配属先の先輩が超絶美人だけど冷酷すぎて引く

笑顔付き

第3話 セクション04

警報が鳴り響いた。
赤いランプが点滅し、 出動要請のアナウンスが流れ始める。

『セクション04にて魔力暴走反応を検知。出現した『暴走体』は住宅街を北進。被害は増大し続けています。第08魔装救助部隊は至急現地へ急行してください。繰り返します……』
「セクション04……! 自分はアナウンスに従い出動します」
「待って」

銀河はガードジャケットを展開し、窓から飛び立とうとする。それを花宮藍華が呼び止めた。
彼女もガードジャケットを展開していた。薄いオレンジのようなフレッシュ色のブレザー姿だ。

(飛行するのにスカート……パンツが見えるのは気にならないのだろうか)

一瞬、そんな言葉が銀河の頭の中を頭を過ぎったが、被害者達のことを思い出して、言葉を返す。

「なにか?」
「優先順位、覚えてますか?」
「市民の避難、『暴走体』の鎮圧、アグレッサーの対処です」
「正解です。市民の避難、救助は私がやります。『暴走体』の鎮圧は任せますね」
「……はい、わかりました」
「貴方は感情のまま行動する猪突猛進すると資料に書いてありました。命令無視の独断専行をした結果、第08だいはちに左遷されたと」
「事実です。しかし今はそんな話どうでも良いでしょう。早く助けに行かなければ。こうして話している間にも人は死んでいるかもしれないんですよ」
「分かりました。単刀直入に言いましょう。貴方は複雑な指示に従えない無能なので、救助は考えず『暴走体』の相手だけをしていなさい」

救助活動は周囲に気を配り負傷者を見つける発見力、負傷の度合いを測る観察眼、それに適した応急処置を素早く行う冷静さ、そして負傷者を抱えたまま戦線離脱する戦闘技能が要求される。
静止という簡単な命令にすら従えない猪突猛進野郎には荷が重い。
花宮愛華の鋭い言葉が彼の胸を刺す。しかしそれは紛れも無い事実だ。言い訳ができる隙が無い。
銀河は苛立ちを飲み込んで言った。

「救助はお任せします」
「ありがとうございます、銀河さん。これでスコアが稼げます。貴方とは良いコンビニなれそうですね」
「ええ、その意見に同意します!」

銀河は振り切るようにして叫び、窓から飛び立った。
被害区域は酷い有り様だった。車は引っ繰り返り、ビルは粉々に砕け、電線が火花を散らしている。
漏れ出したガソリンと火花が合わさり、炎となった。炎の波が瓦礫に閉じ込められて身動きの取れない人達を舐めとっていく。焼けて脆くなった瓦礫が落下する。このままでは火炙りにされている人達が潰されてしまう。

(助けなければ)

と、動こうとしたところで藍華から魔法通信が入る。そちらに一瞬気を取られてしまう。

『貴方は「暴走体」を探してください』

たった一言。
たった数秒。
それで目の前で人が死んだ。瓦礫に押し潰された。真っ赤な血が飛び散り、悲鳴が途絶える。染まった血が炎で焼かれて空へ昇る。

愛華は助けるのに手間がかかる人々を見捨てて、別のところにいる比較的安全な負傷者達を効率的に助けている。魔力ブレードで鉄骨を切り捨てて、崩れてくる建物を手際良く吹き飛ばしている。
あまりに効率的で、手際の良い救助だ。
迷いのない取捨選択に、銀河は彼女の論理感を問い正せずにはいられなかった。

「花宮さん、貴方に人の心は無いんですか。今僕を止めなければあの人達を救えていたかもしれない」
『それは無理です。炎で焼かれてた時点で全身大火傷、体の内部も相当焼けているでしょう。助かる見込みはありません』
「ですがそれでもまだ生きていました」
『死にかけを無理矢理生き延びさせて何の得があるのでしょう。私達の体力と魔力も無限じゃありませんので、自力でも助かる人を確実に助けます。効率よくスコアを稼ぎましょう。死体を持ち帰っても意味ないんですから』

最大多数の最大幸福に基づくのならば花宮愛華の言葉が正しい。
だが、しかし、あまりにも非道だ。
『効率と正しさ』を体現する藍華に、何も言えない銀河は、吐き出しようのない怒りを手のひらにぶつけていた。握り過ぎた拳から赤い血がしたたる。
そんな銀河を一瞥して、花宮藍華は冷静な声色で言う。

