日常のち冒険~俺は世界を超えて幼馴染を救う~
第41話 スキンシップ
この日、お互いの好意を伝えあったディーンとエレナ。
これで二人が死ぬようなフラグを立てることは無いだろう。もうこれ以上、ミロシュさんのような犠牲は懲り懲りだ。
「あの、直哉?」
俺が草原で大の字に寝転がっているとセーラさんが上から覗き込んでいた。
「あ、セーラさん。どうもです」
「ワタクシも隣で寝転がっても構いませんか?」
「全然大丈夫ですよ」
俺がそう言うと、セーラさんは俺の横に寝転がった。
セーラさんの胸についてるそれは呼吸に合わせて上下を繰り返している。
「あら?直哉はこれには興味がありませんのね」
セーラさんは胸を右手で揺らして見せた。
「俺、慎ましやかな方が好みなんですよ」
「そう……なんですね」
大体俺が真顔で『俺、慎ましやかな方が好みなんで』とか言うと、9割9分の人はドン引きするんだが、セーラさんはクスリと微笑んだだけだった。その時の月明りに当てられたセーラさんの肌は妙に艶めかしかった。
「俺、何か変なこと言いましたか?」
クスリと笑ったものだから何に笑ったのかが気になった。
「いえ、そういう殿方もいるのだなぁと思いまして。大体の殿方はわたくしと話す時、目を合わせてくれないんですよ」
「目線が……その、胸の方を向いていると?」
セーラさんは俺に自嘲気味な笑顔を向けた。寝転がっているためか横を向けば、セーラさんの顔がお互いの息がかかるくらいに近い。おそらく、俺以外の男なら欲情して良からぬことを働くことだろう。
「そういえば、俺、セーラさんに聞きたいことがあるんですけど、この際聞いても良いですか?」
「そうですね。ワタクシの胸に欲情しなかったご褒美ということで。良いですよ。何が聞きたいのですか?」
俺はバーナードさんとの戦いを終えた翌日の祝勝会でのことを思い返した。
「セーラさんって元々王国騎士団に居たんですよね?何で辞めちゃったんですか?」
「ああ……それですか。まだ、誰にも話したことがないのですが……」
セーラさんは王国騎士団を辞めた経緯を話してくれた。
セーラさんは元々リラード伯爵家の令嬢だった。父に剣の腕を見込まれ、騎士団に入団。
騎士団に入ったセーラさんはメキメキと頭角を現し、50人ほどの中隊の隊長に抜擢された。
その後も部隊を率いて目覚ましい活躍をした。
しかも、当時のセーラさんには婚約者がいた。その男の名はクレマン・オルガド。彼もまた騎士団の中隊の隊長を務めていたんだそうだ。
彼との結婚式も三日後に控えたある日のこと。悲劇が起こった。
クレマンさんは自らの隊を率いて暗殺者ギルドの討伐へと向かったのだという。
しかし、クレマンさんの隊が帰還することはなかった。
上官にクレマン隊を捜索するように命じられたセーラさんは彼が向かったという暗殺者ギルドへ向かった。
そこで見たのは無残にも体中を斬り刻まれた婚約者とその部下たちだった。
セーラさんはすぐに突入して仇を取ろうとしたのだが、部下たちに諫められて撤退したんだそうだ。
そうして、愛する人を失ったセーラさんは心が折れて、騎士団を去った。
それが8年前のこと。
それから実家に戻った際に身ごもっていることが発覚したらしい。
産んでもお腹の子たちに父は居ない。そのことからお腹の中の子を産むのかどうか迷ったんだそうだ。
しかし、セーラさんは「この子たちを亡きクレマンの忘れ形見として産んで育てて、一生を終える」と心に決めたんだそうだ。
その後、セーラさんは子供を産んだ。何と、双子で二人とも女の子だったんだそうだ。それから2ヶ月ほどした時に、父から家宝のレイピアを譲られた。
セーラさんは父に何故レイピアを渡したのかを聞くとこう言われたんだそうだ。
『セーラ、お前は国を守る騎士になりたいと小さいころから言っていたな。なら、“国を守る”とは何のことだと思う?』
『……分かりません』
『国を守ること。それは則ち民を守ることだ。国は民あってこそのモノだ。王だけが残っても国は作れない。国とは民があってこそ成り立つのだ。お前は民のために戦え。民の願いを聞き届け、叶える。さすれば民を守ることになり、国を守ることになるのだ』
