能力値リセット 〜ステータスALL1の無能から徐々に成り上がるつもりが、1ヶ月で俺TUEEに変貌しちゃいました!〜

雪月 桜

最後に見た顔は

思えば、俺は浮かれていたのかもしれない。

一度は役に立たないと嘆いたスキルが特別な力だと分かって、超絶美少女な王女様と親密な仲になって、新しく出逢ったモンスターは何故か俺に懐いてくれて。

そんな都合の良い展開に恵まれたものだから、心のどこかで軽く考えていたんだ。

この世界で生きるという意味を。

だから……こんな事になった。

「……フェアリー」

不自然に凹んだ木の幹と、その根本に横たわる彼女。

恐らく、敵の攻撃を受けて叩き付けられたんだろう。

そして、空に登った赤い三日月が、そんな彼女の姿を朧気おぼろげに照らしている。

それは、まるで悪魔が彼女の不幸を嘲笑あざわらっているかのようで、この上なく不快だった。

「ごめん……間に合わなかった」

そっと彼女の身体を掬い上げ、胸に抱き寄せる。

手の平にすっぽりと収まってしまう彼女は、見た目以上に軽くて、はかなげで、次の瞬間には消えてしまいそうな程に存在が曖昧だった。

……いや、改めて良く見ると、本当に少しずつ身体が透けていっている。

彼女を構成している何かが、光の粒子となって宙にけ、文字通り自然にかえっているんだ。

「頼むよ……! 行かないでくれ。まだ出逢ったばかりじゃないか……」

これからも同じ時を過ごす筈だった。

同じ思い出を共有する筈だった。

言葉は通じなくても、心は通じ合っていた筈だ。

それなのに……。

「何で、コイツなんだよ……。コイツが何をしたってんだ。襲うなら、俺を襲えば良かったのに」

そんな事を呟いている間にも、フェアリーの重みが消えていく。

つい数時間前までは、あれだけせわしなく飛び回ってたのに、今となってはピクリとも動かない。

表情も呆れるほど穏やかだ。

苦しみも、悲しみも、怒りも、何一つとして宿ってはいない。

「……ったく、こっちは必死に泣くのこらえて、顔がグチャグチャだってのに。死んでもマイペースな奴だ」

そんな軽口を叩いても、気分はちっとも晴れなかったけど、コイツの笑顔が頭に浮かんで、少しだけ楽になった。

最後の顔が苦痛に歪んでたら、もっと辛く感じただろうな。

……もしかして、残された俺が苦しまないように、こんな穏やかな顔で……って、それは、さすがに自意識過剰か。

「……短い間だったけど、楽しかった。ありがとな」

それでも、こうして何とか作り笑いで見送れる程度には落ち着いていられる。

そして、これからも、コイツの笑顔だけを思い出せる。

全ては、コイツのお陰だ。

「…………行ったか。って、痛っ!?」

やがて、フェアリーが完全に消え去り、感慨にふけっていた俺だけど、唐突に後頭部に衝撃を受けた。

そして、思わず振り返って絶句してしまう。

なぜなら……、

「…………フェアリー?」

まさに今、天に召された筈のフェアリーが、頬を膨らませて浮いていたのだから。

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