『何をサボっているんですか。仕事をしてください。『暴走体』を見つけて救助キルしないと一生終わりません。貴方は人を救いたいのでしょう? だったら余計な感傷に浸ってないで動いたらいかがでしょう』

銀河は自分の顔を殴った。そして大きく息を吸って、吐き出す。
頭の中をリセット。
感情をリセット。
全身をクリアにして、目標を素早く達成する。

「……感情と仕事を切り離すのは、容易じゃないな」

(よく負傷者をスコアと割り切れるものだ。僕が感情移入し過ぎなのか? 現実は厳しいことの連続で嫌になる)

もし自分が火に焼かれて助けを乞う側だった場合を想像すると助けずにはいられない。それは『非効率』だと切り捨てられる現実に、銀河は歯を食いしばって立ち向かう。

周辺をサーチすると一際強い魔力反応を検知した。恐らくこれが『暴走体』だろう。急行すると、丁度人が食べられている最中だった。その最後は恐怖の表情で固まっている。
もし、銀河が迅速に動けていたら助けられた命だ。それがまた心にさざ波を立てる。

「あれが『暴走体』」

巨大な牙とザラザラとした毛並み。
分厚い手足と鋭い爪。
血の池の中で雄々しく咆哮する四足歩行の巨大な獣。
まるでそれは巨大な狼だった。
銀河は素早く情報を伝達する。

「こちら綺羅星銀河、『暴走体』を確認。交戦開始します」
『わかりました。奮戦を期待します』

人間を咀嚼しながら、『暴走体』は新たな獲物を探して周囲を見回す。血走ったギャロとした瞳と目があった。怪物は吠えて、銀河に飛び掛かってくる。急降下着地する事で攻撃は避けれたものの、『暴走体』から放出される魔力が衝撃波となって体を揺さぶった。
平衡感覚が失われ、立っていることが出来ない。膝が折れて、片足をついてしまう。『暴走体』が僕を見失って無差別に攻撃を仕掛けている姿が見えた。止めなければ。このままだと被害が増えてしまう。揺れる視界。ブレる体に鞭打って立ち上がる。
と、そこで魔法通信が入ってきた。

『聞こえているかい? 銀河くん』

その声の主は驚くほど落ち着ついたものだった。

「シェパード隊長?」
『朗報だ、今回の『暴走体』は人間が取り込まれたわけじゃない。ただの野良犬だ。躊躇の必要はない』

『暴走体』は生物を取り込み破壊活動を行う。これまでに人間が取り込まれ、被害者ごと殺害するのが当たり前だった。今回はその例から外れたイレギュラーな個体だ。


「わかりました」
「おとこっちが本題なんだけど、これからの事を考えて『暴走体』からSCを引き剥がす技術を試してみたい。命懸けのデータ採りになるけど頼んで良いかな?』
「もし、僕がそのデータを採る事が出来れば、『暴走体』になってしまった人間を殺さずにSCを引き剥がす事が出来るようになるんですか?」
『確約はできない。だけど少し進歩する。危ないし、やっぱ駄目かい?』
「いいえ、やります」
『ありがとう! そう言ってくれると信じていたよ!』

銀河にとって助けを求める人がいて、そんな時に助かる力が無いのは嫌だった。もしも自分の頑張りで技術が進歩するならば、それをやり通す覚悟が彼にはあった。
平衡感覚が戻ってきたので、近くの物陰に身を隠して通信を続ける。

「何をすれば良いですか」
「『暴走体』からSCを摘出するには三つの工程が必要だ」
「三つの工程」
『フェーズ1、体力の消耗。フェーズ2、『暴走体』の動きを封じる。そして第三段階、SC封印弾を命中させる』
「SC封印弾とは?」
『第08魔装技術研究部が開発した対『暴走体』弾丸だね。着弾すれば即座にSCと生物を分離させる事ができる。だけど『暴走体』は素早い。発射音から発射位置を逆算されて射線から外れる可能性がある』
「だからフェーズ1とフェーズ2が必要なんですね」
『うん、その通り。こちらも狙撃魔力弾で援護するから、出来るだけ『暴走体』の体を削いで、拘束魔法で拘束して欲しい』
「了解です」
『それじゃ、作戦開始』

