能力値リセット 〜ステータスALL1の無能から徐々に成り上がるつもりが、1ヶ月で俺TUEEに変貌しちゃいました!〜

雪月 桜

不甲斐ない

「……それで結局、どうしてリリィは、あの場面に間に合ったんだ?」

どうにか緋熊ひぐま討伐を成し遂げて、拠点に帰還を果たした俺とリリィ、それからフェアリーは、しばらく達成感と解放感にひたっていた。

そして、それらの余韻よいんを充分に堪能たんのうし、一息ひといきついた所で、ずっと気になっていた疑問を口にする。

リリィには、とある探し物を頼んでいたはずで、それを投げ出して戻って来たとは、どうしても思えなかったから。

かと言って、あんな短時間で目的を達成したとも考えづらい。

というか、ハッキリ言ってしまえば、頼んだは、この森で見つかる訳が無いんだ。

かつて勉強会で、“滅多に手に入らない希少な品”として紹介されていたからな。

また、リリィが元から隠し持っていた、という線も無いだろう。

あの時、リリィは俺を残していく事に反対だった様子だし、手元にあるなら、その場で出さない筈がない。

ちなみに、リリィは四次元ポーチと呼ばれる亜空間収納マジックアイテムを持っている。

このポーチは、見た目は普通だけど、内部に独立した空間を持っており、外観以上の容量を誇る。

また、このポーチの中にある間は時間が止まり、劣化もしなくなるという優れモノ。

その上、王族だけが持つ特別な品という訳でもなく、高価ではあるものの、一般にも普及している。

ただ、リリィが王城から持ち出せたのは、予備のポーチだけらしく、中身は空っぽだ。

どうせなら非常食とか入っていればと思ったけど、それを言っても仕方がない。

ともかく、リリィが隠し持っていたという可能性は無いという訳だ。

「えっと、実は……って来たんです」

「……ごめん。もう一度、お願い」

何か後ろめたい事情でもあるのか、いつになくリリィの声が小さい。

普段は、もっとハキハキと喋っているから、ギャップもあって余計に聞き取れなかった。

「だから、その……買って来たんです」

「買って来た?」

思いもよらぬ回答に、思わずリリィの言葉を繰り返す。

「えっ、なに。こんな人気ひとけのない森で店を構えてる奴がいたのか?」

「いえ、そうではなく……。街に戻って買って来たんです。この森の中では絶対に見つからないと思ったので。あっ、正体がバレないように、ちゃんとフードを被ってましたから!」

「…………」 

開いた口が塞がらなかった。

まさか、そんな大胆な発想で俺の作戦を打ち破って来るとは。

俺には全く考えが浮かばなかったな。

「実は私、ハヤト様に探し物を頼まれた時から薄々、気付いてたんです。これは、私を危険から遠ざけるための方便ほうべんではないかと。それでも確信はなく、問い詰めるための時間も残ってませんでした。……もし本当に必要な物だったら? それが見つからないせいで、ハヤト様が死んでしまったら? そう考えたら、放棄する事も出来ず、とはいえ森の中で見つかるとも思えなくて……」

「それで、トラブルになる危険をおかしてでも街に戻るしか無いって、覚悟を決めたのか」

「はい……」

迂闊うかつだったな。

まさか、リリィが、そこまで思い詰めるなんて想像もしてなかった。

リリィを危険から遠ざけて、守ったつもりになってたけど、とんだ思い上がりだったらしい。

妹みたいに大切に思ってる子を、こんなに心配させて、あげく深夜の街を歩かせたなんて、不甲斐ふがいないにも程がある。

俺は自分に対する怒りで、思わず拳を握り締めた。

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