日常のち冒険~俺は世界を超えて幼馴染を救う~
第9話 君のためならば
今、頭上には夏のお天道様がいる。お天道様に体中を焼かれるように暑い。そんな中、俺と紗希は家に帰るところだ。
「それで、兄さん。話って?」
「今日の夜に洋介の家に行くんだが、紗希も来るか?」
「うん!行く!」
……随分と乗り気だな。正直、ここまで乗り気だとは思わなかった。
「そんなに行きたがるとは思わなかったな」
「うん、まあ弥城先輩の家で探険道具でも見つかったのかなって思って」
……妹っていうのは兄の心が読めるようになっているのだろうか?いや、紗希が特別なだけなのかもしれないな。
「何で分かったんだ?」
「兄さんの言おうとしている事くらい言われなくても分かるよ」
「……うちの紗希ちゃん、マジ天使だわ……」
そう言った途端、俺は周りを歩いている人々からの冷たい視線を感じた。
「兄さん!ここでこんなこと言ったらマズいでしょ!?」
「へ?あ、いや、つい……」
「……もう!」
紗希にしばらく背中をベシッと勢いよく叩かれ続けた。
……それにしても夏の日射しは普段外に出ない俺にとっては毒だった。ましてや今は真昼だ。このままいくと死んでしまいそうなだ。
「紗希、ちょっと急ぎめに帰らないか?」
「……そ、そうだね」
……どうやらこの暑さに殺されかけているのは俺だけじゃなかったようだ。
――――――――――
「「ただいま~」」
俺と紗希はあれから20分かけて家に帰った。
「あら、二人ともお帰りなさい」
「ただいま!お母さん!」
紗希はそのまま母さんのところに走っていった。
「母さん、腹が限界だ……!昼飯を……」
ホントにさっきから腹が減り過ぎて腹が痛くなってきた。
「はいはい。今作りますからね。早く着替えていらっしゃい」
「はーい!」
「分かった……」
紗希も俺も吸い込まれるように部屋へ入っていった。
それから10分ほど経って、俺がリビングへ入ると。
「涼しい……」
入った瞬間にひんやりとした空気が肌に触れた。
「兄さん、お昼食べよー!」
すでに席に着いていた紗希が手を振っている。
紗希はシャツワンピースを着ていた。ご丁寧にタグつきで。
「……紗希」
「どうしたの?」
紗希が怪訝そうな顔でこちらを振り返った。
「いや……その……」
……ダメだ。やっぱり値札のタグが付いたままだなんて言えない!
「兄さん?」
紗希が俺の顔を覗きこんでくる。
「紗希。その……付いてるぞ」
「え、何が?」
これはマジに気付いていないヤツだ。仕方ない、ここは兄として見知らぬふりは出来ないな。覚悟を決めてきちんと伝えよう。
「……服に値札のタグ付いたままになってるぞ」
「……!」
慌てた様子で首の後ろの辺りをさわり始める紗希。
そして、頬を真っ赤に染めてリビングを走って出ていってしまった。
「あらあら、お昼今出来たところなんですけどねぇ」
「まあ、すぐ戻ってくるだろ」
「それもそうね」
俺と母さんは席についた。そして、予想通り2,3分ほどすると、紗希が戻ってきた。
「……兄さん」
「どうした?」
紗希はもじもじしていて妙に女の子っぽかった。……まあ、女の子なんだけど。
「……ありがと」
「ああ、別に大したことじゃない」
「それじゃあ、食べましょうか」
「「「いただきます」」」
今日は冷やしうどんだ。冷やしうどんは俺も紗希も大好物だ。なので、食べ終わるのも早かった。
そして、食べ終わったあとは何をするわけでもなく部屋でゴロゴロして過ごした。それで気づいた時にはすでに日も傾いていた。
「そろそろ準備するか……」
正直、動かなくて良いのなら動きたくない。俺がとりあえずスマホをつけてみると時刻は17:00だった。そこへコンコンとドアをノックする音が聞こえた。
「兄さん?入っても良い?」
紗希だったので部屋に入るのを許可した。すると、紗希は部屋に入ってきた。
「兄さん、先に弥城先輩の家に行きたいんだけど……」
「……場所が分からないのか?」
俺が思ったことを呟く。たぶん、当たりだろう。
「そう!何で分かったの?」
……予想通りだ。やはり、俺は直感が良いようだ。深く考えるより、直感的にやった方が物事が上手くいく。
「……何となくな」
「そ、そうなんだ」
俺と紗希の話に一瞬間が空いた。
「それで、洋介の家は……」
紗希にスマホで地図アプリのマップを開いておいてもらって、それに基づいて教えた。
