能力値リセット 〜ステータスALL1の無能から徐々に成り上がるつもりが、1ヶ月で俺TUEEに変貌しちゃいました!〜

雪月 桜

怪盗王女リリィ

「……怪盗って、あの怪盗? 予告状を出して宝石とかを盗む?」

「はい……その怪盗です」

コクンとうなずき、俺の言葉を肯定したリリィは顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。

たぶん、自分だけの秘密を打ち明けた気恥ずかしさから来る反応だろうけど、いつもと違って茶化す気にはならない。

というか、あまりの驚きに固まってしまい、まともなリアクションすら取れない俺。

「リリィが……」

あの純真無垢で、健気で、お淑やか(?)なリリィが……。

まさか怪盗に憧れを抱いてたなんて!

……いや、別に、それだけなら良いんだ。

所詮しょせんはフィクションの出来事であり、現実に被害が出る訳じゃないんだから。

問題なのは、つい先程まで、その真似事をしていたという事実。

……これは、俺の責任だ。

俺の頼みを叶えようとしたせいで、リリィが道を踏み外してしまった!

ちくしょう、こんな事になると分かってたら夜の街になんて行かせなかったのに!

やり切れない思いが胸に込み上げ、俺は思わず天を仰《あお》ぐ。厳密には洞窟の天井だけど

そんな俺を見て何を思ったのか、突然、リリィがアタフタと慌て出した。

「え、えっと、もちろん人の物を盗むのはイケナイ事なんですけどっ。なんと言いますか、警備員の監視を鮮やかに出し抜く所とか、知恵と工夫を凝らしたトリックとか、衛兵達に追われながらのドキドキする脱出劇とか、見ていて凄くワクワクするなぁって……」

【怪盗】という存在に対する自らの思いのたけをたどたどしく、それでいて、一生懸命に伝えてくるリリィ。

まぁ、確かに怪盗と言えば、王女であるリリィとは何もかも対極な生き方だからなぁ。

片や、着替えやお風呂すら従者に手伝って貰う箱入り娘。

望む物は全て与えられ、なに不自由ない生活を送ってきた。(友達はいないけど)

片や、己の知恵と磨き上げた技術でひとり、困難に挑む闇の住人。

望む物は自分の手で勝ち取り、常に危険と隣り合わせで、スリリングな非日常を送る。

特にリリィの場合は、あまり自分に自信が持てない性格だから、何でも器用かつスマートにこなすイメージの怪盗に憧れるのも無理はない。

「……とはいえ、実際に真似するのは、どうかと思うぞ? リリィも自覚してる通り、人の物を盗むのは悪い事だし」

「はいっ、なので代金はキチンと置いてきました!」

…………ん?

あれっ、そういえば、さっき“街に戻って来た”って言ってたな。

要するに、怪盗の真似はしたけど、代金を支払った上で商品を持って来た?

……って、つまり、どういう事?

「えっと……結局、リリィは街で何をして来たんだ? 一つずつ順番に説明してくれ」

「分かりました。それでは聞かせてあげましょう。この怪盗王女リリィの初公演はじめてのおつかいについて! そして、ハヤト様は私の鮮烈せんれつなデビューを知り、歴史の証人となるのです!」

そうして、やたらとハイテンションなリリィが満面の笑みを浮かべ、自らの犯行について得意気とくいげに語りだした。

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