配属先の先輩が超絶美人だけど冷酷すぎて引く

笑顔付き

第14話 金剛征四郎

『第08魔装救助部隊待機室』に帰ると、ウェルシェパードが出迎えた。

「やぁ、お帰り。途中でテロリストに襲われるなんてついてないね」
「全くです。そうだ、テロリストがSC封印弾を防いだ事から私達の魔法通信が漏れている可能性があるんです」
「オーケー、それは把握してる。色々と複雑になってきたから勢力図を書いて整理してみよう」

そういうとウェルシェパードは文字を書き始めた。

【勢力】
・管理者陣営
・パイオニア(テロリスト)陣営
・ユーフェミア陣営

【目的】
・管理者陣営:外敵の排除、平和の維持、救命救助
・パイオニア(テロリスト)陣営:管理者の破壊。
・ユーフェミア陣営:SCの収集。用途不明。

【方針】
・魔装救助部隊の第一目標はSCおよびそれを巡った戦いで引き起こされるであろう被害の中に人命を入れない事。つまり市民の避難と救助が最優先。
・SCの回収。
・次いでアグレッサーの少女、ユーフェミアの保護または殺害。

「こんな感じかな」
「やはりどこかズレてるんですよね。SCとの戦闘は治安維持部隊が担うべきだと思うんですけど」
「それを言っても仕方ない。それに管理者も言っていたじゃないか。組織の垣根を越えた対応が必要になるだろう的なことを。だから僕達はみーんな一纏めにされて、問題が起きた時に一番近い位置にいる部隊が使われるんだと思うよ」

花宮愛華は不満そうに鼻を鳴らす。それにウェルシェパードは苦笑いをした。

「ここで問題が出てくる。どうやって僕達の魔法通信を盗聴したのかって事だ」

魔法通信は専用の周波数で行われる。それを知らない限り他人の魔法通信を聞く事は出来ない。だから可能性があるとすれば、パイオニアが独自に周波数を突き止めた、管理者陣営の人間がパイオニア陣営に情報を漏らした、管理者陣営の人間がパイオニア陣営に移動した。この三つの可能性がある。
ウェルシェパードは言う。

「個人的にパイオニアが僕達の周波数を突き止めた線は無いかな。そこまでの技術力がパイオニアにあるとは思えない」
「では管理者陣営の何者かが情報を渡した、もしくは丸ごと移って共有化された線が濃厚ですか。どうしますか?」
「でもその線も薄いと思うんだよね。そんな真似を管理者が許すと思えない」

花宮愛華はどうでも良さそうに欠伸をする。

「何でも良いでしょう。問題は私達の魔法通信が漏洩しているという点です。つまりウェルシェパード隊長は役立たずという事になりますね」

ウェルシェパードは基本的に『第08魔装救助部隊待機室』から出ない。魔法通信で下部組織に指示をして銀河達のサポートを行う。その性質上魔法通信を必ず使用する。しかしその情報が漏れるとなってしまえば、サポートが逆に利用されて不利になってしまう。先手を打たれて対策されてしまう。つまり何もできない。役立たずの出来上がりだ。
銀河は思ったことを口にする。

「どうしてシェパード隊長は現場に出ようとしないんですか?」
「だって面倒じゃん。動きたくないんだよね、僕。現場で戦うとか勘弁してほしい。そういう荒っぽいの柄じゃないんだ。痛いのも嫌だし」
「あ、そういう理由なんですね」

銀河は思った。
救助部隊にいるのにどうしてそんなに非アクティブなんだろう。もっと救命救助に積極的になってほしい。反りは合わないが、花宮愛華はスコアという名の人命救助には、積極的だ。
後ろ向きなのが、悪いという話ではないが「もっと、こう、なんだろう、人を助ける為に頑張ろうよ!」という気持ちになった。
くすり、と花宮愛華が笑った。視線を向けると更に笑みを深くした。
銀河は問う。

「何かありましたか?」
「いえ、凄い微妙そうな顔してたので、ふふ」
「微妙な表情にもなりますよ、面倒って……人の命かかってるんですよ。シェパード隊長が欠けるだけでSC封印弾が使えなくなる。つまりそれって殺処分しか選択できず、戦闘時間が伸びることを意味します。万が一、避難が長引いてしまった場合、甚大な被害が」
「もういっそ漏れてる前提で動けば良いんじゃないですか? こちらの動きは丸わかりになってしまいますが、話す事は戦闘に関する事だけです。盗聴されても気にせず、戦いましょう」
「そうだね。それで行こう。管理者にも追加の戦力を頼んでおこう。でもまさか盗聴されているとは思って見なかった」
「独自解明にしろ裏切り者にしろ管理者も何かしらの対策を打つでしょう。私達は目の前の事件を解決する事に心血を注げば人が救えます」

