配属先の先輩が超絶美人だけど冷酷すぎて引く

笑顔付き

第2話 狂人達は

綺羅星きらぼし銀河ぎんがは緊張した面持ちドアの前に立っていた。脈打つ鼓動を落ち着かせて、手汗をポケットタオルで拭いた後、意を決してノックした。

扉の表札には『第08魔装救助部隊待機室』と書かれている。

ノックをすると中から「どうぞ」と声が返ってきた。
深呼吸して、扉を開ける。中の待機室には二人の人間がいた。
一人は穏やかな笑みを浮かべるタレ目の青年。
もう一人は明るめな茶色のロングヘアーが特徴的な白シャツと短パンというラフな格好をした少女。
その二人に向けて敬礼を行って、言う。

「失礼します。本日づけで配属になりました、綺羅星銀河一般隊員です。これから宜しくお願いします」
「はい。どうも宜しく。ウェルカム・マイ・ファミリー。私はウィル・シェパード。この第08魔装救助部隊の隊長です。色々と口うるさく言うと思うけど、そこは職務の為だと思って従ってくれると嬉しいな」
「はい。ご指導のほどを宜しくお願いします」
「ああ、いいよそんなに固くならなくて。ほどほどに緩くやっていきましょう」

と、そこで少女が言う。

「そうですね、彼の言う通り緩くやっていくのが良いでしょう。ここの人達はみんなおかしな人達ばかりですから」
「緩くといってもほどほどにってつけた筈なんだけどな。伝わってなかったのカナー」

少女は職務場にも関わらず制服ではなく私服、それも白シャツに短パンとラフな格好をしていた。それに部屋に備え付けられてるソファの上であぐらをかきながらカップラーメンを食べ始めている
あまりにも自由過ぎる。いくら緩くとはいっても限度があった。

「彼女は休憩時間か何かですか?」
「いや、勤務時間通りだよ。いつもこうなんだ。ガードジャケット着れば問題ないとはいえ、こう、秩序や意識的なものが低下しちゃうんだよね」
「秩序や意識なんてこの部隊には無いも同じでしょう。だったら変に型に嵌めず各々好きにやって、好成績残せば良いんですよ」
「いや、でもね?」

職場とは思えないあまりの個人主義に、銀河は思わず顔をしかめたしまう。彼はどちらかというと型に嵌って、連携するのが好ましいと思っていたからだ。
各自自由にやる無秩序は銀河にとってあまり好ましいものではなかった。だが当の本人、つまり銀河自身も命令無視をする人間だと思われて、この部隊に左遷されたと考えると、気が重くなる気がした。

「いいじゃありませんか、どうせここは問題児ばかりなんです。その中の一人が変な事をしたからといって咎められることも無いでしょう」
「うん、まぁ、そうなんだけどね。だけど自由過ぎないかなぁ……と紹介を忘れてた。彼女は花宮藍華。名前と見た目は可憐だけど、中身はズボラだから世話を焼いてあげてほしい」
「まぁ、なんという酷いお言葉でしょう」

シェパード隊長の言葉に、全く酷いと思っていない笑いを堪えた表情で、花宮藍華は抗議を口にした。

「名前と見た目は世界で一番美しいのに中身はズボラだなんて。ああ、人を傷つけようと思って発せられたその悪意に、私は傷ついてしまいました。私はシェパード隊長に訂正を求めます。私の中身は清純で白百合のように可憐で、美しいと」
「いつもこんな感じだから。結構面倒臭い絡み方をしてくる時もあるけど、そこは臨機応変に対応してあげて」
「わかりました」
「うん、良い返事ありがとう。紹介も終わった事だし、早速だけどお仕事のお話をしようか」

そう言うとシェパード隊長は魔法を発動させた。僕の目の前に事件の発生した場所や日時を始めとした様々な資料が空中投影される。軽く目を通すと、最近頻発している連続魔力暴走事件についての情報だった。

