ドリーミン・ソルジャー

ヤマトノ

ファーストバトル

とうとう彼女ができた。

僕の高校生活が一気に花開いたような気がした。

僕の名前は刈田誠一(カリタセイイチ)。

現在高校2年生で剣道部に所属。

『セイちゃん』とあだ名される、どこにでと居そうなごく普通の高校生だ。

だが、馬面なのと背が高いのがコンプレックス。

そんな僕でも好きと言ってくれる人がいるなんてこの世はまだまだ捨てたもんじゃない。

彼女の名前は神野麻由(ジンノマユ)。

同じクラスでテニス部のキャプテンを務めている。

大人し目だけどよく笑顔を振りまいてくれる優しい子だ。

これで僕はバラ色の人生を歩むんだと思っていた。

しかし、これをキッカケに周りの同級生が少しだけ接し方が変わったような気がする。

親友の田辺彰人(タナベアキト)は僕と彼女の関係をからかうようになった。

彼はサッカー部に所属する明るい奴だ。

僕は彼を『たなべっち』と呼んでいる。

彼のからかいは日に日に度が過ぎるようにもなり、いくらたなべっちでも少しうっとうしく感じてしまっていた。

まあ、たなべっちも麻由のことを可愛いなとか言っていたから、少し妬いているところもあるのかもしれない。

また、野球部の浜野京介(ハマノキョウスケ)からはチョイチョイ視線を感じるようになった。

まあ、彼とはクラスが同じというだけで特に仲良くはなく、僕と彼女が一緒に居るのを物珍しそうに見ているのかもしれない。

そういえば、彼は転校生だったな。前に居た学校ではこういう風景もなかったのだろうか?

