能力値リセット 〜ステータスALL1の無能から徐々に成り上がるつもりが、1ヶ月で俺TUEEに変貌しちゃいました!〜

雪月 桜

日の出と共に

「それで、ハヤト様。いきなり湖に行こうなんて言い出して、どうしたんですか?」

「あー、どうせなら、舞台やシチュエーションにもこだわった方が思い出に残るかと思ってさ。気になってた経験値の謎は、もう解けた訳だし、二人も早く帰って寝たいだろうに、付き合わせて悪いな」

すっかり忘れていた、例の【アレ】の存在を思い出した俺は、ついでにひらめいた、とあるアイデアを実行すべく、二人を連れて湖へと足を運んだ。

俺としては、三人一緒なら場所なんて別にどこでも良かったんだけど、せっかく二人が苦労して手に入れてくれた希少な一品なんだ。

それなら、こちらも相応の場を用意しないと失礼というものだろう。

「それは構いませんけど……。こんな朝早くから、湖で何を?」

さすがにノーヒントだと、俺の意図が全く読めないようで、リリィは不思議そうに首をかしげている。

ついでに、彼女の肩に座るフェアリーも、同じように首をひねっている。

その動きのシンクロが、あまりにハマっていたものだから、思わず姉妹かと突っ込みたくなったけど、話がれそうなので自重じちょうする。

そろそろ丁度いい時間だし、タイミングを逃したら勿体もったいない。

「ほら、二人に取って来てもらった、例の【アレ】。ここで味わおうと思ってさ」

「ああっ、“ヤシロの実”ですね! 良いアイデアだと思いますけど、これって、結局、何のために頼んだんですか? もしかして、ただの方便ほうべんで特に意味は無かったとか?」

四次元ポーチから、ヤシロの実を取り出しながら質問してくるリリィ。

ちなみに、ヤシロの実は、まんま椰子ヤシの実みたいな外見だ。

ただし、最初に出来た実を一代目として数えて、八代目にならないと美味しくならない、という特徴があるらしい。

八代かけて、ようやく完成する、という意味を込めてヤシロの実と名付けられたとか。

そして、この木の実は南国でしか取れないため、内陸にある王都では希少品として高値で取引されている。

栄養が豊富で非常に美味な上、一説にはレベルアップによる最大HPの上昇に補正が掛かる……という話もあるけど、そんなの検証する方法が無いから、流石さすがに都市伝説のたぐいだろうな。

「いやいや、リリィを遠ざける為に頼んだのは事実だけど、他にも理由はあるぞ? なんたって、ハッピーエンドには祝杯しゅくはいが付き物だからな! 『全員でハッピーエンドを迎える為には、どうしても必要な物なんだ』って言ったろ?」

「えぇ……。それは確かに、その通りかもしれませんけど、そのために私達は必死に走り回ってたんですか……」

これでもかというくらい分かりやすく、がっくりと肩を落とすリリィ。

まぁ、当時は俺の命が掛かってると思い込んで探し回ってた訳だからな。

取り越し苦労と分かって気落ちするのも無理はない。

「ほらほら、そんなに落ち込むなって。顔を上げないと、せっかくの絶景を見逃すぞ?」

そう言って、俺は遠くの一点を指差した。

そこに見えたのは、山の頂きから徐々に顔を出す太陽。

この辺りは、太陽ののぼる軌道に山が重なっているから、空が白み始めてから日の出までが長いんだ。

まぁ、だからこそ、こうして最高のタイミングに間に合った訳だけどさ。

「…………すごく、綺麗です」

見惚れたようにポツリと呟いたリリィだけど、それも当然だ。

ひんやり透き通った空気がただよ静謐せいひつ湖畔こはんと、全身を柔らかく包むような優しい朝日。

キラキラと湖面に反射した光も相まって、なかなかに幻想的な光景だからな。

そして、耳を澄ませば、風に揺れる森のさざめきと、小鳥達のさえずりが聞こえてくる。

これなら二人の努力の成果を味わうのに、申し分ないロケーションだと言えるだろう。

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