「あ、ここにあるんだ」
「そうなんだよな。俺も一回しか行ったことないけど紗希と全く同じことを思った」
そう、神社の近くの入り組んだ路地の奥にある一軒家なのだ。実に厄介だ。
「ありがとう!じゃあ、先に行ってるね!」
「分かった。この時間帯は車が多いから気をつけて行けよ。俺も後から行くからな」
紗希はシャツワンピースをひらひらとなびかせながら部屋を出ていった。
「……さて、俺も準備するか」
俺も外出用の服装に着替えた。そして、スマホ、財布、家の鍵の3つの貴重品を持って出発した。だが、集合時間には結構余裕があるため、今回は自転車に乗らずに歩いていくことにした。
「暑いな……!」
いくら夕方になったとはいえ、依然として暑い。汗をダラダラと流しながら10分ほど歩いていると道路の反対側にコンビニが見えた。
「暑いし、涼んでいこう。あと、何か飲み物くらい買っていくか」
俺は信号を渡り、コンビニへと向かった。しかし、そこで俺は意外な人物と出会った。
「……呉宮さん?」
「あれ?薪苗君?こんなところでどうしたの?」
そこに居たのは、今日学校を休んでいた呉宮さんだった。呉宮さんは普段の優等生っぽい様子からは想像できないジャージ姿で、右手にコンビニ袋を下げた格好をしていた。
「ちょっと買いたいものがあってさ」
「そうなんだね。でも、薪苗君の家からもっと近くにコンビニ無かったっけ?」
まずいな、洋介の家に行ってから茉由ちゃんの捜索の手がかりかもしれない遺跡に行くなんてバレるのはさすがにマズい。ここは何とかバレないようにしなければ!
「うっ……ま、まあ気分的に何となく……だな」
「……何か怪しい?もしかして何か隠し事とかしてるの?」
……マズいな。これはバレる感じじゃないか?何とかしなくては!
「まず、普段面倒なことを嫌がる薪苗君がわざわざこんなところまで来るとは思えないし……」
面倒くさがりとは失敬な!無駄を省いているだけだ!……と言いたかったが、当たっている。
「とりあえず、店の中入ってもいいか?暑くてさ……」
「あ、ごめん!そうだね」
俺はと呉宮さんは外の暑さから逃げるようにコンビニに入った。
「いらっしゃいませー!」
若い女性店員の元気な声が静かな店内に反響する。しかし、その時の店員さんの目は「チッ!このリア充が!」とでも思っているのだろうか、何やら殺意のようなものを感じた。
「……で、どうして呉宮さんまで付いてきたの?」
俺の後ろに汗だくになりながら髪をかき上げる呉宮さんがいた。何か俺のようなDTには色っぽくて刺激が強すぎる。
「薪苗君が何買うのか気になって。何か隠してるみたいだったから」
なるほど。『私、気になります!』っていう感じか。でも、呉宮さんを洋介の家に連れていく訳にも行かないしな……。何とかここで切り離さないといけないな。
「……どうしたの?」
そう言って呉宮さんが俺の顔を覗き込んできた。
「い、いや、何でもないよ」
呉宮さんに顔を覗き込まれた俺は慌てて顔をそらした。危ない、心臓飛び出るかと思った。
「それじゃあ、俺、飲み物買ってくるよ」
俺が飲み物を買いに行こうとした時、直後に放たれた呉宮さんの発言によって思考が一瞬止まってしまった。
「あれ?薪苗君、エロ本買うんじゃなかったの……?」
……何故そうなった。
「いやいや、どうやったらその考えになるわけ!?」
「だって、さっきから挙動不審で全然目を合わせてくれないし……」
その後の呉宮さんの話をまとめるとこうだ。
挙動不審で目を合わせてくれない→私がいると買いづらいものなのかもしれない→コンビニで女子がいると買いづらくて、男子が買いたいもの→エロ本
……となったらしい。とんだ誤解だ。
「暑いから飲み物買いに来ただけなんだけど……」
「……ご、ごめんね!変に疑っちゃって。薪苗君はエロ本なんて買わないよね?……ね?」
……何やら念を押されているような気がしなくもないが……。でも、俺はエロ本を買ったことは一度としてない。実にピュアだ。どこにでもいる汚れを知らぬ男子高校生だ。
「買うわけないだろ」
そう、それに何がとは言わないが、俺はあんな自己主張の強い、揺れるものは嫌いだ。俺は慎ましやかな方が好みだからな。
「……嘘つき!じゃあ、何で部屋にエロ本があったの!?」
……ん?今何て言ったんだ?