この言葉を聞いて、セーラさんは子供たちを連れてローカラトの町で何でも屋を開くことを決めたんだそうだ。
「……どうかしら?これが騎士団を辞めて何でも屋を始めた経緯よ……って何で泣いてるのですか、直哉!?」
「いや……だって、辛過ぎるでしょ。それに今の話……お父さん、良い人だし」
ホント、好きな人がこの世から消えるって辛い話だと思う。
「ワタクシがこの遠征に付いてきたのは殺されたミロシュの無念を晴らすためって言うのもあるんだけど。それよりもワタクシの中ではクレマンの無念を晴らしたいって気持ちの方が大きいのよ」
「セーラさん、また今度で良いんですけど。そのクレマンさんの話、聞かせてください」
俺がそう言うと、セーラさんはニコリと微笑んだ。
「ありがとね、直哉。その時はあなたが今から助けに行くお姫様と聞きに来てくださいね」
そんな時、俺は1つの事を思い出した。
「じゃあ、今娘さんたちはどうしてるんですか?」
そう、セーラさんが居ないのなら二人の娘はどうしているというのか。
「昨日、父の元に預けてきました。それで皆さんと合流が遅れてしまったのですよ」
……なるほど、それで出発ギリギリだったのか。
「それじゃあ、ワタクシはこれで失礼しますね」
セーラさんはそう言って立ち上がって、向こうへと行ってしまった。
俺はセーラさんの秘められた過去を知った。
愛する人が目の前から突然、居なくなってしまう。そんな気持ちをしている人は俺以外にもいるのだ。
そんなことを思ったりした。
「俺も戻って寝るか」
俺はキャンプ地へと戻る際中。
紗希と……ついさっき向こうへ行ったセーラさんを見かけた。あの二人が一緒に居るなんて、何かあったんだろうか?
「お~い!二人とも何してるんだ?」
「……あ、兄さん!」
「あら、直哉。どうかしたのですか?」
俺が声をかけると、紗希の服の中に両手を突っ込んでいるセーラさんの姿が。
「……いや、何しとんねん」
……何故かは分からないが、関西弁が。
いや、それよりどういう状況なんだよ。これ。
「……ひゃあ!ちょ、ちょっと……セーラさん……!」
……なぜ、俺が目の前で喘いでいる妹を見なければならないんだ!
「セーラさん、ちょっと紗希から離れてもらっていいですか!」
俺が強めの口調でセーラさんに言うと、セーラさんはキョトンとした表情を浮かべていた。
「……それじゃあ、直哉。誰が紗希ちゃんの服に手を突っ込めるんですか?」
……どういうことだ?話が全く見えない。
「えっと、そもそも何でセーラさんは紗希の服の中に手を突っ込んでるんですか?」
「あ、そうでした。そこから説明した方が良いですね」
セーラさんが紗希の服から手を引き抜くと紗希は息を荒げながらペタリと地面に崩れ落ちた。
……こんな汗をかいて、息を荒げている紗希をもし、通りがかりの男に見られでもしたら……!
マズい!それはダメだ!紗希が薄い本のネタにされるようなことはあってはならない!
……と、ひとまずそれは置いておくとして!落ち着け、俺!
「セーラさん、こうなった事情を聞かせてください」
「そうですね……」
セーラさんは俺と話した後、紗希と会ったんだそうだ。それで他愛もない話をしながら森の近くを歩いていると、つい先ほど紗希の服に落ち葉か何かが入ったらしく、ちょうどそれを取っていたところらしい。
「いや、事情は分かった。それなら俺が取るよ」
……セーラさんがやると、紗希がもたない。……何か手つきがやらしかったし。
「はら、紗希。後ろを向いてくれ」
「うん、分かった」
俺は後ろを向いた紗希の服の中に手を突っ込む。
「……ん!に、兄さんのが中に!」
「おい!その言い方は止めてくれ!誤解されるだろ!」
そんな紗希の様子にため息をつきながらも、紗希の背中辺りを触っているとザラザラした感触が。
「お、これだな」
「そう、そこそこ!ひゃん!もっと優しく……!」
「紗希、一生のお願いだ。……静かにしてくれ」
どうして落ち葉を取るだけでここまで疲れるんだ……!
