日常のち冒険~俺は世界を超えて幼馴染を救う~

ヌマサン

第31話 反撃の狼煙

「バーナードさんよ、俺がここで終わるとか何とか言ってたが、どうした?その剣で俺を斬るんじゃなかったのか?……あっ!もしかして、俺に負けるのが怖くなっちゃったとか?ダッセ~」

それから俺は次々と罵詈雑言を浴びせかけた。俺の予想通り、バーナードさんは加速的にイライラが増していっているのが分かる。

「あ、ひょっとして、そのサーベルが砕け散る前に自分の自信とやらが砕け散っちゃった感じですか~?」

……この煽ることによってバーナードさんの冷静な戦術眼を狂わせてやろうというのがこの作戦の狙いだ。そして、戦いでは感情的になった方が負けなのだ。それくらい戦いを知らない、平和主義な俺でも知ってることだ。

「……てめえ、人を舐めるのも大概にしておくんだな」

そう言って、バーナードさんは一度下ろしていたサーベルを再び振り上げた。

ここまでは計算通りだな。

「その人を舐め腐った態度、すぐに後悔させてやる!」

バーナードさんはサーベルを俺の頭上へと振り下ろしたが、俺は指を二回動かしただけで、それ以上のことは何もしなかった。

「バカな!何故斬れないんだ!?」

何故、俺を斬ることが出来なかったのか。原因は二つある。

まず、俺は指をバーナードさんのサーベルの方へ向け、刃先に氷を付加エンチャントしていたのを解除した。

それからサーベルが振り下ろされる前に俺の体に『同化』の魔法を付加したのだ。

ちなみに同化魔法はウィルフレッドさんの魔法だ。

俺たちが初めてギルドに来るときに崖をすり抜けていた。あの時にも使っていたものだ。しかし、のちに一度に同化できるのは一つの属性だけだと教えてくれた。

しかし、同化魔法は魔力の消費が比較的激しいので俺は斬られる一瞬だけそれを付加した。

あと、もちろんのことだがサーベルがすり抜けた後はまたサーベルに氷を付加しなおした。

俺は一瞬の間に付加エンチャントを三回も使ったので魔力を予想以上に消耗してしまった。

なので、この手はもう使えない。

「ちっ!さては自分の体にウィルのおやじの同化魔法を付加エンチャントしやがったな」

……あれ?こんなあっさり見抜かれるもんなの?