「買うわけないのに何で部屋にエロ本があったの!?」
俺は今の今まで一度としてそんないかがわしいものは買った覚えがない。
明らかにこれは何らかの誤解だ。俺は落ち着いて一度考えてみた。しかし、分からなかった。とりあえず呉宮さんから話を聞けるだけ聞いてみることにした。
「呉宮さん、そのエロ本はいつ見たの?」
「えっと、確か薪苗君のお見舞いに行った時だから……一昨々日だと思うけど」
「一昨々日か……。ちなみにエロ本は部屋のどの辺りにあったのか分かる?」
「ベッドの下にあったよ」
「そりゃ俺が気づかないわけだな……」
あの日、お見舞いに来たのは呉宮さん以外に4人。今は行方不明の茉由ちゃん、寛之、洋介、武淵先輩だ。
「お見舞いに来た順番は分かる?」
「えっと、私が茉由と来たときには守能君が来てたよ」
最初に来たのは寛之なのか。
「その10分後くらいに弥城君と武淵先輩が来たよ」
……あ、犯人分かった。絶対アイツだ!
「……こんな感じだけど、どうかな?」
「ありがとう。たぶんエロ本の持ち主分かったよ」
「分かったんだ!で、誰なの?」
「たぶんだけど寛之だと思うよ。根拠は……」
「……私より先に来てたから?」
「思考が読まれた!?呉宮さん……おそろしい子!」
「じゃあ、今度守能君に会ったときにでも聞いてみるね!」
「……いや、俺から聞いておくよ」
……まあ、呉宮さんからそんなことを聞かれたら寛之も気まずいだろうしな。
「そっか。じゃあ、薪苗君にお願いするね!」
「分かった。また寛之のやつに聞いたら報告するよ」
「うん、分かった。あ、そういえば薪苗君に聞きたいことがあるんだけど」
俺に聞きたいこと……?一体何だろう?
「私に何か隠してる事とかない?」
「い、いや、そんなことはない……と思うけど」
「……ホントに?私だけのけ者にして皆で集まったりとかしてないよね?」
「何でそれを……!」
……あっ、しまった。口が滑った!これはヤバい!
俺が呉宮さんの方へ目線を戻すと彼女は目に涙を溜めていた。今のは俺に口を滑らせるための罠だったのか!
「……もしかして、薪苗君って私の事嫌いなの?」
……違う。俺はそう言いたかった。しかし、何故か喉の奥で引っ掛かったまま出てこなかった。……くそ!何故言葉が出てこないんだ。
俺が戸惑っている間に呉宮さんは俺に背を向けて歩き出した。
「呉宮さん、待ってくれ!」
ここで俺はある事に気づき、慌てて呉宮さんに声をかける。しかし、呉宮さんは止まるどころかより加速した。
……ダメだ。間に合わない!
でも、俺は自然と呉宮さんを追って走り出していた。そこへ大きなクラクションが辺りの空気を震わせた。その音を聞いて、呉宮さんはようやく我に帰ったようにその場で立ち尽くした。
呉宮さんの目の前には大型のトラックが迫ってきている。
色々なことで頭が一杯になっていて、呉宮さんは気づかなかったのだろう。自分が走っていった方向が道路だということに。
俺はさらに速度を上げて走る。俺自身「こんなにも速く走れたのか」と驚くほどに。
『間に合え!』
その一心で俺は走った。そして……!