「……先輩」
俺が服の中から落ち葉を取り出したのと同時に、背後から聞きなれた後輩の声が。
俺が恐る恐る後ろを振り向くと、そこには青ざめた表情の茉由ちゃんが。マズい、茉由ちゃんから見れば俺が紗希にいかがわしいことをしているようにしか見えない!
「茉由ちゃん、待ってくれ。これには深~いわけが……」
「……先輩がまさかここまでのクズだとは思いませんでした!今すぐに死んでください!こんな鬼畜をお姉ちゃんに会わせられません!」
「だから、茉由ちゃん!これには……」
俺が茉由ちゃんの所へ走り寄る。
「こっちに来ないでください!変態!シスコン!」
そう言いながら茉由ちゃんによって繰り出された回し蹴りを頬にくらい、俺は土の匂いを感じながら意識を手放した。
――――――――――
「……ここは?」
俺は頬をさすりながら体を起こした。
「あ、兄さん。気が付いたんだね」
「ま、まあな。それよりも茉由ちゃんの誤解を解かないと……!」
起き上がってすぐに走り出そうとすると、紗希に手首を掴まれた。
「……紗希、どうかしたのか?」
「茉由ちゃんの誤解はボクから説明しておいたから、もう大丈夫だよ」
「……そうか。それはありがとうな」
ホント、誤解が解けてなかったら俺は“妹にいかがわしいことをした変態”呼ばわりされるところだった……。
「あら、直哉?目が覚めたみたいですね」
「ああ、セーラさん。どこかへ行っていたんですか?」
「ええ。これを取りに行ってたのですよ」
セーラさんの持っているトレーの上には4つの皿が。この匂いは……イモ?
「ポタージュスープです。はい、直哉と紗希ちゃんの分も」
俺と紗希の横にある木製の台の上にセーラさんはポタージュスープを置いた。
「……セーラさん。どうして皿が4つあるんですか?」
そう。ここには俺と紗希、セーラさんの3人しかいないのだ。
なのに皿は4つある。どうしてだ?
「そろそろ出てきたらどうなんですか~?」
セーラさんがそう近くの木陰に呼びかける。
すると、木陰から茉由ちゃんがゆっくりと姿を現した。
「……茉由ちゃん?どうかしたのか?」
何やら茉由ちゃんは俯いていて元気がないように見える。
「……いえ、誤解で先輩を蹴り飛ばしてしまったので……!」
「別に謝らなくていいよ。誤解を招くようなことをした俺も悪いし」
「……でも、謝っておきたいので謝ります!すみませんでした!」
……結局、謝らせちゃったよ。
「それはもういいから、茉由ちゃんもこっちに来て一緒にポタージュスープ飲もう」
「……はい!」
茉由ちゃんも加えた俺たち4人は昼間の気温からは想像できないほどの冷たい夜風に吹かれながら、ポタージュスープを飲んだ。
「……そう言えば、茉由ちゃん!守能先輩とはあれからどうなの?」
紗希が隣で茉由ちゃんに話しかける。やっぱり紗希はこういう恋バナを聞くのが好きなんだろうな。
「え、特には何もないかな……」
「押し倒されたりとかは?」
「……!ないない!それはないから!」
……"それはない”か。これは面白そうだ。俺も話に混ぜてもらおう。後で寛之をからかうネタになりそうだ。
「茉由ちゃん」
「あ、何ですか?先輩」
茉由ちゃんにグイグイ迫っていく紗希を片手で制しながら茉由ちゃんは俺の方を振り向いた。
「さっき、それはないって言ってたけどそれ以外のことは何かしたの?」
「何か……ですか?」
茉由ちゃんはキョトンとした様子だ。まあ、それもそうか。やっぱり言いたいことははっきりと言わないとな。
「寛之とチューしたの?」
こういう時は状況を思い出しやすい擬音で尋ねると相手が頭に聞かれたことを頭に浮かべやすいのだ。あくまで個人的な経験として。
……それは一度おいておくとしてだ。
「な、な、な……!」
茉由ちゃんの顔が真っ赤だ。これはキスしたな。茉由ちゃんの様子を見て、俺はそう確信した。
「茉由ちゃん、顔が赤いけどどうかしたの?」
「……!」
俺が声をかけた途端、茉由ちゃんは何も言わずに耳まで紅に染め上げて向こうへ走り去ってしまった。
「……兄さん、黒い笑みを浮かべててホントに楽しそうだったね」
……俺、そんな笑みを浮かべてたのか。
「いや、でも気になるだろ?」
「そりゃあ、ボクも気にはなったけど……でも、やり過ぎ。後でボクと一緒に謝りに行こうね。強制的に話させるのは良くないし」
「……だな、さすがにやり過ぎたか。今度機会を改めて寛之の方に聞きに行くとしよう」
とりあえず、茉由ちゃんには明日の朝にでも謝りに行こう。早朝なら誰も起きてないだろうから、謝罪の内容を聞かれることは無いだろうし。
「ひゃん!」
「今度は何だ!?」
俺が振り向くと紗希の脇腹の辺りをセーラさんがいかがわしい手つきで触っていた。
おそらく急にくすぐったいことをされて驚いたのだろう。にしても、セーラさんのあの手の動きはどうにかならないのか……?