言葉が終わるのと同時に狙撃魔力砲弾丸が『暴走体』に突き刺さった。
つんざく音。飛び散る紫の体液。『暴走体』の怒りの咆哮。狙撃してきた方向を睨みつけながら、全身に魔力を滾らせている。それはやがて頭の方向に集まって防御障壁となる。その防御力は絶大で、シェパード隊長の狙撃が弾かれてしまっている。弾かれた狙撃魔力弾は空中で霧散した。
だが最初の不意をついた一撃は強烈だったようで、そこを庇うように不自然な姿勢になっていた。攻撃するならここだろう。

「魔力ブレード解放待機。魔力弾生成、射出待機」

『暴走体』に勘付かれないように魔力放出を最低限に留めながら懐に潜り込む。魔力弾の発射音と弾かれる音が断続的に聞こえる。こちらが動きやすいようにシェパード隊長が気を引いてくれているのだ。
慌てず、騒がず、素早く、静かに。
傷口に付近に到着すると銀河は叫ぶ。

「魔力ブレード全力解放! 魔力弾連続射出!」

一瞬で大きくなった魔力ブレードが『暴走体』を貫いた。不意ついた一撃が『暴走体』の集中を奪い、防御障壁が霧散する。そしてそこへ連射されていた魔力弾が着弾し、『暴走体』の体を削り取っていく。

『暴走体』が苦しそうな雄叫びをあげて、僕を排除しようと暴れまわる。しかしそれによって魔力操作を誤ったのだろう。防御障壁が粉々に砕けて、狙撃魔力弾が『暴走体』にヒットした。紫の血を噴水のように迸らせながら、『暴走体』が倒れる。
ズシンと大地が揺れた。紫の血が津波のように広がった。銀河の全身に『暴走体』の体液が降りかかって思わず苦虫を噛み潰したような表情になる。

「フェーズ1完了。フェーズ2開始……拘束魔法発動・多重展開」

魔力が『暴走体』に絡まって縛り上げていく。必死に逃れようと暴れまわるが、拘束魔法を破る事は出来ない。動けば動くほど魔力の拘束は強固になっていく。絞った果実のように紫の血が押し出されてくる。
ギチ、ギチ。ギチギチ。と
ブチュュッ、ギュルギュルと。
縛り上げて、最後にアンカーとして地面に突き刺さる。
『暴走体』が動けなくなったのを確認して銀河は魔法通信でシェパード隊長に連絡を取る。

「こちら綺羅星銀河。『暴走体』を拘束。フェーズ2からフェーズ3への移行を要請」
『……あー、ごめんね。それ無理になった』
「何故です? 何か、問題でも」
『アグレッサーと思われる不明存在に襲撃された』

気負わないサラッとした口調でシェパード隊長は言った。その言葉の軽さに思わず聞き返しそうになってしまうほど感情の篭ってない言葉だった。

『狙撃砲台は機能停止。支援攻撃は不可能だ。更に残念なお知らせ。SC封印弾全部消し飛んだ。データはあるから生産は可能だけど今すぐには不可能だね』
「シェパード隊長は大丈夫だったんですか?」
『うん。僕は現場にいないからへーき。部屋で指示出すだけだからね。狙撃とか色々やってくれた人は……死んでないみたいだけど反応なし。麻痺か睡眠で行動不能みたいだね』
「そうなんですか、てっきりシェパード隊長が狙撃してくれているものだとばっかり」
『いやいや、そんな面倒臭い事しないよぉ、僕は。体は動かさず口で人を救うのがモットーだからね。だから下部組織に色々指示して手助けしてたんだけど……うわ、こりゃあ酷い皆殺しならぬ皆麻痺だ。狙撃砲台にいた人達みんな拘束されちゃってるよこれ』
「指示の合間に一瞬で拘束ですか、なかなか手練れですね。それで、アグレッサーは今どこに?」
『うーんとね』

軽い調子でシェパードは言った。

『銀河君の右斜め後ろ』
「なっ!?」

――ブン! と顔面スレスレを刃が通り抜けていった。魔法通信が途絶し、ジャミングされたのがわかる。慌てて距離を取り、魔力ブレードを隙なく構える。

(シェパード隊長の忠告が無ければやられていた。全く気配を感じなかった。)

