日常のち冒険~俺は世界を超えて幼馴染を救う~

ヌマサン

第33話 爆炎を纏いし者

俺は今、もの凄い危機に瀕している。バーナードさんの爆裂魔法の連発でボロ雑巾みたいな恰好をしている。

折れてしまったサーベルはどうしようもないので予備に持っていたもう一本のサーベルに鋼の強度を付加エンチャントし直して使用している。

何故、鋼の強度を付加エンチャントできたのか。さっき目の前で鉄の強度を付加エンチャントしたサーベルが切られたのを目の当たりにしている。

一応「見た」ことになるし、イメージは出来た。そういうわけで、もしかしたら……と思いやってみたわけだ。理論としては無茶苦茶だが。

先程、バーナードさんの斬撃も無事に受け止めれているので効果は実証済みだ。ていうかあれで今手に持っているサーベルが切られたら俺は素手で戦う羽目になっていただろう。

「さっきはよくも俺を罵ってくれやがったな!」

でも、このままじゃあ、バーナードさんの放つ爆裂魔法の炎で汚物のように消毒されてしまう!

そこで問題だ!この状況をどうやって打開するか?

3択― 一つだけ選びなさい。

答え①小ズルい俺は突如反撃のアイデアがひらめく

答え②仲間が来て助けてくれる

答え③汚物としてこのまま消毒される

俺としてはこの絶望的な状況の中、答え②に〇をつけたい所であったが、みんなそれぞれ敵と戦っているはずだ。助けに来てくれることは期待できない。

突如、『絶望!突きつけられた答えは③ッ!現実は非情なりッ!!』と脳内で再生された。

「……俺は何としてもやつを倒す!」

……俺は答え①を選択することにした。

俺は今にも逃げだしそうな自分を叱咤し策を練ろうとした。

しかし、何せ策をゆっくりと考えさせてくれないのだ。

どこかの中二病の娘のように爆裂魔法一発かまして寝ていてくれた方がどれだけ楽だったことか。

「どうした!反撃してこないのか?」

あえて威力を抑えて数で仕掛けてきている。別段くらってもそこまでのダメージは無さそうだ。しかし、一発当たれば連続で当たってしまうパターンだと俺は知っている。

だから、俺は一夜漬けの試験勉強をしている時のような必死さで、これらの爆発をかわし続けているのだ。

「うおっ!」

そんな中、俺は不注意で足元の石ころにつまづいてしまった。

「ふん、終わりだな」

俺の脳は瞬時に理解した。『終わった……』と。しかし、やれることはやった。その上での敗北なら誰も俺を責めないだろうと思った。

しかし、爆発の寸前。俺は何か強い力に二の腕を引っ張られ、爆発に巻き込まれずに済んだのだ。

俺は誰が助けてくれたのか匂いで分かった。

「紗希、助かったよ……」

俺が顔を目線を上へやると、思っていた通り、紗希がそこにいた。それだけで安心した。

「兄さん、大丈夫!?」

紗希はボロボロの俺を気遣ってくれる。しかし、そう言う紗希の方も傷だらけだった。

「俺は大丈夫だ。シルビアさんは倒してきたのか?」

「うん、もちろん!じゃないとボクはここにいないよ」

紗希はにこやかに返事を返した。

「それもそうだな。あと、体に治癒魔法を付加しておいたからな。ほっとけば傷は徐々に治る」

「兄さんも?」

もちろん、俺も自分に治癒魔法を付加した。そのため受けた傷は少しずつだが塞がりつつある。

「ふん、青銅ブロンズが一人増えた所で戦況は何も変わらん」

バーナードさんは俺たち二人を嘲笑った。俺の心の中のイライラが今にもバーナードさんに襲い掛かりそうだ。

俺を侮辱するのは良い。だが、俺がイラっと来たのは紗希を、妹を侮辱されたからだ。

「兄さん、落ち着いて」

「ああ、すまん……」

俺は紗希の一言で嘘のように心に平穏が戻って来た。

そして、俺と紗希は再び両手で剣を構え、バーナードさんと対峙した。

そこへ俺たちから見て左の通りから二つの技が撃ち込まれた。

「"聖刃せいじん”!」

「"砂嵐サンドストーム”!」

俺は技名から誰が来たのか、すぐに分かった。

「直哉さん、紗希さん!遅れたッス!」

「二人とも無事で良かったです!」

ディーンとエレナちゃんの加勢もあってこれで4対1だ。

しかし、それでもバーナードさんの余裕な態度が崩れることはなかった。

そこへさらに四人増えた。大通りから寛之とその肩を貸している茉由ちゃん。

そして、残りの二人は屋根の上からヒーローのように登場した。