これじゃあ、女の子同士で……!
……はっ!いかんいかん。今は紗希を助ける方が優先だ!
「セーラさん……何してるんですか?」
「あ、別に変なことはしてないのよ?」
……もう、十分変なことしただろ!
「紗希ちゃんのお腹周りがスッキリしていて羨ましいな……と思いまして」
「……なるほどな。そういうことか」
紗希はそれこそお腹周りに無駄なモノはついてないし、何なら胸の所にも……じゃなくて!
「……そういうセーラさんだって十分細いと思いますよ」
「……そうなのかしら?」
……それこそボンキュッボンじゃなかったらストライクゾーンだっただろう。まあ、俺はボンキュッボンよりもキュッキュッキュッの方が好みだからな。
「……兄さん、セーラさん怖かった……!」
「……そうか。後は俺に任せて今日は寝るんだ。このセクハラお姉さんは俺が何とかするからな」
「うん、分かった」
そう言って紗希は敏捷強化を使って馬車へと戻っていった。
「セーラさん、今後一切、紗希にああいうことは止めてもらっていいですか?」
「……もちろん。そもそも酒に酔った勢いですから……!」
「いや、セーラさん。酒、飲んでなかったですよね?」
「……バレてしまいましたか」
「はぁ……」
……俺はこの一件の後、セーラさんを出来る限り紗希に近づけないことを誓った。
そして、セーラさんの俺の中でのイメージはこうなった。
『セクハラ系お嬢様』……と。
これで二人が死ぬようなフラグを立てることは無いだろう。もうこれ以上、ミロシュさんのような犠牲は懲り懲りだ。
「あの、直哉?」
俺が草原で大の字に寝転がっているとセーラさんが上から覗き込んでいた。
「あ、セーラさん。どうもです」
「ワタクシも隣で寝転がっても構いませんか?」
「全然大丈夫ですよ」
俺がそう言うと、セーラさんは俺の横に寝転がった。
セーラさんの胸についてるそれは呼吸に合わせて上下を繰り返している。
「あら?直哉はこれには興味がありませんのね」
セーラさんは胸を右手で揺らして見せた。
「俺、慎ましやかな方が好みなんですよ」
「そう……なんですね」
大体俺が真顔で『俺、慎ましやかな方が好みなんで』とか言うと、9割9分の人はドン引きするんだが、セーラさんはクスリと微笑んだだけだった。その時の月明りに当てられたセーラさんの肌は妙に艶めかしかった。
「俺、何か変なこと言いましたか?」
クスリと笑ったものだから何に笑ったのかが気になった。
「いえ、そういう殿方もいるのだなぁと思いまして。大体の殿方はわたくしと話す時、目を合わせてくれないんですよ」
「目線が……その、胸の方を向いていると?」
セーラさんは俺に自嘲気味な笑顔を向けた。寝転がっているためか横を向けば、セーラさんの顔がお互いの息がかかるくらいに近い。おそらく、俺以外の男なら欲情して良からぬことを働くことだろう。
「そういえば、俺、セーラさんに聞きたいことがあるんですけど、この際聞いても良いですか?」
「そうですね。ワタクシの胸に欲情しなかったご褒美ということで。良いですよ。何が聞きたいのですか?」
俺はバーナードさんとの戦いを終えた翌日の祝勝会でのことを思い返した。
「セーラさんって元々王国騎士団に居たんですよね?何で辞めちゃったんですか?」
「ああ……それですか。まだ、誰にも話したことがないのですが……」
セーラさんは王国騎士団を辞めた経緯を話してくれた。
セーラさんは元々リラード伯爵家の令嬢だった。父に剣の腕を見込まれ、騎士団に入団。
騎士団に入ったセーラさんはメキメキと頭角を現し、50人ほどの中隊の隊長に抜擢された。
その後も部隊を率いて目覚ましい活躍をした。
しかも、当時のセーラさんには婚約者がいた。その男の名はクレマン・オルガド。彼もまた騎士団の中隊の隊長を務めていたんだそうだ。