「……薪苗君!?」
俺は寸前で呉宮さんを突き飛ばした。呉宮さんは後ろ向きに倒れていくのが見えた。
……間に合って良かった。
俺がそう思った刹那、これまで感じたことが無いほどの衝撃が体を駆け抜けた。そして、それと同時に意識を失った。
「それで、兄さん。話って?」
「今日の夜に洋介の家に行くんだが、紗希も来るか?」
「うん!行く!」
……随分と乗り気だな。正直、ここまで乗り気だとは思わなかった。
「そんなに行きたがるとは思わなかったな」
「うん、まあ弥城先輩の家で探険道具でも見つかったのかなって思って」
……妹っていうのは兄の心が読めるようになっているのだろうか?いや、紗希が特別なだけなのかもしれないな。
「何で分かったんだ?」
「兄さんの言おうとしている事くらい言われなくても分かるよ」
「……うちの紗希ちゃん、マジ天使だわ……」
そう言った途端、俺は周りを歩いている人々からの冷たい視線を感じた。
「兄さん!ここでこんなこと言ったらマズいでしょ!?」
「へ?あ、いや、つい……」
「……もう!」
紗希にしばらく背中をベシッと勢いよく叩かれ続けた。
……それにしても夏の日射しは普段外に出ない俺にとっては毒だった。ましてや今は真昼だ。このままいくと死んでしまいそうなだ。
「紗希、ちょっと急ぎめに帰らないか?」
「……そ、そうだね」
……どうやらこの暑さに殺されかけているのは俺だけじゃなかったようだ。
――――――――――
「「ただいま~」」
俺と紗希はあれから20分かけて家に帰った。
「あら、二人ともお帰りなさい」
「ただいま!お母さん!」
紗希はそのまま母さんのところに走っていった。
「母さん、腹が限界だ……!昼飯を……」
ホントにさっきから腹が減り過ぎて腹が痛くなってきた。
「はいはい。今作りますからね。早く着替えていらっしゃい」
「はーい!」
「分かった……」
紗希も俺も吸い込まれるように部屋へ入っていった。
それから10分ほど経って、俺がリビングへ入ると。
「涼しい……」
入った瞬間にひんやりとした空気が肌に触れた。
「兄さん、お昼食べよー!」
すでに席に着いていた紗希が手を振っている。
紗希はシャツワンピースを着ていた。ご丁寧にタグつきで。
「……紗希」
「どうしたの?」
紗希が怪訝そうな顔でこちらを振り返った。
「いや……その……」
……ダメだ。やっぱり値札のタグが付いたままだなんて言えない!
「兄さん?」
紗希が俺の顔を覗きこんでくる。
「紗希。その……付いてるぞ」
「え、何が?」
これはマジに気付いていないヤツだ。仕方ない、ここは兄として見知らぬふりは出来ないな。覚悟を決めてきちんと伝えよう。
「……服に値札のタグ付いたままになってるぞ」
「……!」
慌てた様子で首の後ろの辺りをさわり始める紗希。
そして、頬を真っ赤に染めてリビングを走って出ていってしまった。
「あらあら、お昼今出来たところなんですけどねぇ」
「まあ、すぐ戻ってくるだろ」
「それもそうね」
俺と母さんは席についた。そして、予想通り2,3分ほどすると、紗希が戻ってきた。
「……兄さん」
「どうした?」
紗希はもじもじしていて妙に女の子っぽかった。……まあ、女の子なんだけど。
「……ありがと」
「ああ、別に大したことじゃない」
「それじゃあ、食べましょうか」
「「「いただきます」」」
今日は冷やしうどんだ。冷やしうどんは俺も紗希も大好物だ。なので、食べ終わるのも早かった。
そして、食べ終わったあとは何をするわけでもなく部屋でゴロゴロして過ごした。それで気づいた時にはすでに日も傾いていた。
「そろそろ準備するか……」
正直、動かなくて良いのなら動きたくない。俺がとりあえずスマホをつけてみると時刻は17:00だった。そこへコンコンとドアをノックする音が聞こえた。
「兄さん?入っても良い?」
紗希だったので部屋に入るのを許可した。すると、紗希は部屋に入ってきた。
「兄さん、先に弥城先輩の家に行きたいんだけど……」
「……場所が分からないのか?」
俺が思ったことを呟く。たぶん、当たりだろう。
「そう!何で分かったの?」
……予想通りだ。やはり、俺は直感が良いようだ。深く考えるより、直感的にやった方が物事が上手くいく。
「……何となくな」
「そ、そうなんだ」
俺と紗希の話に一瞬間が空いた。
「それで、洋介の家は……」