「みんな無事だったか!」

「みんな、ここまで辿り着いてるとは思わなかったわね」

洋介と武淵先輩だ。これでようやく八人全員が揃った。バーナードさんは剣を持った右の拳をプルプルと震わせていた。

「あいつらが青銅ブロンズなんぞに負けるほど弱かったとは……!見損なったぞ……!」

どうやらバーナードさんが拳を震わせていたのは俺たちに負けた仲間たちへの怒りだったようだ。

「後はバーナードさんを倒せば俺たちの完全勝利だな」

「兄さん、それフラグ……」

「しまった……!」

盛大にフラグを立ててしまった俺は気を紛らわせようと戦場を見渡す。

紗希は治癒魔法を付加したから大丈夫そうだ。魔力がどれだけ残っているのかは分からないが。

ディーンは戦う意思があるが、鎧の破損が激しい。

その隣のエレナちゃんは杖に寄りかかっている。おそらく、動くのもやっとかもしれない。

俺の横にいる寛之は口から血が垂れている。血でも吐いたのだろうか?そして、衣服には血が滲んでいる。そんな様子から激戦があったことを窺わせる。

寛之に肩を貸している茉由ちゃんは小さい傷が各所に見受けられた。寛之に比べれば軽傷だが、前衛の戦士としては動きにくいだろうな。

洋介や武淵先輩は目立った傷は無いが、すでに息が上がっている状態だ。

全員万全の状態ではない。そんな状態でバーナードさんに勝てるのだろうか?

いや、やれることは全部やろう!さっきまでと違って俺一人で戦うわけじゃないんだからな。

「全員に治癒魔法を付加エンチャント!」

ラウラさんのように傷を早く治すことはできないが、徐々に傷が塞がるのでかけないよりはマシだろう。

「直哉、これは……!」

横にいる寛之は驚いたように黒い目を見開いていた。

「これでほっとけば傷は治る。茉由ちゃんくらいのかすり傷なら1分かからずに全回復だ」

「ありがとうございます!先輩!」

茉由ちゃんは感謝の言葉をくれた。

だが、俺の付加術はこういったサポートが一番向いている気がする。

「紗希と茉由ちゃんは前衛を頼む。バーナードさんの気を引き付けておいてくれ」

「分かった!」

「分かりました!」

紗希と茉由ちゃんは元気よく返事をして、バーナードさんの方へと剣を構えて向かって行った。

「直哉、僕たちはどうするんだ?」

「俺たちはエレナちゃんの所へ行って、態勢を整えよう」

寛之は笑顔をこぼしながら頷いた。そして、俺たちの動きに気付いた武淵先輩がこちらを振り向いた。

俺はディーンとエレナちゃんの方へ運んでほしい旨を身振り手振りで伝えた。

それで伝わったのか、先輩は重力魔法で一気に俺たちをディーンたちの所へとスライドしてくれた。

「直哉さん、寛之さん!どうしてここに?みんなで一斉に攻めるんじゃないんスか?」

「ここを拠点にしようと思う。エレナちゃんの疲労具合が感じられたから、俺たちがここに移動して拠点にしようと思っただけだよ」

エレナちゃんは申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

「エレナちゃん、どうかしたの?」

「いえ、私が迷惑かけたみたいで……」

「大丈夫、気にしないで。それより、二人はどれくらい魔力が残ってる?」

傷は治癒魔法を付加エンチャントしてるから時間が経てば治るだろうが、魔力を回復させることはできない。

そして、魔力の残り具合で戦い方が変わってくるだろう。

「俺は"聖刃”三回分しか残ってないッス」

「私は"砂壁”か"砂嵐”のどちらか一回分だけだよ」

「僕は……「お前には聞いてない」」

寛之は「ヒドイ……」といって地面にへなへなと座り込んだ。

俺がふと、バーナードさんの方を見てみると紗希、茉由ちゃん、洋介、武淵先輩の四人で代わる代わる攻撃していた。これにはいくら格下とはいえ、バーナードさんに休む機会を与えずに攻撃していれば消耗させられるだろう。

しかし、その直後。俺たちはバーナードさんとの格が違う事を思い知らされることになった。

「図に乗ってんじゃあねえぞ!」

バーナードさんの周囲で一斉に爆発が起こった。その衝撃波は離れた所にいた俺たちの元まで届いた。そして、空気が震えているのを俺たちは感じた。

「直哉、何なんだよ、この威力の魔法は……!」

俺は何も言葉を返すことが出来なかった。先ほどとも違う。こんな威力の爆裂魔法、俺の時には使ってなかった……!

