能力値リセット 〜ステータスALL1の無能から徐々に成り上がるつもりが、1ヶ月で俺TUEEに変貌しちゃいました!〜

雪月 桜

「――かはっ!?」

緋熊ひぐまの豪快な腕の一撃に吹き飛ばされ、大木に叩き付けられる俺。

そのせいで、肺の中にあった空気を全て排出させられた。

そして、そのままズルズルと木の幹から滑り落ちていく。

痛みと呼吸困難で急速に遠のいていく意識。

それを気合いで繋ぎ止め、俺は何とか立ち上がる。

「だぁ、くそ……。あれだけ啖呵を切っといてカッコわりぃ。この脳筋野郎め……なんつう馬鹿力だよ……。ステータスを耐久力に最適化してなきゃ、今ので、お陀仏だぞ。……その上、たとえ勝っても絶対リリィに怒られるだろうし、どっちに転んでも俺の未来は、お先真っ暗じゃねぇか」

あの時、リリィに向かって言った『勝算がある』という言葉。

あれは真っ赤な嘘だ。

せいぜい、“緋熊の攻略法について心当たりがある”といった所か。

いや、厳密に言うと、それも違う。

“緋熊”の名前の由来にもなっているという、あの全身にまとった緋色の炎。

あれを思い出して、一つ試してみたいアイデアが浮かんだだけだ。

攻略に繋がる保証はないし、まともに通用するかどうかも分からない。

だけど、あの場は、どんな手を使ってでも強がるしか無かった。

リリィを納得させた上で危険から遠ざけるためには“希望”が必要不可欠だったからな。

頼み事をしたのも、仕込みの一環だ。

ただ逃げてくれと言うだけだったら、彼女は頷いてくれなかっただろう。

自分だけ助かる居心地の悪さは、既に俺自身も認めてしまってる訳だし。

だからこそ、『俺達の未来はリリィに懸かってる』なんて言って重要な仕事だと強調したんだ。

こうしておけば、根が真面目なリリィは頼み事の遂行すいこうに全力を注ぐだろうし、フェアリーの時みたいに戦闘の様子を覗き見される心配が無くなる。

俺がピンチだとバレたら、途中で引き返して来るかもしれないから、そのための対策だ。

なんせ、リリィの耐久力では緋熊の攻撃は耐えられないし、リリィの敏捷力では緋熊の追走を振れ切れない。

緋熊との戦闘にリリィを参加させる事は出来ない、それが俺の結論だ。

「さて……リリィに関する目論見もくろみは上手く行った訳だけど。こっちは、どうなる事やら……っと!」

追い討ちをかけるように突っ込んできた緋熊をかわし、すれ違いざまに水属性の基礎魔法を放つ。

なんの変哲もない、ただの水を生み出す魔法で殺傷力は皆無だけど、緋熊は浴びるのを嫌がるように飛び退いた。

さっきから、この繰り返しで、まともに当たったのは、一度だけだ。

その時は、全身に纏う炎の勢いが少しだけ弱まったように見えた。

あまりにも短い時間だったから見間違いという可能性もあるけど、どのみち他の策は無い。

この、か細い希望に全てを託す。

「とはいえ、流石に効率が悪すぎるな。俺のスタミナと集中力が先に切れそうだ。……となると、やっぱり、あそこに誘い込むのが一番か」

そこから俺は、能力値リセットでステータスを敏捷力に最適化し、ある場所に向かった。

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