紗希にスマホで地図アプリのマップを開いておいてもらって、それに基づいて教えた。
「あ、ここにあるんだ」
「そうなんだよな。俺も一回しか行ったことないけど紗希と全く同じことを思った」
そう、神社の近くの入り組んだ路地の奥にある一軒家なのだ。実に厄介だ。
「ありがとう!じゃあ、先に行ってるね!」
「分かった。この時間帯は車が多いから気をつけて行けよ。俺も後から行くからな」
紗希はシャツワンピースをひらひらとなびかせながら部屋を出ていった。
「……さて、俺も準備するか」
俺も外出用の服装に着替えた。そして、スマホ、財布、家の鍵の3つの貴重品を持って出発した。だが、集合時間には結構余裕があるため、今回は自転車に乗らずに歩いていくことにした。
「暑いな……!」
いくら夕方になったとはいえ、依然として暑い。汗をダラダラと流しながら10分ほど歩いていると道路の反対側にコンビニが見えた。
「暑いし、涼んでいこう。あと、何か飲み物くらい買っていくか」
俺は信号を渡り、コンビニへと向かった。しかし、そこで俺は意外な人物と出会った。
「……呉宮さん?」
「あれ?薪苗君?こんなところでどうしたの?」
そこに居たのは、今日学校を休んでいた呉宮さんだった。呉宮さんは普段の優等生っぽい様子からは想像できないジャージ姿で、右手にコンビニ袋を下げた格好をしていた。
「ちょっと買いたいものがあってさ」
「そうなんだね。でも、薪苗君の家からもっと近くにコンビニ無かったっけ?」
まずいな、洋介の家に行ってから茉由ちゃんの捜索の手がかりかもしれない遺跡に行くなんてバレるのはさすがにマズい。ここは何とかバレないようにしなければ!
「うっ……ま、まあ気分的に何となく……だな」
「……何か怪しい?もしかして何か隠し事とかしてるの?」
……マズいな。これはバレる感じじゃないか?何とかしなくては!
「まず、普段面倒なことを嫌がる薪苗君がわざわざこんなところまで来るとは思えないし……」
面倒くさがりとは失敬な!無駄を省いているだけだ!……と言いたかったが、当たっている。
「とりあえず、店の中入ってもいいか?暑くてさ……」
「あ、ごめん!そうだね」
俺はと呉宮さんは外の暑さから逃げるようにコンビニに入った。
「いらっしゃいませー!」
若い女性店員の元気な声が静かな店内に反響する。しかし、その時の店員さんの目は「チッ!このリア充が!」とでも思っているのだろうか、何やら殺意のようなものを感じた。
「……で、どうして呉宮さんまで付いてきたの?」
俺の後ろに汗だくになりながら髪をかき上げる呉宮さんがいた。何か俺のようなDTには色っぽくて刺激が強すぎる。
「薪苗君が何買うのか気になって。何か隠してるみたいだったから」
なるほど。『私、気になります!』っていう感じか。でも、呉宮さんを洋介の家に連れていく訳にも行かないしな……。何とかここで切り離さないといけないな。
「……どうしたの?」
そう言って呉宮さんが俺の顔を覗き込んできた。
「い、いや、何でもないよ」
呉宮さんに顔を覗き込まれた俺は慌てて顔をそらした。危ない、心臓飛び出るかと思った。
「それじゃあ、俺、飲み物買ってくるよ」
俺が飲み物を買いに行こうとした時、直後に放たれた呉宮さんの発言によって思考が一瞬止まってしまった。
「あれ?薪苗君、エロ本買うんじゃなかったの……?」
……何故そうなった。
「いやいや、どうやったらその考えになるわけ!?」
「だって、さっきから挙動不審で全然目を合わせてくれないし……」
その後の呉宮さんの話をまとめるとこうだ。
挙動不審で目を合わせてくれない→私がいると買いづらいものなのかもしれない→コンビニで女子がいると買いづらくて、男子が買いたいもの→エロ本
……となったらしい。とんだ誤解だ。
「暑いから飲み物買いに来ただけなんだけど……」
「……ご、ごめんね!変に疑っちゃって。薪苗君はエロ本なんて買わないよね?……ね?」
……何やら念を押されているような気がしなくもないが……。でも、俺はエロ本を買ったことは一度としてない。実にピュアだ。どこにでもいる汚れを知らぬ男子高校生だ。
「買うわけないだろ」
そう、それに何がとは言わないが、俺はあんな自己主張の強い、揺れるものは嫌いだ。俺は慎ましやかな方が好みだからな。
「……嘘つき!じゃあ、何で部屋にエロ本があったの!?」
……ん?今何て言ったんだ?