全身を緊張させながら息を整える。筋肉を動かして、即座に相手の行動に対応できる状態にする。

「子供……?」

立っていたのは小柄な少女だった。銀髪のショートボブだ。一部だけ長く残した後ろ髪を青いリボンでおさげにしている。瞳も銀色。水泳水着を連想させるガードジャケットを纏っていた。手にはロングソードが握られている。
少女は言う。

「どいて、ください。さもなくば、武力で排除します」

(こちらが奇襲を避ける力量があると判断して、対話に切り替えてきたか。頭が回る)

背後からの奇襲はとても高度なものだった。魔力反応を検知させず背後に出現し意識を刈り取る。それは洗練された匠のものだった。それは少女自身も自覚してるようで、それをシェパードの支援があったとはいえ回避した銀河の事を高い戦闘能力者だと判断し、対話での解決に切り替えたのだ。

銀河は少女の喋り方に違和感を抱いた。一言一言、言葉を区切っている。
まるで喋る事になれていない最近言葉を覚え始めたかのようだと。

「待ってほしい。僕の名前は綺羅星銀河だ。第08魔装救助隊をやっている。要求を聴きたい。君は何が目的なんだ? 話してくれれば戦わずに済むかもしれない」
「私は、『暴走体』にあるSCを、回収にしきました」

銀河は観察して相手の情報を推定する。
身長158センチ、推定体重は……12キロ。痩せているどころの話ではない。明らかに栄養が足りていないしかも体のあちこちに切り傷や打撲痕がある。内出血して紫色に変色してるところがいっぱいあるじゃないか。骨折もしている。こんな状態で動くなんてまともな状態ではない。
全身傷だらけだ。動かない部位は魔法で無理矢理動かしている……救わなければ。
病院に連れて行って適切な治療を受けさせなければ!

「わかった。SCは君にあげよう。こちらとしても封印弾を失ってしまってね、この『暴走体』の扱いに困っているんだ。回収できるならしてもらいたい」

本音を言えば『暴走体』は殺しておきたい。人間じゃないので躊躇う必要はない。後顧の憂いを断つ為に、SCもこちらが保有しておきたいが……銀河は魔装救助部隊だ。救いを求める人に手を差し伸べるのが仕事であって、国家の害となる存在を殲滅する軍隊ではない。銀河の力は戦う為ではなく守る為に振るわれるべき力だ。
銀河がゆっくりと『暴走体』から離れて魔力ブレードを消すと、アグレッサーの少女は『暴走体』に近づき呪文を唱える。

「蝕み這い寄る魔性の扉よ、その鍵を開けよ」

すると『暴走体』が砕けて初めて、粒子となってロングソードに吸い込まれていく。地面には傷一つない子犬が転がり、少女の手にはSCと思われる紅く輝く宝石が収まっていた。
SC。
スタンドコア。
生命体を吸収し、強化改造を行う魔法遺物。
危険なものだ。ただの犬を化物に改造してしまうとんでもない物だ。そんな危険なものを、どうして目の前の女の子は求めているんだろう? 銀河はとても気になった。
少女はこちらを向くと一礼を行った。

「譲ってくれて、ありがとうございます。優しい人。貴方を殺さなくて良かった」

そう言って飛び立とうとする少女に僕は叫んだ。

「待って! 聞きたいことがあるんだ」

空中から見下ろすような状況で、少女は言う。

「何を聞かれても、私は答えることが出来ません。それが母の命令ですから」
「……母親の命令」

この子は案外、知能が低いのかもしれない。いや、思考能力が低下していて当然だ。全身傷だらけの状態で魔法を使っている。銀河が奇襲を仕掛ける可能性だって考慮して警戒もしている事だろう。戦闘の兆しはないか神経を常に張り巡らせている筈だ。
それを続けて、まともな精神状態でいられるわけがない。言語能力はもちろん、判断能力だって低下する。

いや、決めつけは良くない。奇襲を避けると、対話に切り替えるだけの判断力は残っていた。この子は戦闘に関して、もっといえば目的達成の為の最適解を選択する能力には優れているのだ。だが、ぽろっと母親の命令と言っちゃうあたり、戦闘外の部分では思考が鈍くなっている可能性がある。

「SCを譲った。そのお礼として一つ。一つだけ質問に答えて欲しい」

少女は一瞬思案するような素振りを見せたが、こくんと首を縦に振った。

「君のその体、とても傷ついている。酷い状態だ。どうして?」

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