日常のち冒険~俺は世界を超えて幼馴染を救う~

ヌマサン

第4話 捜索

「茉由ちゃんが居なくなっちゃったの!」

紗希がそう言うと、呉宮さんは居ても立っても居られないという様子で急に走り出そうとした。

「呉宮さん、ちょっと待って!」

突然俺に腕を掴まれて驚いたのかポカンとした様子で俺の方へと振り返った。

「薪苗君……?どうしたの……?」

「えっと……急いでるのは分かるんだけどさ。俺たち3人だけじゃなくて、他の皆にも連絡して手分けして探した方が良いんじゃない?」

俺がそう言うと、呉宮さんは少しの間俯いて考えていた。

「でも、皆に迷惑がかかるんじゃ……」

「皆それくらいで迷惑だと思わないよ」

……むしろ、進んで協力してくれると思うんだけどな。

「……それもそうだね。それじゃあ、私から連絡してみるね!」

「……それがいいと思う」

呉宮さんがみんなに連絡を取ってる間に俺はまだ落ち着いていない様子の紗希に休んだらどうかと聞いてみた。

「ボクは大丈夫だから、早く茉由ちゃんを探さないと!」

いくら何でも慌てすぎな気がしなくもない。

「紗希。茉由ちゃんと何があったんだ?」

「兄さんが呉宮先輩と合流した後、ボクは茉由ちゃんと守能先輩と合流したんだけど……」

俺は何も言わず、ただ聞くことに徹した。

「二人とは合流してからしばらくの間一緒に屋台を回ってたんだけど、 途中で守能先輩が『我が腹に宿りし悪魔が……』ってトイレに行っちゃったんだよ」

寛之のやつ、何やってんだよ……。

「それからは茉由ちゃんと2人で回ってて、私が飲み物買いに行ってる間に居なくなっちゃって……」

「なるほど、それで今に至るということか。それで紗希は責任感じてしまっているってところだな」

「そうなの!だから、早く探さないといけないの!だから、ボクは……」

俺は軽く紗希の頭を猫を撫でるように優しく撫でた。

「兄……さん……?」

紗希は目に涙を浮かべていた。

「俺は紗希が責任を感じて焦るのも分かる。でも、頼むから一度休んでてくれ」

「何で?」

紗希は責任感が強い。一緒にいた茉由ちゃんがいなくなって責任を感じてるんだと思う。

「その様子からして必死に探したんだろ?浴衣も土がついてるし、若干息も荒い。無理せず、一旦休んでくれ。後は俺に任せてくれ」

「でも……分かった」

紗希は途中まで出てきていた言葉を飲み込んだ。おそらく、『ボクはまだ探す』と言いたかったのだろう。

紗希をとりあえず、近くにあったベンチのところに紗希を座らせた。

……さて、探すか。茉由ちゃんは俺が絶対に見つけてみせる。じっちゃんの名はかけないが。

俺はそう心に決めて茉由ちゃんの捜索を開始した。

ーーーーーーーーーー

現在の時刻は23時。探し始めてからすでに2時間が経とうとしていた。しかし、茉由ちゃんが見つかる気配はない。俺たちは明日からまた学校がある。そして、学生の立場としてあまり遅くまで探すことはできない。