「銀河くん、まずは僕達魔装救助部隊について説明貰えるかい?」
「はい。魔装救助部隊は01から08まである民間人命救助部隊の総称です。数字が小さくなるほど練度が高く、危険な救助任務に従事する事になります」
「うん、うん」
「救助任務はテロリストからの人質の奪還、魔法生命体の排除、戦闘エリアからの避難誘導など多岐に渡ります。しかし最優先は人命です。これは絶対の上位優越性であり、人命救助の為ならば暴力や薬物投与などの行為が認められます」
「うん、正しい。では装備についても語って欲しい」
「はい。魔装救助部隊は魔法を使います。魔法は精神力の物質化です。精神の物質化なので見た目や性能に個人差がありますが、これも訓練によって一定の水準を満たした者だけが魔装救助部隊の資格を得る事が出来ます」

何があっても諦めてはいけない。精神を物質化しているのだから、それが諦めになってしまったら脆く儚く散ってしまう。生きる意志こそが身を守る盾であり、闇を切り裂く光のつるぎであり、人を救う糸であるのが魔装救助部隊。

「その通り。軍人さんが殺意と敵意を持って相手を殺すように、僕らは救命と救助の意思で事件と戦っていく。僕たちの敵は人であり、自然であり、運命でもあるけど、守るものは変わらない。命だ。僕達は一人で出来ることに限界がある。だから部隊なんだ。スーパーヒーローではなく魔装救助部隊である理由だ。それを忘れないで欲しい」
「わかりました」

つまりシェパード隊長は咎めているのだ。銀河の過去の行いを。『ターミナル区役所テロ事件』で独断専行した事実を。いや、咎めているのとはちょっと違う気もする。忠告やアドバイスが近いだろうか。

人間は一人できる事には限界があるよね。だったら役割分担しましょう。得意な事は自分で、不得意な事は仲間に任せましょう。そうやってみんなが自分の得意な事を続けて、他人の不得意を補い合っていけば、一人よりも早く、そして多くの結果を得られますよ。そしてそれで得た結果をみんなで分かち合いましょう。そうすればみんなハッピーだよね。そういう話だ。
ゲーム理論とかが近いものかもしれない。

「それを踏まえて、僕達はこれから連続魔力暴走事件に巻き込まれた被害者を救命する。原因の調査や事件の対処は他の組織がやってくれる。僕達は事件が起きた際に死者を出さないように市民を守る事だ。その為には事件の詳細を知っておかないといけない」

確かにその通りだ。
『どこから、どうして、どうやって』
これを知っているのと知らないのでは救命救助の方法が大きく変わってくる。知らなければ自ら市民を死地に追いやってしまう可能性が高まる。

「愛華ちゃん、音読お願い」
「はい、承知いたしました」

すると花宮藍華はカップラーメンを置いて、水を飲んだ後、僕の前に空中投影された資料をコピーして自分の元へ表示し、読み始めた。

「最近頻発している連続魔力暴走事件は『スタンドコアかっこ以降SCかっことじ』と呼ばれる魔法遺物が原因と思われる」

文章の横に紅く輝く宝石の写真が添付されている。見た目は手のひらサイズの小さな宝石だ。これが魔力暴走を引き起こすとはとても思えない。
魔法遺物というのは、死んだ人間が最後のに残した魔法だ。強い精神と大量の魔力が注ぎ込まれた魔法は、発動者が死亡しても消滅せずに残り続ける。

「このSCは触れた生命体を取り込み強化改造を施す特性があり、この強化改造に耐えきれない場合は精神が崩壊し魔力が暴走、無差別に破壊を撒き散らす存在へ変化する。この状態を『暴走体』と呼称する。『暴走体』を止めるには殺害が有効である。また殺処分以外の方法で『暴走体」を停止させる方法は現段階では発見できていない」

『暴走体』となってしまった人は殺処分されてきたのか。『暴走体』もSCによる被害者なのに、それは可哀想だ。どうにか殺害処理に代わる新しい方法が見つかる事を祈るばかりだ。

「現在確認されているSCは合計10個。魔法遺物収容所に輸送する途中で何者かの攻撃を受けて、紛失。行方を追っていたところ連続魔力暴走事件が発生。調査したところSCが原因と判明した。第08魔装救助部隊はSCに関連する事件の被害者を救助せよ。以上です。私のセイレーンのような美声はいかがでしたか?」

