能力値リセット 〜ステータスALL1の無能から徐々に成り上がるつもりが、1ヶ月で俺TUEEに変貌しちゃいました!〜

雪月 桜

リリィの信じる道

「ふぅ……何とかなったか」

モンスターの群れを何とか掃討した俺は、緊張の糸を解いて深く息を吐いた。

同時に、もう一度だけ能力値リセットを使用して、ステータスをHPと耐久力に割り振っておく。

これで万が一、不意打ちを受けても、ある程度は耐えられるだろう。

その後、辺りに散らばった無数のしかばねを改めて見渡して、動いている影が一つもない事を確認し、リリィへと向き直る。

「あ、あのぅ。助けて頂いて、ありがとうございます。本来は私が守るべき立場なのに……」

未だに混乱が抜け切らない様子のリリィが、おずおずと、お礼を口にする。

まぁ、追い詰められていたはずの俺が、いきなり大立ち回りを演じて、あげく、一歩的に勝っちまうんだもんな。

驚くのも無理はないし、何なら俺が一番、驚いてるくらいだ。

まさか、能力値リセットに、こんな力が隠されてたなんて。

そうとも知らずに【忌まわしいスキル】とか思っちゃって、申し訳ない気分になってくるわ。

…………それはそうと、守るべき立場って何のことだ?

「えっと、アンタは王国の第3王女――リリィ姫で合ってるよな?」

「は、はい……」

蚊の鳴くような小さな声で、コクンと頷くリリィ。

“さっきまでの威勢は何処に消えたんだ”と言いたくなるくらい、しおらしい態度だけど、どっちかって言うと、今のリリィの方が見慣れてるんだよな。

王城で何度か見かけた時も、二人の姉にペコペコしてたし、オドオドしてた。

むしろ、モンスター相手に堂々としていた先の姿は意外だったと言える。

「で、俺の事は知ってる?」

「も、もちろんです。私達、王族が召喚してしまった方々の顔と名前は全て覚えていますから」

へぇ、てっきり王族は俺達の事を都合の良い駒程度にしか考えてないと思ってたけど。

……いや、これはリリィが特別なのか。

少なくとも、彼女の二人の姉や国王、王妃は明らかに俺達を使い潰す気に見えた。

そういう事情もあったから、城で保護して貰うのは潔く諦めたんだ。

変に粘って反感を買ったら元も子もないしな。

「……召喚してしまった、ね。もしかして、アンタは召喚に反対だったのか?」

「当然です! この世界の問題は、私達が自ら矢面やおもてに立って解決すべきもの。いくら力があるからと言って、他の世界から戦士を呼び出し、戦を押し付けるなど、正気の沙汰さたではありません! ……ですが、我が国では、このしき伝統が何百年も受け継がれているのです」

……はい?

「ち、ちょっと待ってくれ。まさか異世界召喚は今回が初めてじゃないのか?」

「その通りです。魔王が現れる度に召喚は行われ、異世界の戦士が魔王を討伐する。そうして、この世界の歴史は今日まで続いてきたのです」

「マジかよ……。召喚された後の対応が妙に手慣れてると思ったら、数百年の積み重ねで、とっくにマニュアルが出来上がってたって訳だ」

いま思えば、俺も含めて、クラスメイト全員が魔王との戦いを簡単に受け入れ過ぎていた。

つい最近まで平和ボケした学生だったハズなのに。

もしかしたら、洗脳系のスキルや魔法も併用していたのかもしれない。

「私は今回こそ召喚の連鎖を終わりにしたかった。だから、召喚の儀が失敗するように細工もしました。けれど、あっさりと父様に見つかり、儀式は行われてしまった。なら、せめて異世界の皆さんのサポートをしようと心に決めていたんです」

「それで、俺を追いかけて来たってのか?」

「はい。しかし、それだけではありません。幾度となく行われた過去の召喚において、毎回一人だけ特異な力に目覚める方が居るのです。父様たちは、それをハズレ枠と呼んでいました」

ハズレ枠……か。

言葉の響きからして、どう考えても良い意味では使われていないよな。

という事は、もしかして。

「そのハズレ枠に当たった人達は、俺の時みたいに追い出されたのか?」

「……はい。その後は行方不明となっていて、少なくとも、この国の歴史に登場する事はありませんでした。だから、きっと今回も誰かが選ばれてしまうと思って、急いで城を抜け出して来たんです。本当は召喚の儀を邪魔した件で謹慎になっていたんですけどね……あはは」

困ったような笑みを浮かべて、力なく笑うリリィ。

その話が本当なら、もはや、一族から見放されてもおかしくないんじゃないか?

「どうして、そこまで? 下手したら勘当されて王族じゃなくなるかも、しれないじゃないか」

「たとえ身分を失っても、王族としての誇りは、この胸に残りますから。立場に拘って本当に大切なものを見失いたくなかったんです。王族とは、民を守り、支え、導く存在であると、私は信じていますから」

そんな風に自分の信念を語るリリィは、眩しいくらいの笑みを浮かべていて、俺も思わず頬を緩めたのだった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品