能力値リセット 〜ステータスALL1の無能から徐々に成り上がるつもりが、1ヶ月で俺TUEEに変貌しちゃいました!〜

雪月 桜

フェアリーの真意

「……は?」

夜空に登っていく光の粒を呆然と眺めていた俺の口から、そんな声が漏れた。

だって、そうだろう。

全く意味が分からないじゃないか。

は確かに分身体が必要だっただろう。

具体的な経緯は知らなくても、【敵】に追い詰められたのは想像にかたくない。

だけど、今はどうだ?

分身体を作って入れ替わる理由が、一体どこにある?

いや……そんな事は、どうでも良い!

今のは間違いなく分身体。

なら、本物のフェアリーは何処どこで何を?

「……まさか、アイツ!?」

その可能性に思い至った俺は、一目散に駆け出した。

疲れた身体が悲鳴を上げるが、知ったことか。

そんなのは後でリリィに回復して貰えば済む話だ。

だけど、こっちは1分1秒の遅れで取り返しが付かなくなる!

木々の間を縫うように駆け抜け、邪魔な岩を飛び越え、襲い来るモンスターを振り切って、森中を巡る。

あえて大声で叫んで【敵】を引き寄せようと試みもした。

それでも、【敵】は姿を見せなかった。

ただ無視されているのか、それともで手が離せないのか。

どちらにせよ、俺にとって都合が悪い事に変わりはない。

そして、そんな状態が続いたのは数分か、あるいは数十分か、はたまた数時間か。

少なくとも、俺にとっては永遠のように感じた。

その永遠の果てで、俺は、ようやく目的地に辿り着く。

「フェアリーッ!」

しかし、その大切な目的フェアリーが、今まさに目の前で摘み取られようとしていた。

俺の倍はありそうな巨体を誇り、全身に緋色の炎を宿す4本腕の熊。

そう、この森の主――【緋熊ひぐま】によって。

「させるかよッ!」

傷だらけのまま地面に倒れ伏すフェアリーを前に、大きく腕を振り上げる緋熊。

だけど俺は、その丸太のような腕を潜り抜け、間一髪でフェアリーをさらうことに成功した。

そして、そのまま戦域からの離脱を試みるも、図体の割に機敏な動きを見せる緋熊から中々、逃れられない。

「くそっ、さっき逃げ切れたのは、本物のフェアリーがおとりになってくれてたからって事か!」

きっと、フェアリーは俺が追い付かれる事を確信してたんだろう。

だから、自らを犠牲にして囮になる道を選んだ。

この森で、リリィがモンスターに襲われていた時、俺が囮になってかばった事があったけど、まさか今度は庇われる側になるなんてな。

……なるほど、あの時のリリィは、こんな気持ちだった訳か。

今なら、ボロボロのまま追ってきたリリィの無謀な行動も理解できる。

確かに、助けてくれた相手を見殺しにして、自分だけ生き延びても気分が悪いわ。

「……無事に再会できたら謝りたいとこだけど、さてさて、どうしたもんかねッ!」

未だ完全にくことは出来ないけど、どうやら敏捷力は俺の方が上らしく、何とか攻撃は回避できている。

とはいえ、このまま膠着こうちゃく状態が続けば、俺の方が先にスタミナ切れになるだろう。

何か状況を打開する手は――――と、俺が頭を捻っていた、その時、当然、辺りに閃光が走った。

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