「……直哉、これ以上探すのは俺たちも危ない気がする」

電話の向こうから洋介の声が響く。

「そうだな。それにスマホも限界が近いな」

俺たちは全員合流した後で、グループ通話のままにして探していた。『この方が何かあったときの連絡がしやすいんじゃない?』という武淵先輩の提案だ。

道も街灯のあるところならまだ明るいのだが、街灯のないところは真っ暗で、それこそ茉由ちゃんを探すことは無理だ。

「皆、探してくれて、ありがと……ね。今日は、もう……解散に、しよう?」

電話越しに呉宮さんの涙声が聞こえてくる。そりゃあ、妹が突然いなくなったのだ。辛くないわけがない。

「そうだな……ここは……呉宮の……言うとおり、今日はもう……解散に……しよう。後は……警察に任せるしか……ない……んじゃないか?」

洋介も相当探し回ったのだろう。喋っている間も息切れがひどく、息継ぎの回数が尋常じゃなく多い。

「……今日は、解散に……しましょう?皆もだいぶ疲れているもの」

武淵先輩もかなり息継ぎの回数が多い。

しかし、ここで探すのを止めるのは何だか呉宮さんに申し訳がなかった。恐らく、皆同じ気持ちだと思うが。それでも、全員体力的に限界といった様子だった。

「私たちで探すのはここまでにしよう。皆探してくれてありがとね。皆、また明日学校で!」

その言葉を最後に唐突にグループ通話は終了した。

「皆……か……」

何だかその“皆”という言葉には茉由ちゃんのことも含まれてるんじゃないか。俺にはそんな風に思えて仕方がなかった。

俺はすぐには帰らずに神社の境内のところで立ち止まっていると後ろから声を掛けられた。

「あれ?薪苗君?こんなところでどうしたの?」

「呉宮さんこそ、どうしてここに?」

「どうして?って聞かれても、何となくとしか答えようがないんだけどね……」

「そう……だよね……」

しばらくの間、沈黙が二人を分かつ。

「お父さんが捜索願を出してくれたんだって」

最初に話を始めたのは呉宮さんだ。

「それならすぐに見つかりそうだ」

「それが一安心というわけにもいかなくて」

何やら呉宮さんの表情が暗い。

「何かあったの?」

「うん……警察は変死事件の捜査が忙しいみたいでそこまで人手を割けないみたいなの」

「そう……なんだ……」

あまりかんばしくないニュースだな。ホント、変死事件とかどこかの高校生探偵とかが解決してくれないものだろうか。

「薪苗君。私、もう帰るね」

呉宮さんはそう言って、今にも泣きそうな、悲しげな雰囲気を纏いながら神社を後にしようとしていた。

「呉宮さん。もうこんな時間だし、家まで送っていくよ」

「いいよ、一緒に帰って友達に噂とかされると恥ずかしいし……」

これは友好度とかときめき度が足らなかったんだろうか?

「それに薪苗君も疲れてるでしょ?早く家に帰って休んだ方が良いんじゃないかな?」

……今一瞬、女神が舞い降りたかと思った。少なからず、疲れている俺の目にはそう見えた。

「別に呉宮さんを送っていくくらい、どうってことないよ」

それに、俺の家に帰るとき呉宮さんの家の近く通るし。

「……それじゃあ、お願いしても良いかな?」

「もちろん」

俺は自転車を押しながら呉宮さんの家まで向かった。

道中は出来る限り楽しい話題にしようと努めた。その甲斐もあってか呉宮さんはよく笑ってくれていた。

「わざわざ送ってくれてありがとね」

「近所だし、気にすることじゃないよ」

「それじゃあ、また明日学校でね」

「うん、また明日」

俺と呉宮さんはそう言って別れた。

――――――――――

長いようで短かった夜が明けた。昨日のこともあり、疲れていたのか眠りに落ちるのは早かった。しかし、今日は月曜日だ。それだけでも学校に行く気が失せるというのに、今日は期末試験が帰ってくるのだ。考えるだけでもゾッとする。