一番問題なのがバスケ部の矢谷謙太(ヤタニケンタ)だった。

彼は麻由の元カレだったが、まだ麻由に気があるみたいだ。

別れたのにこだわる理由が僕には分からなかったが、彼とはしょっ中衝突した。

「お馬さんみたいな顔をしてるくせに」とか「おい!ノッポ!邪魔なんだよ!」と僕の容姿を侮辱する子どものような性格だ。

その度に「ハイハイ」と軽くあしらったが、その態度も彼は気に入らなかったらしい。

いつしか僕は彼女を奪ったと恨まれるようになった。

いろいろと生活が変わり、少し気疲れもしているが部活の剣道にもより一層力を入れるようになった。

そんなある日、奇妙な出来事が起こる。

いつも通り通学していると、体にチクッと針を刺されたように感覚に襲われた。

初めは特に気にしていなかったが、定期的に

チクッ、、、チクッ、、チクッと体に痛みが走る。

授業中もこの痛みがなかなか消えてくれないので、保健室で休んでは早退した。

「何か、変な病気にかかっちゃったのかな」と不安が過る。

両親は共働きなので、1人家で寝ていた。

しかし、不思議なことに家に居るとその痛みはスッと消えた。

熱もなく、体調自体が悪いわけでもないので、明くる日にまた学校へ行く。

だが、またもや通学途中にチクチクと僕の体に痛みが走る。

不安になって、たなべっちに相談をした。

からかい屋のたなべっちだからバカにしてくるかと思ったが、昨日の早退を不思議に思っていたらしく、親身になって聞いてくれた。

「袖をまくってみてよ」と僕の体に異変がないかどうか調べてくれた。

「うーん、特に目立ったところはないけどな〜」と言いながらも病院に行くことを勧められた。

だが、熱があるわけでもないし、他に体調が悪いわけでもない。

何となく渋ってしまい、普段通りの生活を続けた。

何日か経ったある日、麻由の様子も少しおかしかった。

何となく無理して笑っているように僕は感じた。

放課後の2人きりの教室。

「何かあった?」と聞いても「ううん」と特に教えてくれなかった。

まだ、付き合って数週間。

もうフラれてしまうのかと内心焦った。

まさか、矢谷の元に戻る気じゃと苛立ちもあったが、それよりも体が痛い。

「というか最近おかしいのは誠一くんの方だよ。」と麻由が口を開く。

「何か隠していることあるでしょ?」と僕に問い詰めた。

体の痛みのことは余計な心配をさせてしまうかなと思い、特に教えていなかった。

だが、日に日に痛みは強くなるし、僕も不安を抱えきれなくなったのもあって、ここ最近の異変を細かく話した。

「全身が痛むの?」と麻由が聞き返し、コクっとうなずくと「ちょっと上脱いで見せてみてよ。」と真剣な表情で僕に言う。

僕は少し恥ずかしかったが、言われたようにワイシャツを脱ぐと麻由が顔をしかめた。

「背中にぶつぶつができてるよ?」

「えっ!?」

慌てて背中を触って確認してみると、確かにぶつぶつができているように感じた。

手にはわずかだが血が付いている。

いや、背中だけじゃない。

二の腕や足にも。

よく分からないかすり傷のようなものもあった。

たなべっちと確認したときは特に傷なんて付いていなかったのに。

一体、何なんだろう?

不安はさらに大きくなり、家に帰る。

やっぱり家の中では、痛みはスッと消えてなくなる。

傷の痛みは若干感じるけど。

さすがに不安になって、スマホであれこれ調べた。

すると、ある一件の広告に目が止まる。

『最近、何にもないところで、誰かからまるで攻撃されているような感覚に襲われていませんか?』という見出しだ。

「そうそう、まるでこんな感じの痛みだ」と広告をタップすると、登録画面のようなページに切り替わる。

普段はそういう胡散臭いサイトはすぐに消してしまう性格だった。

インターネットであらゆるサービスを利用したこともない。

だけど今は焦りの方が勝ってしまい登録を進める。

名前と住所、メールアドレスを入れるだけの簡単な入力作業だった。

入力を完了させるとほぼ同時にメッセージを受信した。

そのメッセージにはこう書かれていた。

『ドリーミンへようこそ!このサイトでは、あなたの私生活に潜む真実を暴きます。もし、ご興味がありましたら、あなたの住所内にある裏山自然公園のつどいの広場に足を運んでみてください。』

もちろん、何を言いたいのか僕には分からなかった。

「真実を暴くって何だろう?なぜ裏山自然公園になんか行かなきゃならないんだ?」

ともあれ、このまま体が傷つけられる毎日は嫌だし、かといって家に篭りっぱなしも真っ平ゴメンだ。

せっかくこれから楽しい学園生活が始まろうとしているのに。

いろいろ疑いつつもメッセージ通りに僕は裏山自然公園のつどいの広場に向かった。

広場は野外ライブ用のステージがあるのだが、そのステージはなぜか光が集まっているように見えた。

地面が異常にキラキラと輝いている。

ステージの屋根に所々隙間があるからその影響だろうか?

