能力値リセット 〜ステータスALL1の無能から徐々に成り上がるつもりが、1ヶ月で俺TUEEに変貌しちゃいました!〜

雪月 桜

足手まとい

「……リリィ。悪いんだけど、今すぐ拠点に戻ってくれ。ここから先は俺一人で行く。フェアリーは必ず連れて帰るから、信じて待ってて欲しい」

あの咆哮は恐らく、この森の主とでも呼ぶべきモンスターによるものだろう。

そう判断した俺は、一つだけ確信した。

あれは、今の俺達の手に負える相手じゃないと。

ただの直感だけど、幸か不幸か、こういう勘は今まで外れた事が無い。

だから、リリィは先に逃がす。

幸いなことに、声が聞こえて来た方角は拠点とは真逆だ。

加えて、ここから拠点までは、そう距離も離れていないので、リリィが単独行動しても問題はないだろう。

一般的な低級モンスター程度なら、彼女だけでも対処できる事だしな。

「何を言ってるんですか!? ハヤト様だって、あの恐ろしい声は聞いたでしょう! あんな相手が闊歩している森を、一人で巡るなんて危険すぎます!」

「危険だからこそ、一人の方が良いんだ。俺の力は誰かを守るのに向いてない。だけど守るべき相手が居ないなら、どうとでもなる」

俺の固有スキルについて、詳細は伏せているけど、いま言ったのは全て本当のことだ。

能力値リセットの対象になるのは自分のステータスだけだから、リリィを【最適化】することは出来ない。

かと言って、俺が耐久力を上げて庇うのも限度があるし、そもそも今のステータスで通用する保証も無い。

前回、リリィを何とか守り通せたのは、たまたま相手が弱かったからだ。

今度の敵を前にして守り切れる自信は、俺には無かった。

だけど、一人だけなら、運悪く遭遇してしまっても、敏捷力に最適化して逃げ切れるだろう。

「……守るべき相手。……ハヤト様にとって、私はただの守るべき相手で、足手まといな存在ですか?」

ようやく対等な友達が出来た。

そう喜んでいたリリィには、酷な状況だろう。

俺だって、この状況でリリィに置いていくと言われたら納得できる訳が無い。

……だからこそ、曖昧あいまいな態度で濁すことは出来ないよな。

「今回に限って言えば、そうだ」

「……ッ!」

リリィの顔が悲痛に歪む。

溢れそうな涙を懸命にこらえる姿に、俺まで心が痛くなる。

だけど、もしも俺だったら、これくらいは言わないと引き下がらない筈だ。

後から、こっそり付いてこられたりしたら、全てが台無しになるかもしれない。

善意や好意が悲劇の引き金になる……そんな最悪な形で彼女を失うのは、我慢ならないんだ。

「リリィの最大の強みは、回復にある。だけど、今回の敵との戦いで回復が必要になる場面は、恐らく無い。圧倒的な力の差で一撃で叩き潰されたら、回復しようが無いからな。そして、リリィには回復以外に突出した力は無い。……そうだよな?」

「……はい」

これまで交わした会話の中で、リリィの能力は把握している。

俺のように固有スキルを隠している可能性も、考えていたけど、それも無さそうだ。

なら、俺の結論は変わらない。

「頼む。もう一度、全員で会うために、今は耐えてくれ」

「……分かり、ました……」

到底、納得できる事ではないだろう。

爪が食い込むほど強く握られた拳が、それを物語っている。

それでも、リリィは確かに頷いた。

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