と、そこでドアが叩かれた。
扉を開けるとそこには金剛こんごう征四郎せいしろうが立っていた。
金剛征四郎は第01魔装救助部隊の隊長だ。救助部隊の中でもより優りが集められたエリート部隊。その頂点に君臨するのが金剛征四郎である。

「知ってあると思うが俺は金剛征四郎だ。管理者の命令で第08部隊の指揮を取る事になった。これからは共に戦う事になる。宜しく頼む」
「よろしくお願いします」
「て、事は僕は休み?」
「いや、違うなウェルシェパード。最前線勤務だ。おめでとう」
「え」
綺羅星きらぼし隊員や花宮隊員と一緒に命がけの救助活動だ。存分に力を発揮すると良い」

金剛征四郎は良い笑顔でウェルシェパードの肩を叩いて言った。それにウェルシェパードは真面目な顔で言う。

「辞退します」
「拒否する」
「何故!?」
「自己紹介も済んだところで、任務だ」

意義を申し立てるウェルシェパードを無視して金剛征四郎は言った。
それに花宮愛華は首を傾げる。

「任務? SCの反応はまだ無いのにですか?」
「ああ、管理者から通達があった。SC所持している可能性のあるパイオニア隊員を見つけたから倒して奪ってこいとな。いや、回収か。すまん、ちょっと盛った流石に奪ってこいというのは俺の主観が入り過ぎていた」
「穏やかじゃありませんね。こちらから攻勢にうってでるなんて今まで経験したことありません。だいたいは起きてからスコア稼ぎになりますからね」
「スコア稼ぎ?」

今度は金剛征四郎が首を傾げる番だった。花宮愛華独特の人命救助という表現を理解できないようだった。救助部隊の人間が堂々と被救助対象をスコア扱いするなんて考えられないことだろう。特にエリート部隊の第01救助部隊の中では聞きなれない単語だっただろう。
そう考えた綺羅星きらぼし銀河は、補足説明をする事にした。

「彼女の言うスコア稼ぎとは救命救助のことです」
「なるほどな、救助部隊である我々が評価される時、一番大きい要因は救助数だ。それを彼女は他と競っているのか」
「その通りです。不快になりましたか?」
「いいや、面白い」

その返答は銀河にとって予想外のものだった。人と人扱い花宮愛華の言動は純粋に人助けしたい人からすればま反対の答えとなって嫌われると思っていたからだ。人道的ではない答えは、例外的な状況下を除けば嫌悪されるものだと思っていた。だから人命救助のエキスパートである金剛征四郎は、望まずとも命を天秤にかけてくる機会が多かったのだろうと思っていた。しかし彼は面白いといった。それが不思議だったので直接聞いてみることにした。

「どこが面白いと感じられたのですか?」
「この配置に、だな。救命第一の命令無視の常習犯・綺羅星銀河」

金剛征四郎の指先が銀河を指す。
痛いところを突かれて胸が痛かった。

「命令順守の冷血人間・花宮愛華」

金剛征四郎の指先が花宮愛華を指す。
どうでもよさそうにどこ吹く風だ。

「怠惰で命令だけして不動・ウェルシェパード」

金剛征四郎の指先がウェルシェパードを指す。
怠惰を隠さずだるーんとした態度でいる。

「狂人部隊だって言われる理由が分かったよ。普通だったら、正気だったらついていけないような奴らがお互いを補い合ってるんだ。花宮愛華が淡々と救助して、綺羅星きらぼし銀河が、見捨てるべき人を助ける。そしてそれを俯瞰してるウェルシェパードがサポートする。お互いの狂気を補い合って支えあって高水準のチームワークになっているんだよ、お前達は」

褒められているのか貶されているのかよく分からない言葉に銀河たちは困惑した。そうしているうちに、金剛征四郎は、どんどん言葉を続けていく。

「となると、ここでの俺の役割は何だろう、ってことになるんだよな。実際、もうよいチームワークはできてるわけだし、指揮系統が俺に移ったからといって引っ掻き回すような真似はしたくないし、うーん、遊撃隊的な立ち位置でいようか」

