているんだ。もう手遅れだと思うが」

全員が痛ましげにユーフェミアを見ていた。
と、そこで突然魔法通信が開いた。映像付きだ。

『ゴミを送らないでくださる? 迷惑なのよ』

開口一番の台詞に全員が疑問符を頭に浮かべた。

『このゴミの事よ』

ドン! と蹴り上げると真っ黒に黒焦げに死体が浮かび上がってきた。あれは誰の死体だろうか?

「下部組織のメンバーだ。僕が威力偵察を命じた。人間一人をここまで焼けるなんて」
「人を簡単に殺すな。それにゴミだと?」
『ゴミよ、こんなもの。その金髪の人形と一緒でねぇ!』

びくりとユーフェミアが震えた。そして母親の方へ向かって言葉を投げる。

「ごめんなさい。許して、母さん。一生懸命やった、だけど、どうにもならなかったの」
『黙りなさい。この役立たず。SCは満足に集められず、しまいにはむしろ失ってしまうなんて、ああ、馬鹿じゃないの? 貴方。何一つできていなくってよ』
「ごめんなさい、ごめんなさい、見捨てないで」
『見捨てるもクソもないわ、貴方には一ミリ足りとも情を注いでないもの。だから見捨てるなんて事はありえないわ、この動くだけしか能のないデク人形が』
「酷いな、それが娘にかける言葉か」
『娘? そんな事は思った事もないわ。言ってるでしょう、ただ人形だって。私の言うことを聞いていれば良かったのにそれすら満足に果たせないなんて。生きてる価値無いわ』
「母さん……!」
『母さんなんて呼ばないで頂戴、虫唾が走るわ。この……名前なんだったかしら。忘れてしまったわ』
「ぁ、ぁぁ」

ユーフェミアの中で何かが砕けた。
大粒の涙を流しながら、その場にへたり込む。目の光は失われ、生気を感じない。
銀河はユーフェミアの肩を抱くと強い口調で言った。

「この子の名前はユーフェミアだ。ラフィーア、お前のその顔面、殴りに行くぞ」
『やれるものならやってみなさい。屑人形に感情移入する破綻者が』

ぶつりと、通信は途絶えた。
銀河言う。

「行き先を教えてください。ラフィーアを倒しに行きます」
「駄目だよ、銀河くん。君はかなりのダメージを負っている。ここは花宮くんに任せるんだ。彼女なら成し遂げてくれる筈さ。無論、君の言う顔面パンチもね」
「わかりました。では、命令違反! させてもらいます!」
「えっ!? ちょっと、は!?」

銀河は素早くウェルシェパードの懐に入り、座標の書かれたマジックアイテムを奪取するそして転移魔法で飛んだ。いち早く反応した花宮愛華も、その転移に巻き込まれるようにして飛び乗り、ラフィーアのいる本拠地へ移動した。
銀河にウェルシェパードから魔法通信が入る。

『ちょっと、君は馬鹿かな!? 馬鹿なのかな!? いきなりそっちにいくなんて何考えてるんだ! 信じられない蛮行だよ!」
「すみません、ですが必ずラフィーアを倒します」
「隊長、私もいるので安心してください。彼の手綱を引いて見せます」
『愛華ちゃん頼んだよ! じゃあラフィーアの元までナビゲートするから、それにはしっかりついてきて』
「了解です」

銀河と花宮愛華は走り出した。その行手を遮るように巨大なゴーレムが現れたが、二人のコンビネーションの前に瞬殺されていく。粉々になったゴーレムを吹き飛ばしながら、トンネルを抜けていく。
その先にラフィーアはいた。周囲にはSCが浮遊している。銀河は一直線に走り、拳を握ってラフィーアの顔面に突き出した。だが、それは幻だった。四方八方から魔力砲撃に晒され、銀河のガードジャケットが急速に焼きただれていく。

「負けるものか!! ユーフェミア!! 聞こえているか!! 君は幸せになっていいんだ!! なるべきなんだ! 僕がここで証明する!! ユーフェミアが生きていてほしいと願う気持ちが! この女より強いところを!!」
「馬鹿な! この男! 焼け死ね!!」

銀河は全方位から魔力砲撃を受けながらも前進している。ラフィーアは杖を前に向けて砲撃態勢を取っている。瞬間、ラフィーアの背後から花宮愛華が現れ、両腕を切断した。そして魔力砲撃が収まる。全力で走れるようになった銀河は今度こそラフィーアの顔に拳を叩き込んだ。

「拘束魔法!!」

花宮愛華が拘束魔法で捕縛し、動きを止める。

「よし、これで」
「死ね、しねえええええ!! SC全魔力放出!! こいつらを皆殺しにしろおおおお!!」

花宮愛華が顎を切り落とし言葉を止めるが、命令を受諾したSCは膨大な魔力を放って自爆しようとしていた。

「銀河さん! 転移魔法!」
「不可能だ! 魔力が、底をついた!」
「そんな」

花宮愛華はラフィーアを担いでいる為、銀河を運ぶための魔力がない。このままでは銀河が死んでしまう。その時だった。新たな転移反応と共にユーフェミアが現れ、銀河を抱き抱える。

「今まで、私のために全力で向き合ってくれてありがとう、ございます。今度は私が貴方を助ける番!」
「ユーフェミア……転移魔法、発動」

花宮愛華とユーフェミアの声が重なった。



事件から一ヶ月が経った。

「それで、シェパード隊長。ユーフェミアの裁判はどうなったんですか?」

銀河は問う。
ラフィーアを捕縛し、本拠地もSCの自爆で滅びた事で事件の収束となった今回の事件はSC事件と名付けられ、データーベースの奥に仕舞われる事となった。その過程で捕虜扱いになっていたユーフェミアは管理者に連れて行かれて裁判を受ける運びとなっていた。
同じく命令違反した銀河にも罰則として一週間の掃除当番を言い任された。

「分からん。裁判は全て管理者が行なってるからねぇ、虐待、子供、洗脳、屑人形扱いとなれば情状酌量の余地はあると思うけど」
「それについては何とも言えんな。そういった事情があったとはいえテロ組織のパイオニアと共闘関係にあった事実が残る。お咎めなしにはならないさ」
「そういうものですが」
「そういうものだ。さて、俺もそろそろ元の部隊に戻るとするかな」

金剛征四郎は言う。元々は管理者の命令で一時的に戦力として来ていただけだ。時間が終われば去るのは当然の話だった。しかしなんだか短い間だったがすっかり仲間として認識してきた三人は、少し寂しく感じた。

「では、また会う日まで。さようなら」

そう言って扉から出ていくのと同時に入ってくる人影があった。
銀髪の髪に、小さな体。そしてロングソード。それは紛れもなくユーフェミアだった。

「ユーフェミア!? どうしてここに!?」
「裁判の結果、情状酌量の余地あれど罪もまた重しと言う事で、この第08魔装救助部隊で戦う事で罪を帳消しにする、と言う判決が決まりました。これからよろしくお願いします」

三人は顔を見合わせてた。そして銀河は笑って言う。

「ようこそ、狂人部隊こと第08魔装救助部隊へ」


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