彼との結婚式も三日後に控えたある日のこと。悲劇が起こった。
クレマンさんは自らの隊を率いて暗殺者ギルドの討伐へと向かったのだという。
しかし、クレマンさんの隊が帰還することはなかった。
上官にクレマン隊を捜索するように命じられたセーラさんは彼が向かったという暗殺者ギルドへ向かった。
そこで見たのは無残にも体中を斬り刻まれた婚約者とその部下たちだった。
セーラさんはすぐに突入して仇を取ろうとしたのだが、部下たちに諫められて撤退したんだそうだ。
そうして、愛する人を失ったセーラさんは心が折れて、騎士団を去った。
それが8年前のこと。
それから実家に戻った際に身ごもっていることが発覚したらしい。
産んでもお腹の子たちに父は居ない。そのことからお腹の中の子を産むのかどうか迷ったんだそうだ。
しかし、セーラさんは「この子たちを亡きクレマンの忘れ形見として産んで育てて、一生を終える」と心に決めたんだそうだ。
その後、セーラさんは子供を産んだ。何と、双子で二人とも女の子だったんだそうだ。それから2ヶ月ほどした時に、父から家宝のレイピアを譲られた。
セーラさんは父に何故レイピアを渡したのかを聞くとこう言われたんだそうだ。
『セーラ、お前は国を守る騎士になりたいと小さいころから言っていたな。なら、“国を守る”とは何のことだと思う?』
『……分かりません』
『国を守ること。それは則ち民を守ることだ。国は民あってこそのモノだ。王だけが残っても国は作れない。国とは民があってこそ成り立つのだ。お前は民のために戦え。民の願いを聞き届け、叶える。さすれば民を守ることになり、国を守ることになるのだ』
この言葉を聞いて、セーラさんは子供たちを連れてローカラトの町で何でも屋を開くことを決めたんだそうだ。
「……どうかしら?これが騎士団を辞めて何でも屋を始めた経緯よ……って何で泣いてるのですか、直哉!?」
「いや……だって、辛過ぎるでしょ。それに今の話……お父さん、良い人だし」
ホント、好きな人がこの世から消えるって辛い話だと思う。
「ワタクシがこの遠征に付いてきたのは殺されたミロシュの無念を晴らすためって言うのもあるんだけど。それよりもワタクシの中ではクレマンの無念を晴らしたいって気持ちの方が大きいのよ」
「セーラさん、また今度で良いんですけど。そのクレマンさんの話、聞かせてください」
俺がそう言うと、セーラさんはニコリと微笑んだ。
「ありがとね、直哉。その時はあなたが今から助けに行くお姫様と聞きに来てくださいね」
そんな時、俺は1つの事を思い出した。
「じゃあ、今娘さんたちはどうしてるんですか?」
そう、セーラさんが居ないのなら二人の娘はどうしているというのか。
「昨日、父の元に預けてきました。それで皆さんと合流が遅れてしまったのですよ」
……なるほど、それで出発ギリギリだったのか。
「それじゃあ、ワタクシはこれで失礼しますね」
セーラさんはそう言って立ち上がって、向こうへと行ってしまった。
俺はセーラさんの秘められた過去を知った。
愛する人が目の前から突然、居なくなってしまう。そんな気持ちをしている人は俺以外にもいるのだ。
そんなことを思ったりした。
「俺も戻って寝るか」
俺はキャンプ地へと戻る際中。
紗希と……ついさっき向こうへ行ったセーラさんを見かけた。あの二人が一緒に居るなんて、何かあったんだろうか?
「お~い!二人とも何してるんだ?」
「……あ、兄さん!」
「あら、直哉。どうかしたのですか?」
俺が声をかけると、紗希の服の中に両手を突っ込んでいるセーラさんの姿が。
「……いや、何しとんねん」
……何故かは分からないが、関西弁が。
いや、それよりどういう状況なんだよ。これ。
「……ひゃあ!ちょ、ちょっと……セーラさん……!」
……なぜ、俺が目の前で喘いでいる妹を見なければならないんだ!