しかし、呉宮さんに“また明日学校でね”と言われてしまった以上学校に行かないわけにはいかなかった。

俺はその気持ちが揺らがないうちに制服に着替えた。それから、朝食を食べるために鞄を持って部屋を出た。

リビングダイニングに行くと、窓から気持ちの良い朝日が差し込んでいた。

「今日はトーストか」

皿の上に食パンが置かれているため恐らくそうなのだろう。

食パンをただトースターで焼いて食べるだけではあれなのでこの前母から教えてもらったマヨシュガートーストを作ることにした。

まず、食パンにとろけるチーズを載せる。それからマヨネーズとグラニュー糖をまんべんなくかけてトースターで焼くだけ。これが結構上手い。

「いただきます」

砂糖とマヨネーズのあまじょっぱさが良い味を醸し出している。

「ごちそうさまでした」

あっという間に食べ終わってしまった。

「おはよー」

そこへ紗希が完全寝起きモードでやって来た。

「……あれ?何か良い匂いがする」

「紗希も食べるか?マヨシュガートースト」

「何それおいしそう!作り方教えて!」

言われるがままに作り方を説明する。

「へぇー、それだけで作れるんだ。あっ、作り方教えてくれたお礼に食器洗いやっておくね」

「ありがとう。すげぇ助かる」

俺は食器洗いを紗希に任せて学校に向けて出発した。

――――――――――

特に何事もなく学校に到着した俺は、いつものように自転車を駐車場に止めて教室へと向かった。俺は心の中で昨晩の事が夢であることを祈った。

教室に入ると先客が二人いた。教室の入り口に近い自分の座席で突っ伏して眠っている呉宮さんと、一番教室の入り口から遠い自分の座席で携帯ゲームをしている寛之だ。

「……直哉、おはよう」

俺が話しかけるよりも早く、寛之が挨拶をしてきた。これには驚いた。

「ああ、おはよう。て言うか、ゲームしながらよく俺が来たって分かったな」

「……それくらいフツーに分かるもんだ。て言うか、僕にわざわざ話しかけて来るのなんて直哉か呉宮さんくらいだしな」

俺は別に自虐ネタを言って欲しかったわけじゃないんだが……。

「それより、今日は呉宮さんと話したりしたのか?」

「……いや、まだだ。僕が来たときにはすでに机に突っ伏してたよ」

そうか……。やっぱり、昨日の事で心身ともに消耗しているのだろう。ここはそっとしておいた方が良さそうだ。

「そういえば昨日のから始まったイベントの……」

そう言って俺は寛之とゲームの話をして過ごした。

時間はあっという間に過ぎる。8:30に朝のホームルームが始まり、期末試験が返ってくる。一日かけて。もし帰ることが許されるのならば、今すぐにでも家に帰りたい。

そして、返って来るなと願っても一、二、三、四限目と次々返ってくるテスト。結果は日本史以外は欠点ギリギリという結果に終わった。

そして、昼休み。

俺と寛之は学生食堂で一番の人気を誇るカツカレーを食べるために教室を出た。教室を出るときに呉宮さんの方をチラリと見たが、友達と笑いながら話をしていた。だが、俺には何となくその笑顔が作り笑いのような気がしてならなかった。

学生食堂は教室がある建物から渡り廊下を渡ったところにある。教室のある建物からあまり離れていないため、昼休みになると毎度のように混みあってしまうのだ。

今日はチャイムと同時に教室を出たためか、何とかカツカレーにありつくことが出来た。そして、カツカレーをおいしく頬張っている時に突如として俺たちに声がかけられた。

「よう、直哉!寛之!隣座っても良いか?」

話しかけてきたのは洋介だ。そして、俺たちが座っているのは4人席で俺と寛之が向かい合う形で座っている。なので、あと二人分空いている状態だ。

「……断る。リア充をうつされたらかなわないからな」

「おいおい、寛之。そんなつれないこと言うなよ」

洋介をそっけなくあしらう寛之。

「良いんじゃないか?どうせ空いてるんだからさ」

「直哉はやっぱり優しいな!」

そう言って洋介は寛之の隣に座った。

「二人ともカツカレーか。羨ましいな。俺が来たときにはもう売り切れてたんだよな」

「カツカレーは10食しかないからどうしても早い者勝ちになるから教室遠い人とか不利にも程がある」

洋介は唐揚げ定食を。そして、俺と寛之はカツカレーを頬張りながら他愛もない話をしていると武淵先輩がやって来た。

「あっ、皆ここにいたのね」

「夏海姉さん。もう来てたんだな」

「うん。それに、ちょうどそこの二人にも話があったからね」

武淵先輩までやって来てしまった。これではあまりにも目立ちすぎているのではないだろうか。この美男美女カップル(本人たちは自覚してないみたいだけど)といると嫌でも目立ってしまうのだ。俺としては早くこの場を抜け出したいんだが……。

「聖美ちゃんの妹ちゃんは見つかった?」

武淵先輩の俺たちに聞きたかったことというのはおそらくこの事だろう。

「まだ分かりません。でも、今日の呉宮さんの様子を見た感じだとまだ見つかってないと思います」

俺が先輩の質問に答えると先輩は何も言わずに引き下がった。そして、今度は洋介に質問された。

「ところで、今日はまだ呉宮とは話せてない感じか?」

「ああ、まあ」

「寛之もか?」

「……」

洋介からの質問に寛之はカツカレーを食べながら黙って頷いた。

「そっか……やっぱり不安なんだろうな」

洋介は頭の後ろで腕を組んで椅子の背もたれに背を預けた。

「ああ、そうそう。今日の放課後に夏海姉さんと探しに行こうって話になったんだが、直哉と寛之も一緒にどうだ?」

なるほど。本題はそっちだったか。俺は行きたいが、たぶん寛之は行きたがらないんじゃないか……?

「……僕は行くよ」

えっ!?行くの!?あの面倒くさがりの寛之が!?てっきり『いや、ここは警察とかに任せよう』とか言うと思ったのに。一体どういう心境の変化だろう?

「実はだな……」

寛之はポツリと夏祭りでのことを話し始めた。

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