バーナードの周囲には黒い煙の上がっている紗希、茉由ちゃん、武淵先輩の姿があった。

「……"雷霊拳らいれいけん”!」

「遅い!」

雷を纏った拳を突き出すものの、足元がふらついていた洋介はバーナードさんに切り伏せられてしまった。

……洋介の斬られた傷は時間が経てば治るだろう。だが、治って動けるようになった頃には俺たちが動けるか分からない。

しかし、これで前衛組は全滅したという事実は俺たちの心に深く恐怖を刻み込んだ。

「……次はお前らか」

バーナードさんはギロリと殺気を帯びた目で俺たちの方を睨みつけた。まるで蛇に睨まれたカエルのように俺たちは動く事が出来なかった。

「くたばれ!」

バーナードさんは左手を俺たちの方へと向けた。

この時、俺はあることに気が付いた。しかし、気付いたのがあまりにも遅かった。

俺は今度こそもう駄目だと思った。しかし、俺たち三人は無事だった。かすり傷一つついていなかった。

そして、俺が顔を上げると杖を持った一人の漢が立ち塞がっていた。

目の前に展開されていた障壁が砕け散って行く。

そして、寛之は地面に顔から倒れこんだ。

「おい、寛之!しっかりしろ!」

「……直哉、後は任せた。僕はどうやら今ので魔力を使い切ってしまったようだ」

「……分かった。後は俺たち三人が何とかする。お前はゆっくり休んでろ」

寛之は安心したのかゆっくりと目を閉じた。

俺は壁際に寛之を移動させて壁にもたれかけた。

「直哉さん!どうするッスか?」

ディーンは戸惑った様子で俺に話しかけてくれた。

「二人はここを動かないでくれ」

俺がそう言うと、二人は戸惑った様子だった。それもそうだろうな。

「直哉さんに任せるッスよ。別に俺たちにいいアイデアがあるわけでもないッスからね」

「うん、だから直哉君に任せるよ」

「ありがとう。それじゃあ……」

俺は二人の耳元であることを呟いた。それから地面に放置したままの剣を手に取り、バーナードさんの方へ歩き出した。

これはイチかバチかの賭けだ。ミスれば俺の……いや、俺たちの敗北を意味する。責任重大である。

「どうした?作戦会議は終わったのか?」

「はい。それじゃあ、全力でやりましょう。悔いが残らないように」

辺りを尋常ならざる緊張感が包む。さっきから心臓がビクン、ビクンと跳ねている。音もバクバクとうるさい。

「いいだろう。次で決めてやる。うだうだと長引くのは俺も望むところではないからな」

そう言って、バーナードさんも左手に魔力を集中させているようだ。俺も剣を構えて備える。

「これで終わりだ!」

そう言って、バーナードさんの左手から最後の爆裂魔法が放たれた。俺は一歩も動くことなく魔法を受けてしまった。

近所の道路工事にも勝る轟音と鼻を衝く焦げ臭いにおい。そして、爆風と爆炎が俺の体を包んでいく。体が溶けそうなほどに熱い。

俺は瞬時に高熱耐性を付加エンチャントした。爆裂魔法の耐性を付加エンチャントしていたため思っていたほどのダメージは無かった。今更ながら爆裂魔法の耐性をみんなに付加エンチャントするの忘れてたな……。

そして、俺はバーナードさんへ一撃をくらわせるために爆炎の中を突っ切った。

「馬鹿な!?何故動ける!?」

俺はディーンとエレナちゃんに合図を送った。

二人は残りの全魔力を込めた“聖刃”と“砂嵐”を俺へと放った。

俺はすでに爆炎を纏っているサーベルでこの二つを受け止めて付加エンチャントした。

光と砂、炎の三属性の魔力の融合。魔力融合は指数関数的に威力が上昇する。3つだから、約9倍になるわけだ。

俺はバーナードさんの胴体目がけて渾身の一撃を放った。とりあえず、その一撃を"聖砂爆炎斬”とでも名付けておこう。

バーナードさんは"聖砂爆炎斬”をサーベルで受け止めたものの、彼のサーベルは一撃の威力に耐えることは出来ず、粉々に砕け散った。そして、バーナードさんは"聖砂爆炎斬”をくらって後ろの壁へ掃除機に吸い込まれる埃のような勢いで叩きつけられた。

「馬鹿な……俺がこんな青銅ブロンズ如きに負けるだと……!」

バーナードさんは魔力も使い果たし、指一本動かす力も無いようだった。

こうして戦いは終結した。気が付けば辺りは闇の中。日が暮れていたのだった。

俺たちはその後、治療班による治療を受けた。

……といってもポーションぶっかけられただけだけどな!

俺たちはもう町に戻って休むように言われ、おとなしく町へ馬車を使って戻った。

「みんな、お疲れ様。今日のところは夕食を食べてゆっくりと体の疲れを取ると良い」

さらに、ウィルフレッドさんから祝勝会は明日にするから今日は安心して休むように言われた。

俺たち八人はギルドで軽く夕食を摂り、汗を流してから各々の帰る場所へと帰った。

明日の祝勝会とかで呉宮さんのこととか聞けたりするんだろうか?

俺はそんなことをふと思い出したが、疲れが溜まっていたこともあり、睡魔に身を委ねることにして意識を手放した。

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