「タネが分かればどうということは無いな。この手は魔力の消費が激しいから二度と使えまい。止めを刺してやるぞ、小僧!」

バーナードさんの眼には新たな闘志が宿っていた。

……やっべぇ。どうしよ……!このままじゃ、俺はマジに死ぬかもしれない。

――直哉がマズいことになってる頃、地下水道での戦いは白熱していた。

「やるじゃねえか、チビ!」

「ちょっと!ちっちゃい言うな!」

砂の壁と炎を纏った斬撃がぶつかる。火の粉と砂の粒が舞い散る中、エレナとピーターは戦っていた。

ここまで一進一退。勝負がつく気配がない。それはもう一方も同じだった。

光と風を纏った斬撃が何度も交差する。ディーンとスコットだ。

「お前が、おいらとここまでやりあえるとは思わなかったぞ」

「それはこっちのセリフッス……よ!」

再び二つの斬撃が真正面からぶつかる。その後、両者ともに一度間合いから離脱し、相方の元へと戻った。

「この二人がここまで強いとは思わなかったぞ」

「おい、兄貴!次で決めるぞ!」

スコットとピーターの二人は剣に魔力を集中させ始めた。本当にこれで決めるつもりなのだろう。

「ディーン、あれやってみない?」

「でも、あれは修業の時に練習したッスけど、まだ一度も成功したことないッスよ?」

二人の言っているあれとはこの戦いの前にラウラさんに提案された技である。ディーンの言う通り、まだ成功したことのない技である。

「私もディーンも残りの魔力も僅かだし、あれに賭けようよ」

エレナの提案にディーンは判断しかねていた。

「兄貴、あいつら諦めたみてえだな」

「よぉし、一気に片付けるぞ!」

二人は間合いをジリジリと詰めていく。一気に詰めてこない辺り、戦い慣れていることを感じさせる。

「……ディーン!」

「仕方ない、やるッスよ!エレナ、準備!」

ディーンの瞳には何か覚悟のようなものが宿ったように感じる。

「うん!」

エレナは嬉しそうに短い返事をして、そのまま目を閉じて詠唱に入った。

一方のディーンは剣身に魔力を収束させた。その剣は光り輝き、薄暗く、鼻をつくニオイのする地下水道を照らした。

ディーンは集中するように静かに目を閉じて、腰を落とし、剣を斜に構えた。そして、光り輝く剣の周りに砂がまとわりついていく。

砂……そう、エレナの砂魔法だ。

二人が言っていたのは魔力融合のことだ。要するに合体技をやろうということだった。

――魔力融合とは魔法の威力を指数関数的に上昇させるもののことである。1つの魔法だけなら1の威力しか出ないが、2つの魔法を掛け合わせることで4倍くらいの威力になる。ちなみに3つなら9倍くらいの威力になる。