銀河は首を傾げる。

「遊撃隊?」
「誰かミスをした時にフォローする役って事」
「じゃあ僕はいつも通りここに残って良いのかな? チームワークを引っ掻き回したくないっていってたよね」
「許可しよう。前言撤回だ。この部隊の強みが見えたんだ。どうせならそれを生かした立ち回りをしたい。俺のいい経験にもなるだろうしな。良くも悪くも刺激的だよ、君たちは」

パンパンと手を叩いて金剛征四郎は言う。

「よし、では出撃だ。くれぐれも死なないように」

三人がやってきたのは古びた屋敷だった。窓ガラスは散乱して、床には穴が空いている。

「かなり傷んでますが、ここに本当に人がいるんですか?」

銀河が問う。それに答えるのは金剛征四郎だ。

「こういう場所だからいるんだ。不便だが、それ故に誰も近づかず隠れやすい」
「確かに。お化けとかでできそうな雰囲気がありますね」
「お化けとかそういう事言わないでください。殴りますよ」

花宮愛華は銀河にしがみ付きながら、拳を握ってみせた。

「花宮さん、こういうお化けが出そうな雰囲気の場所苦手なんですね」
「苦手です。殺せないじゃないですか。幽霊って実際に戦ったことあるんですけど魔力ブレードは効かないわ物理攻撃全般効かないわ、それでいて向こうからの攻撃で味方が全滅したことがあるのでトラウマになっちゃったんです」
「あ、ただ怖いだけじゃなく辛い経験からくる苦手なんですね、すみません掘り下げるような事を言ってしまって」
「別に大丈夫です。過去のことですから」

そう冷静風でいながらも、足がガクガク震え銀河の腕にしがみついていた。

「ついた。俺は裏から回る。二人は正面から行ってくれ」
「わかりました」

そう言って去っていく金剛征四郎を見送って、銀河は扉をノックした。
トントントン。反応がない。
誰もいないはずの家に誰かが、というかテロリストがいる事で来ているので管理者から指令が下ったわけだ。誰もいないわけがない。
もう一度ノックする。
ドンドン。
今度は強めに叩く。

「すみません!」

やはり反応がない。二人は顔を見合せ、頷く。

「開けろ! 魔装救助隊だ!」

ドン!
物音がした。

「魔力ブレード展開」

銀河は魔力ブレードで扉を切り裂くと部屋の中へ押し入った。
瞬間人が飛び出してきて花宮愛華に向かってナイフが放たれる。ナイフを握りつぶす事で攻撃を防ぎ、逆の手でパンチを食らわせる。ナイフで襲ってきた犯人はふらついたが、そのまま棚や荷物を倒して障害物にしながら逃走を開始した。

「大丈夫ですか!?」
「大丈夫です! 怪我は?」
「ありません。私は奴を追います。花宮さんは先回りしてください!」
「わわ。わかりました」

犯人を追っていくと障害物となる物を飛び越えて、バランスが悪いが距離を縮められる道を選択して追いかけていく。窓を突き破って、壁に魔力ブレード突き刺し屋上へ登っていく。そして今度は屋上から屋上へ飛び移りながら逃走していく。
しかし飛行魔法によって先回りしてた花宮愛華によって止められ、戦闘が始まっていた。
銀河はガードジャケットに変身して、犯人の背中に魔力ブレードを叩き込んだ。花宮愛華との戦闘で無防備になっていた背中は、鈍い音と共に犯人を吹き飛ばした。

「ぐ、くそっ! くらえ!!」

犯人が何かを投げると、それは光った。
瞬間、ガードジャケットが解除され、銀河の隣で悲鳴が上がる。

「飛行魔法がつかえなっ」

落ちそうになる花宮愛華を寸前のところで捕まえる事に成功する。そして引っ張り上げるが、ドンと背中に強い衝撃が走る。ナイフだ。犯人がナイフで刺したのだ。犯人は何度も銀河の背中を突き刺す。そして金剛征四郎がやってくると犯人はどこかに去ってしまっていた。
全身から血を吹き出しながら花宮愛華を助け、そして倒れる。背中からは止めどなく血が溢れている。

「ごめんさい。私のせいで。今応急処置をします。意識をしっかりもって」
「貴方の、せいでは、ありません。私のせいです。犯人を逃がしたのも、こうなっているのも。私がやりたかったからこうなっているんです。だから気にしないでください」

痛みで呻きながら言う銀河に、花宮愛華は声をかけ続ける。

「いえ、私のせいです。だから気を確かに持ってください。責めたって良いんです。怒っても良いです。だから意識だけはしっかり持ってください」

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