「買うわけないのに何で部屋にエロ本があったの!?」
俺は今の今まで一度としてそんないかがわしいものは買った覚えがない。
明らかにこれは何らかの誤解だ。俺は落ち着いて一度考えてみた。しかし、分からなかった。とりあえず呉宮さんから話を聞けるだけ聞いてみることにした。
「呉宮さん、そのエロ本はいつ見たの?」
「えっと、確か薪苗君のお見舞いに行った時だから……一昨々日だと思うけど」
「一昨々日か……。ちなみにエロ本は部屋のどの辺りにあったのか分かる?」
「ベッドの下にあったよ」
「そりゃ俺が気づかないわけだな……」
あの日、お見舞いに来たのは呉宮さん以外に4人。今は行方不明の茉由ちゃん、寛之、洋介、武淵先輩だ。
「お見舞いに来た順番は分かる?」
「えっと、私が茉由と来たときには守能君が来てたよ」
最初に来たのは寛之なのか。
「その10分後くらいに弥城君と武淵先輩が来たよ」
……あ、犯人分かった。絶対アイツだ!
「……こんな感じだけど、どうかな?」
「ありがとう。たぶんエロ本の持ち主分かったよ」
「分かったんだ!で、誰なの?」
「たぶんだけど寛之だと思うよ。根拠は……」
「……私より先に来てたから?」
「思考が読まれた!?呉宮さん……おそろしい子!」
「じゃあ、今度守能君に会ったときにでも聞いてみるね!」
「……いや、俺から聞いておくよ」
……まあ、呉宮さんからそんなことを聞かれたら寛之も気まずいだろうしな。
「そっか。じゃあ、薪苗君にお願いするね!」
「分かった。また寛之のやつに聞いたら報告するよ」
「うん、分かった。あ、そういえば薪苗君に聞きたいことがあるんだけど」
俺に聞きたいこと……?一体何だろう?
「私に何か隠してる事とかない?」
「い、いや、そんなことはない……と思うけど」
「……ホントに?私だけのけ者にして皆で集まったりとかしてないよね?」
「何でそれを……!」
……あっ、しまった。口が滑った!これはヤバい!
俺が呉宮さんの方へ目線を戻すと彼女は目に涙を溜めていた。今のは俺に口を滑らせるための罠だったのか!
「……もしかして、薪苗君って私の事嫌いなの?」
……違う。俺はそう言いたかった。しかし、何故か喉の奥で引っ掛かったまま出てこなかった。……くそ!何故言葉が出てこないんだ。
俺が戸惑っている間に呉宮さんは俺に背を向けて歩き出した。
「呉宮さん、待ってくれ!」
ここで俺はある事に気づき、慌てて呉宮さんに声をかける。しかし、呉宮さんは止まるどころかより加速した。
……ダメだ。間に合わない!
でも、俺は自然と呉宮さんを追って走り出していた。そこへ大きなクラクションが辺りの空気を震わせた。その音を聞いて、呉宮さんはようやく我に帰ったようにその場で立ち尽くした。
呉宮さんの目の前には大型のトラックが迫ってきている。
色々なことで頭が一杯になっていて、呉宮さんは気づかなかったのだろう。自分が走っていった方向が道路だということに。
俺はさらに速度を上げて走る。俺自身「こんなにも速く走れたのか」と驚くほどに。
『間に合え!』
その一心で俺は走った。そして……!
「……薪苗君!?」
俺は寸前で呉宮さんを突き飛ばした。呉宮さんは後ろ向きに倒れていくのが見えた。
……間に合って良かった。
俺がそう思った刹那、これまで感じたことが無いほどの衝撃が体を駆け抜けた。そして、それと同時に意識を失った。
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