能力値リセット 〜ステータスALL1の無能から徐々に成り上がるつもりが、1ヶ月で俺TUEEに変貌しちゃいました!〜

雪月 桜

逃走開始

「能力値リセットッッッ!」

油断していたつもりは無い。

フェアリーと話している間も、常に周囲に気を配っていた。

それでもなお、その存在は直前まで気配を悟らせなかった。

そして、これまで経験したことの無い濃密な殺気に当てられた俺は、反射的にスキルを発動していた。

その効果は即座に影響を及ぼし、世界の動きが停止する。

これで、何とか状況を整理する猶予ゆうよが生まれた。

ただ、それだけならまだしも、無意識にスキル名を叫んでしまったのは迂闊うかつだったな。

もし誰かに聞かれていたら、俺の固有スキルについて推測され、対策されてしまうかも知れない。

……だけど今は、そんな事より目の前の――――いや、俺の背後に迫る脅威について考えないと。

時間停止中は、俺自身も身動きが取れないため、振り返って【敵】の姿を確認することは出来ない。

それでも、この【敵】の恐ろしさは肌で感じている。

やっぱり、俺の直感は正しかったようだ。

これが先程の雄叫おたけびの主と同一個体か否か、という点は不明だけど、どのみち結論は同じだ。

――勝てる訳がない。

なんとしても戦闘は避けて、逃亡するに限る。

……よし、方針は決まった。

後は実行に移すだけだ。

そして、俺はステータスを敏捷力に【最適化】し、目の前のフェアリーに意識を向ける。

時が止まっているため、俺の手は相変わらずフェアリーに向かって伸びたままだ。

時間停止を解除したら、そのままフェアリーを確保し、一気に駆け抜ける。

それと、万が一にも【敵】を拠点に近付けないよう、逃げる方向に注意する。

頭の中で注意事項と具体的な動きを何度もシミュレートして、本番に備える。

こういう準備が出来るのも、“能力値リセット”の特権だ。

たとえ、取り越し苦労になろうとも、出来ることは今のうちに全て試しておく。

何かを失ってから嘆くのは、まっぴら御免だから。

そうして、納得の行くまで態勢を整えた俺は、ついに覚悟を決めてスキルを解除した。

「逃げるぞ、フェアリー!」

フェアリーを両手で包むようにして回収した俺は、【敵】の姿を確認する手間すら惜しんで、最速で離脱を図る。

そして、背後の【敵】を引き離すことに難なく成功するが、手の中でモゾモゾと動く気配を感じた。

見れば、両手の隙間から、フェアリーの不安げな顔が覗いている。

「心配すんなって! お前は何があっても守ってやっから!」

そう言い聞かせて、両手の中にフェアリーを押し込む。

それは少し強引だったけど、なんだか嫌な予感がしたんだ。

それも、二度と取り返しが付かないような。

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