銀河は素直に思った事を口にする。

「内容が頭に入ってきやすい素晴らしい音読でした」
「ありがとうございます。そうやって率直に褒めてもらえるのは凄く嬉しくなります。良い人ですね、銀河さん」
「私も良い音読だと思ったよ。読んでくれてありがとう愛華ちゃん。現在、下部組織がSCを血眼で探しているけど、その進歩は芳しくない。確実に新しい魔力暴走事件が起きるだろう。その時の最優先事項は何か分かるかい、銀河くん」
「『暴走体』の殺処分です」
「残念ながらそれは違います」

花宮藍華が銀河の答えを否定した。

(違う……?)

『暴走体』が停止すれば被害は抑えられるのだからこれで合っている筈だ)しかしシェパード隊長もそれに頷き、花宮藍華に続きを促した。

「事件が起きた時の最優先事項は市民の避難誘導です。事件の解決ではなく生命の救助を最優先。さきほどシェパード隊長が仰ったように、命を助けるのが私達魔装救助部隊のお仕事ですから」
「うん。愛華ちゃんの言う通りだ。まずは市民の避難を最優先。それから『暴走体』の殺処分。優先順位を間違えないように」
「わかりました、申し訳ありません」

銀河は顔が赤くなるのを感じた。命が最優先だと分かっていたのにも関わらず外してしまった。考えてみれば当たり前の話だ。いくら『暴走体』を殺処分させれば被害が止まるとはいえ、殺処分しようと戦闘を行えば周囲に被害が出るのは当たり前の話だ。
やはり僕は考えなしというか、短絡的な思考に走る傾向がある。命令無視をして炎の中に突入した時もそうだった。
気をつけなければならない。

「市民を避難させ、『暴走体』を殺処分した。これでもまだ足りないんだ。もう一つ、考慮しなければならないように存在がある」
「ああ!」

花宮愛華が声をあげた。

「魔法遺物収容所への輸送中に襲ってきた何者かですね。一体何が目的なのでしょう。私……とても興味があります」
「考えられる目的としては魔法遺物を研究したいからとか、『暴走体』を生物兵器として利用する為でしょうか?」
「それは襲った犯人に聞くしかないだろうね。私達はこの犯人をアグレッサーと仮称する。そしてSCを狙って連続魔力暴走事件に介入してくる可能性がある。市民の命を守り、『暴走体』を始末、SCを確保し、襲撃してくるアグレッサーを撃破する。これが今回私達がやるべき任務だ」

食べ終わったカップラーメンをゴミ箱に捨てながら、藍華は優雅に笑う。

「ふふ、今回の任務はどのくらいスコアを稼げるのか楽しみです」
「救助対象をスコア扱いするのはやめろと私は何度も言っている筈だよ、花宮愛華隊員」

強めの口調で咎めるシェパード隊長。愛華ちゃんではなく団員と呼んだところから、本気で咎めているのがわかる。しかしそれを軽く受け流して花宮愛華は言う。

「良いじゃないですか、私達08救助部隊は奇人変人オタク厄介者鼻つまみ者の寄せ集め。だから、任務さえこなせれば非道でも構わないでしょう。少なくとも私はこの意見を曲げるつもりはありません」
「自分が非道だと自覚があるならそれを隠す努力はしてくれ」

銀河は花宮愛華は狂人だと思った。
人の心がない悪魔だと。救助対象をスコア扱いなんてまともな人間の思考ではない。さっさと首にした方が良いのではないだろうか。人の命を左右する職務についていると自覚が無いのか?
花宮愛華の見た目は好きだが、性格というか救助対象をスコア扱いする価値観は好きになれない。出来る事ならあまり関わりたくない部類の人間だ。

(できる事なら彼女と別行動が好ましい……ですが)

「ああ、そうだ。言い忘れてたけど、連続魔力暴走事件は花宮藍華と綺羅星銀河両名のみで救助活動してもらう。相棒としてお互いを助け合い、協力して救助するように」

どうやら、それは叶わないみたいだ。

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