しかし、威力が高い分、魔力のコントロールに使用者の体力をごっそりと持っていかれてしまうのだ。

……二人が魔法に集中している間に、スコットがディーンの胴体目がけて剣を振り下ろさんと接近していた。

一方のピーターはディーンの後ろにいるエレナを狙ってディーンの後ろへ向かおうとしていた。

そして、ピーターがディーンの横を通り過ぎらんとした時、ディーンは目を鳥のように一気に見開いた。

「これでも喰らっとけッスよ!"聖砂ノ太刀せいさのたち”!」

ディーンが喉を潰しそうなほどのボリュームで技名を吠えると光り輝く刃が砂を周囲に纏ってスコットとピーターへと襲い掛かった。

「"炎霊斬えんれいざん”!」

「"風霊斬ふうれいざん”!」

二人とも慌てた様子で、自らの精霊魔法を使って相殺しようとした。

"聖砂ノ太刀せいさのたち”が放たれた後の地下水道は壁中にその威力を物語る斬り傷が刻まれていた。何ならこのまま崩落が起きてもおかしくないレベルだ。

「……ディーン、やったの?」

「そうだと良いんスけど……」

二人は砂塵さじんが舞い散る方を眺めていた。

「二人とも強いな……!」

「ああ、まさかそんな技が使えたとはな……」

スコットとピーター、二人はズタボロになりながらも剣を杖のように地面について立っていた。

「おいらたちの、負けだ。ここまで、深手を負わされちまったら……もう動けないや」

「それによ、さっきので魔力を使い切ってしまったからな。もう戦えん」

二人とも顔から体から流血しており、地面に血が滴っている。

「だが、勝つのは俺たちのチームだ。お前らにバーナード様を倒すことは不可能だ」

そう、二人が負けを認めたのはバーナードの強さを知っているからである。

自分たちに勝っても自分たちのチームの勝利は揺るがないということを暗に言っているのである。

「でも、俺たちは諦めないッスよ。みんなも待ってるッスから」

ディーンはそう言って過度な魔力の消耗で地面に座り込んだまま気を失っているエレナを横抱きにした。

「それじゃあ、またどこかで会おうッス」

ディーンはそれだけ言い残してゆっくりとその場を後にした。

「あいつら、あんな状態で、バーナードさんに挑むつもりなのか?無謀すぎる」

「おいらもそれには同感だ」

二人は息を荒げながら、壁にもたれかかった。

その頃ディーンたちは階段を上がり、地上を目指していた。

「ディ、ディーン!?どうしてこんな体勢になってるの!?」

エレナはすぐに気が付いた。自分が横抱きなっていることに。

「いや、エレナが気を失ってたッスから。嫌なら下ろすッスけど」

ディーンは階段を一歩一歩踏みしめながらそう答えた。

「全然嫌じゃないよ!?むしろこのまま……!」

エレナは途中で自分が何を言いかけたのかを思い出し赤面した。

「エレナ!?顔赤いッスけど熱でもあるんスか!?」

「……鈍感」

エレナはディーンの鈍さに呆れはしたが、自分を心配してくれているということだけで呆れが吹き飛ぶほど嬉しかったのだった。

そして、大通りでも戦いが終結しつつあった。

「俺っちの魔力が……!」

デレクが戦いの最中に魔力切れを起こしたのだ。それもそのはずだ。広範囲に酸波アシッドウェイブを後先考えずに打ちまくったのだから。

そのことによりまだまだ魔力が有り余っている寛之は少し有利だった。

「だがよぉ、俺っちの魔力がなくなったからって俺っちに勝てると思うなよ!」

デレクの拳が寛之の頬へと叩き込まれる。寛之も障壁を張って受け止めた。だが、パワー負けして建物の壁まで吹き飛ばされた。

「やっぱり、パワーじゃ勝てないか……!」

寛之が痛そうに震えているとデレクが獲物を見つけた虎のように素早く寛之の脇腹に蹴りを叩き込んだ。

「……グハッ!」

寛之はデレクに蹴られた衝撃で込み上げてきた胃液を口から地面にぶちまけた。

「汚ったねえな。それに魔法なんか使えなくてもお前をなぶる方法なんざいくらでもあるって……よ!」

デレクは先ほど蹴りを叩き込んだ場所に再び蹴りを入れた。蹴られると寛之の口から再び腹の中のものを吐き出した。しかし、それには赤い液体も混じっていた。

「どうしたってよ?もう立たねえのかってよ!」

再び蹴りを入れる直前、パリンと何かが割れるような音がした。

「ああ?何の音だってよ?」

「お前、バカだな。僕が何もしないでずっと蹴られ続けてるわけがないだろ」

――グサッ

デレクの背中から鈍い刃物が肉に突き刺さったような音がした。

「これは……!?」

デレクが痛みをこらえながら振り返ると、自分の周り180度にガラスの破片のようなものがズラリと並んでいた。

「お前が俺をなぶるたびに破壊してくれた障壁の破片だ」

デレクの後ろは壁。もはや逃げ場はどこにもない。酸の魔法でも使えれば、溶かせたものを。

「おい、参ったって!降参するって!だからよ、許してくれって!」

「貰ったものは返す。それが恩であれ仇であれ……な。あの世で僕にわび続けろデレクーーーーッ!!!」

寛之が指をパチンと鳴らすと無数の障壁魔法のカケラが一斉にデレクを襲った。

デレクは飛んでくるカケラを最初は拳のラッシュで防いでいたものの、途中から防ぎきれず、半分以上ののカケラを受けて地面に倒れこんだ。

「痛てぇ……」

デレクは惨めにも敗北した。本人は悔しそうに涙をこすっていた。

「おい、なぶったりして悪かったってよ!謝るからこのカケラ抜いてくれってよ?」

デレクは壁伝いにこの場を離れようとしている寛之に声をかけた。

「謝るだけじゃ足りないなぁ~」

「何でもするからよぉ……これじゃあ痛くて動けねえよ……」

寛之には知っていた。こういう時に情けで敵に近づくことの危うさを。そして、それが原因でピンチに陥ってきた漫画やアニメのキャラを何人も知っている。

「何でもしてくれるのか?本当に?」

「ああ!俺っちが何でもするって言ってんだぜ?信じてくれってよ!」

「そうだな。それじゃあ、一つ条件を提示させてもらおうかな」

「条件?何でもいいからよ!早くこれ抜いてくれってよ!」

デレクは体のあちこちに刺さっているカケラを指さしながら寛之にそれを早く抜くように頼んだ。

しかし、よく考えてみてほしい。散々人をなぶっておいてやられたら泣きながら許しを請いに来るのだ。そんなことが許されるのだろうか?答えは勿論NOだ。

「条件は……そこに僕がぶちまけてしまったものを一滴残らず舐めろ。それだけだ」

許して欲しければ言葉ではなく行動で示せと言わんばかりの態度である。

「……そうすれば戦いが終わった後でカケラを抜いてやる」

戦いが終わった後ならそもそもキズを治療してもらえるので、どの道カケラは抜かれるのだ。すなわち、寛之にはカケラを抜いてやろうという気は初めからカケラもないのである。

「ひでぇ奴だってよ!お前、最初から抜く気がなかったな!」

「当たり前だ。それに、これ以上お前に構ってる時間はない」

寛之はそう言ってその場を後にした。

「早く広場に行ってバーナードを倒さなくては……!」

『バーナードチームのスコット、ピーター、デレクの三人が戦闘不能になりましたね♪しかし、依然として直哉チームのメンバーは全員残っています♪この先はどう展開していくのが楽しみですね♪』

実況のセーラさんの楽しそうな声がセベウェルの町廃墟に響き渡る。これには俺や紗希、茉由、洋介、夏海の5人はほくそ笑んだ。

ここに直哉チームの反撃の狼煙が上がった。

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