だが、特段何かが落ちているというわけでもなく、疑問に思いながら広場を後にした。

家に帰り、夜ごはんを食べ終えて風呂に入る。

切り傷やかすり傷が染みて痛みを感じた。

ため息をつきながら僕は布団に入った。

すると、僕は何かに飲み込まれていくかのように意識が遠のいていった。



ふと気がつくと裏山自然公園のつどいの広場に僕は立っていた。

なぜここにいるのかが分からず、僕は辺りをキョロキョロ見渡した。

いつもと変わらない公園だ。

不思議に思いながら、ふとステージを見てみると、昼頃に地面が輝いていた場所に一本の剣が刺さっていた。

「まるでゲームの世界だ。」と思わず呟いた。

その剣のところに近づいてみる。

剣は両面が刃になっていて、柄の方はご丁寧にカッコよくデザインされてある。

興味本位で剣を引き抜いては振り回してみる。

剣道で使う竹刀よりもサイズは大きいが、不思議と片手で振り回すことができた。

その時、ズボンのポケットからスマホのバイブが鳴ったのを感じた。

スマホの画面には僕の住む地域の地図が映し出されていた。

そして、僕のいる地点は⇧で示されている。

気になってスマホを見つめていると、学校の方で警告マークが突然現れた。

アドベンチャーゲームも好む僕には推測自体は簡単だった。

剣があって、電子的な地図がある。

ということは、この剣を持って学校に行き、モンスターやらを倒さなければいけないのかもしれないと。

そして、ここは夢の中だとハッキリ分かっていたのだが、不思議とほっぺたをつねっても目が覚めない。

どうやら、ミッションを達成しなければ夢から醒めないらしい。

とりあえず、レーダー反応があった学校に行ってみる。

さすがは夢の中で、移動はほぼ一瞬だった。

気がつけば学校の校舎に到着していた。

まがまがしい妖気は何と僕のクラスから放たれていた。

急いでクラスに行くと、傘子を被ったガイコツがクラスの中から僕を睨んでいる。

手には槍を持っている。

すると、僕に向かって突然槍を投げてきた。

剣道で鍛えられた反射神経は夢の中でも見事に発揮。

剣で槍をはたき落とし、僕もガイコツに襲いかかる。

剣の一振りはガイコツを真っ二つに切り裂いた。

「よ、、弱い(笑)」

ガイコツはそのまま青白い炎を出しながら消えてしまった。

これでミッションクリアかなと思い、スマホの画面をチェックすると、地図上に赤い斑点のようなものが隣町の学校にまで続いていた。

「一体何なんだ?」

地図を見ながら、僕は赤い斑点を辿ってみることにした。

すると、刀や槍、弓矢を持ったガイコツ兵士たちがわんさか町で彷徨っていた。

恐る恐る通りを歩いていると、ガイコツ兵士らはこちらに向かって襲いかかってくる。

僕も力一杯剣を振り下ろし、ガイコツ兵士を斬り倒していく。

まるで時代劇の殺陣を披露しているかの如く。

華々しいこの姿を麻由に見てほしいくらいだった。

しかし、ザッと数えるだけでも何十体とうろついている。

さすがに1人だけでは苦労した。

僕が周りの様子を一旦確認しようと剣を止めた隙に、矢が僕の腕に刺さった。

「痛っ!」と反射的に腕を払ったが、夢の中だからかさほどダメージはない。

だが、この痛みはものすごく馴染み深い痛みであった。

「最近、チクチクと感じていた痛みに似ている気がする。」

「……もしかして、コイツらが俺の体に攻撃していたのか?」と疑問に思いつつも直ぐに首をブンブン横に振った。

「まさか。だってこれは夢だぞ?なんで夢に出てくる奴らが現実世界にまで現れるんだよ。とりあえず、今はこの状況を何とかしなきゃ」

斬り進めていくごとに、ガイコツ兵士も少しずつ強くなってきた。

僕の剣を防ぎ、一回斬っただけでは倒れないようになっていた。

矢もビュンビュン飛んでくる。

槍で何度か体を刺され、チクッ、、チクッとあの嫌な痛みが体中に走った。

ピンチかなとも思ったが、目の前のガイコツ兵士を斬り倒し、後ろを振り向いていたら青白い炎があちこちに燃えていた。

進行方向にもう一度目をやると、隣町の高校にたどり着いていた。

校舎はなぜか入れないようになっており、グラウンドに行くよう立て札に示されていた。

指示に従い、グラウンドに入る。

すると、ガイコツ兵士らが土の中から5体ほど出てきた。

「またかよ。。」と剣を握りしめると、奥の森の方から馬に乗ったガイコツ兵士が槍をブンブン振り回しながら登場した。