「セーラさん、ちょっと紗希から離れてもらっていいですか!」
俺が強めの口調でセーラさんに言うと、セーラさんはキョトンとした表情を浮かべていた。
「……それじゃあ、直哉。誰が紗希ちゃんの服に手を突っ込めるんですか?」
……どういうことだ?話が全く見えない。
「えっと、そもそも何でセーラさんは紗希の服の中に手を突っ込んでるんですか?」
「あ、そうでした。そこから説明した方が良いですね」
セーラさんが紗希の服から手を引き抜くと紗希は息を荒げながらペタリと地面に崩れ落ちた。
……こんな汗をかいて、息を荒げている紗希をもし、通りがかりの男に見られでもしたら……!
マズい!それはダメだ!紗希が薄い本のネタにされるようなことはあってはならない!
……と、ひとまずそれは置いておくとして!落ち着け、俺!
「セーラさん、こうなった事情を聞かせてください」
「そうですね……」
セーラさんは俺と話した後、紗希と会ったんだそうだ。それで他愛もない話をしながら森の近くを歩いていると、つい先ほど紗希の服に落ち葉か何かが入ったらしく、ちょうどそれを取っていたところらしい。
「いや、事情は分かった。それなら俺が取るよ」
……セーラさんがやると、紗希がもたない。……何か手つきがやらしかったし。
「はら、紗希。後ろを向いてくれ」
「うん、分かった」
俺は後ろを向いた紗希の服の中に手を突っ込む。
「……ん!に、兄さんのが中に!」
「おい!その言い方は止めてくれ!誤解されるだろ!」
そんな紗希の様子にため息をつきながらも、紗希の背中辺りを触っているとザラザラした感触が。
「お、これだな」
「そう、そこそこ!ひゃん!もっと優しく……!」
「紗希、一生のお願いだ。……静かにしてくれ」
どうして落ち葉を取るだけでここまで疲れるんだ……!
「……先輩」
俺が服の中から落ち葉を取り出したのと同時に、背後から聞きなれた後輩の声が。
俺が恐る恐る後ろを振り向くと、そこには青ざめた表情の茉由ちゃんが。マズい、茉由ちゃんから見れば俺が紗希にいかがわしいことをしているようにしか見えない!
「茉由ちゃん、待ってくれ。これには深~いわけが……」
「……先輩がまさかここまでのクズだとは思いませんでした!今すぐに死んでください!こんな鬼畜をお姉ちゃんに会わせられません!」
「だから、茉由ちゃん!これには……」
俺が茉由ちゃんの所へ走り寄る。
「こっちに来ないでください!変態!シスコン!」
そう言いながら茉由ちゃんによって繰り出された回し蹴りを頬にくらい、俺は土の匂いを感じながら意識を手放した。
――――――――――
「……ここは?」
俺は頬をさすりながら体を起こした。
「あ、兄さん。気が付いたんだね」
「ま、まあな。それよりも茉由ちゃんの誤解を解かないと……!」
起き上がってすぐに走り出そうとすると、紗希に手首を掴まれた。
「……紗希、どうかしたのか?」
「茉由ちゃんの誤解はボクから説明しておいたから、もう大丈夫だよ」
「……そうか。それはありがとうな」
ホント、誤解が解けてなかったら俺は“妹にいかがわしいことをした変態”呼ばわりされるところだった……。
「あら、直哉?目が覚めたみたいですね」
「ああ、セーラさん。どこかへ行っていたんですか?」
「ええ。これを取りに行ってたのですよ」
セーラさんの持っているトレーの上には4つの皿が。この匂いは……イモ?
「ポタージュスープです。はい、直哉と紗希ちゃんの分も」
俺と紗希の横にある木製の台の上にセーラさんはポタージュスープを置いた。
「……セーラさん。どうして皿が4つあるんですか?」
そう。ここには俺と紗希、セーラさんの3人しかいないのだ。
なのに皿は4つある。どうしてだ?