いわゆる、ボス的な存在だなと僕は一瞬で感づいた。

馬は縦横無尽に駆け回り、なかなか狙いが定まらない。

普通の移動は一瞬なのに、何故か戦いの時だけ現実世界の足の速さと変わらないという不親切な設定であった。

とりあえずは取り巻きのガイコツ兵士から倒そうとするが、さすがはボスの親衛隊といったところか、なかなかの強敵になっていた。

1体を何とか倒したが、馬に轢かれて僕はゴロゴロと地面で転がり回った。

夢の中でもさすがに結構痛かった。

襲いかかってきたガイコツ兵士の足を払って、腹に剣をひと刺し。

残る取り巻きは3体だ。

しかし、ボスの動きを確認しながら取り巻きも相手にするのはかなりしんどかった。

ボスが馬を上手く操りながらこっちへ向かってくるのが見えた。

馬からはなるべく遠ざかりつつ、すぐにガイコツ兵士を斬り倒す作業の繰り返しだ。

ガイコツ兵士はあと1体というところまで来た。

よし!とガイコツ兵士を倒しに向かうが、その一瞬の隙に馬に乗ったボスに背中を取られて槍で胴を突かれた。

「ぐあっ!!」と思わず叫び、その場にうずくまる。

うずくまっている間、布団でもがいている僕の姿がぼんやりと映し出された。

「ゲームオーバーになると強制的に起こされてしまうのかな…」

根拠はなかったが、何となくこの夢のシステムが分かったような気がした。

何とか起き上がったものの、これまでとは違って痛みが続く。

前方から馬が砂を蹴立てて走ってくる。

後方にはガイコツ兵士がジリジリと迫ってきていた。

僕は馬にぶつかるかどうかのところで、必死に横へ避けるようダイブした。

馬はそのままガイコツ兵士を轢いて、取り巻きはこれで全て居なくなった。

馬はまたグルグルとグラウンドを走り回り、一旦止まるとまた僕を目掛けて突進してきた。

馬を倒しても、そのままボスにやられてしまっては意味がない。

だから、剣を安易に投げるわけにもいかなかった。

馬がまもなく僕を轢く寸前で、今度は地面に滑り込むようにして突進を避けた。

そのまま、馬の後ろ足を剣で斬り、馬はバランスを崩して地面に転がり込んだ。

この勢いでボスガイコツへ向かって剣を振り下ろすが、長い槍で防がれた。

そして、とうとうボスとの一騎打ちが始まる。

ジリジリとお互いに間合いをとる。

夢と現実は違うかもしれないが、僕には数多の実践経験がある。

動体視力だけはお手の物だった。

ボスガイコツが僕の顔を目掛けて槍を突いてきた。

それを僕は首を少し傾げてかわし、一気に前進した。

一瞬怖気付くボスガイコツを気にも止めず、僕の剣はボスガイコツを貫いた。

ボスガイコツは残る力を振り絞って僕の首を締めかかる。

しかし、その力は次第に弱くなっていき、ボスガイコツは青白い炎を身に纏いながら、地面にバラバラと崩れていった。

ボスガイコツが消えていくと、何かがポトっと落ちてきた。

足下には馬の絵と『S』という文字を象ったアクセサリーのようなものがあった。

何だろうと不思議に思っていたら、突然目の前が歪み始めて僕はその場で倒れ込んでしまった。



気づいたら現実世界の僕は目が覚めていた。

時計は7時半を指している。

「遅刻するわよ〜!」と母が僕を呼んでいる。

手を何回か握って、夢だったんだなと改めて実感した。

外の空気はいつにも増して美味しかった。

チクチクする痛みは完全に無くなっていた。

たなべっちに話すと安心した様子でまた僕をからかい出した。

麻由もいつもと変わらない様子だった。

またいつもと変わらない学校生活を過ごして帰宅する。

部屋で寝転がっているとスマホが鳴り出した。

そこに一件のメッセージが届いていた。

『ファーストミッションクリアおめでとうございます。さらなるご健闘をお祈りしています。』

そこには写真も添付されていた。

その写真を見てみると、馬の絵とS字のアクセサリーが写っていた。

「これは!?」とつい画面に顔を近づけた。

さらにもう一件メッセージが届く。

『ミッションは残り2つございます。これをクリアすると貴方の生活に忍び寄る真実を掴むことができるでしょう。今回のヒントはその一部でしかありません。』

僕はスマホの画面を消して、部屋の窓を開けた。

夜だったが、生温かい風が顔に吹いてきた。

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