「そろそろ出てきたらどうなんですか~?」
セーラさんがそう近くの木陰に呼びかける。
すると、木陰から茉由ちゃんがゆっくりと姿を現した。
「……茉由ちゃん?どうかしたのか?」
何やら茉由ちゃんは俯いていて元気がないように見える。
「……いえ、誤解で先輩を蹴り飛ばしてしまったので……!」
「別に謝らなくていいよ。誤解を招くようなことをした俺も悪いし」
「……でも、謝っておきたいので謝ります!すみませんでした!」
……結局、謝らせちゃったよ。
「それはもういいから、茉由ちゃんもこっちに来て一緒にポタージュスープ飲もう」
「……はい!」
茉由ちゃんも加えた俺たち4人は昼間の気温からは想像できないほどの冷たい夜風に吹かれながら、ポタージュスープを飲んだ。
「……そう言えば、茉由ちゃん!守能先輩とはあれからどうなの?」
紗希が隣で茉由ちゃんに話しかける。やっぱり紗希はこういう恋バナを聞くのが好きなんだろうな。
「え、特には何もないかな……」
「押し倒されたりとかは?」
「……!ないない!それはないから!」
……"それはない”か。これは面白そうだ。俺も話に混ぜてもらおう。後で寛之をからかうネタになりそうだ。
「茉由ちゃん」
「あ、何ですか?先輩」
茉由ちゃんにグイグイ迫っていく紗希を片手で制しながら茉由ちゃんは俺の方を振り向いた。
「さっき、それはないって言ってたけどそれ以外のことは何かしたの?」
「何か……ですか?」
茉由ちゃんはキョトンとした様子だ。まあ、それもそうか。やっぱり言いたいことははっきりと言わないとな。
「寛之とチューしたの?」
こういう時は状況を思い出しやすい擬音で尋ねると相手が頭に聞かれたことを頭に浮かべやすいのだ。あくまで個人的な経験として。
……それは一度おいておくとしてだ。
「な、な、な……!」
茉由ちゃんの顔が真っ赤だ。これはキスしたな。茉由ちゃんの様子を見て、俺はそう確信した。
「茉由ちゃん、顔が赤いけどどうかしたの?」
「……!」
俺が声をかけた途端、茉由ちゃんは何も言わずに耳まで紅に染め上げて向こうへ走り去ってしまった。
「……兄さん、黒い笑みを浮かべててホントに楽しそうだったね」
……俺、そんな笑みを浮かべてたのか。
「いや、でも気になるだろ?」
「そりゃあ、ボクも気にはなったけど……でも、やり過ぎ。後でボクと一緒に謝りに行こうね。強制的に話させるのは良くないし」
「……だな、さすがにやり過ぎたか。今度機会を改めて寛之の方に聞きに行くとしよう」
とりあえず、茉由ちゃんには明日の朝にでも謝りに行こう。早朝なら誰も起きてないだろうから、謝罪の内容を聞かれることは無いだろうし。
「ひゃん!」
「今度は何だ!?」
俺が振り向くと紗希の脇腹の辺りをセーラさんがいかがわしい手つきで触っていた。
おそらく急にくすぐったいことをされて驚いたのだろう。にしても、セーラさんのあの手の動きはどうにかならないのか……?
これじゃあ、女の子同士で……!
……はっ!いかんいかん。今は紗希を助ける方が優先だ!
「セーラさん……何してるんですか?」
「あ、別に変なことはしてないのよ?」
……もう、十分変なことしただろ!
「紗希ちゃんのお腹周りがスッキリしていて羨ましいな……と思いまして」
「……なるほどな。そういうことか」
紗希はそれこそお腹周りに無駄なモノはついてないし、何なら胸の所にも……じゃなくて!
「……そういうセーラさんだって十分細いと思いますよ」
「……そうなのかしら?」
……それこそボンキュッボンじゃなかったらストライクゾーンだっただろう。まあ、俺はボンキュッボンよりもキュッキュッキュッの方が好みだからな。
「……兄さん、セーラさん怖かった……!」
「……そうか。後は俺に任せて今日は寝るんだ。このセクハラお姉さんは俺が何とかするからな」
「うん、分かった」
そう言って紗希は敏捷強化を使って馬車へと戻っていった。
「セーラさん、今後一切、紗希にああいうことは止めてもらっていいですか?」
「……もちろん。そもそも酒に酔った勢いですから……!」
「いや、セーラさん。酒、飲んでなかったですよね?」
「……バレてしまいましたか」
「はぁ……」
……俺はこの一件の後、セーラさんを出来る限り紗希に近づけないことを誓った。
そして、セーラさんの俺の中でのイメージはこうなった。
『セクハラ系お嬢様』……と。
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