能力値リセット 〜ステータスALL1の無能から徐々に成り上がるつもりが、1ヶ月で俺TUEEに変貌しちゃいました!〜

雪月 桜

リリィ

「はぁ……これから、どうすっかなぁ」

すっかり日が暮れた薄暗い森の中で、俺は途方に暮れていた。

教会から逃げるように去った俺は、一縷いちるの望みを託して王城に行ってみたが、その反応はクラスメイト達と同じだった。

いわく無能に用はないと。

そして、保護を拒まれた俺は、行く宛もなく、フラフラと彷徨さまよう内に、この森にたどり着いたという訳だ。

「金も無い、力も無い、コネも無い、知識も無い。……まっ、でもポジティブに考えれば、失う物もない……か」

元々、楽観的な性格なので、割と簡単に立ち直る俺。

とはいえ、それで現状が急に好転する訳でもないけど。

取り敢えず、出来る事から始めていくか。

こんな所で無様に死んだら、クラスメイト達にも笑われるだろうしな。

やっぱり、アイツは無能だったんだって。

アイツらの予想通りになんて、誰がなってやるもんか。

ここから成り上がって、いつか必ず見返してやる。

そう決意した俺は、日が落ちて急に肌寒くなっている事に気付いた。

「とにかく、まずは暖を取るか。……【炎よ】」

適当な枯れ葉と枝を集めて盛った俺は、炎の基礎魔法に必要な呪文を唱え、種火を生み出す。

それから、その種火を枝葉に放り込み、即席の焚き火とした。

実は、この世界に召喚されてから、既に一週間ほどの時が経過しているのだ。

そして俺達は、この世界の基本的な知識について、一通り学んでいる。

基礎魔法についても、そこで教わった。

まさか、こんな形で実践する事になるとは思わなかったけどな。

「……にしても、こんな実用的な魔法が消費MP1で使えるとか。なんて便利な世界なんだ」

そう、全てのステータスが1になってしまった俺でも魔法が使えた理由は、それだ。

基礎魔法と呼ばれるものは、事象改変の強度や規模を最小限に抑える代わりに、消費エネルギーを極限まで軽減しているらしい。

主に戦闘より生活に役立つものが多いそうだ。

火の基礎魔法以外にも、水の基礎魔法、風の基礎魔法、土の基礎魔法、光の基礎魔法、闇の基礎魔法があるらしい。

まぁ、光と闇は特別な適性が必要らしいから俺には使えないけど。

ただ、MPは時間経過で自然に回復していくので、普通の基礎魔法なら、俺だって何度でも使える。

たとえ、上限が1だとしてもな。

「とはいえ、いつまでも野宿する訳にはいかないし、早くステータスを何とかしないとな。でないと金も稼げないし――――っ!?」

そんな俺の思考は、突如、響いてきた悲鳴によって中断された。

「今のは女の子の声? なんだって、こんな時間に森の中に……」

厄介事が起きているのは確実だ。

命が惜しいなら、即座に逃げるべきだ。

でも、俺は動けなかった。

別に恐怖で足がすくんだ訳じゃない。

頭の中に、とあるイメージが浮かんでいたからだ。

それは、俺を見捨てた幼馴染や、クラスメイトの姿。

無能だから、足を引っ張るから、得体のしれないスキルを持った疫病神かもしれないから。

そんな理由で、俺を切り捨てた彼女たち。

名前も顔も知らない相手だけど、ここで保身に走って女の子を見放したら、俺までアイツらと同じになる気がした。 

それだけは嫌だった。

だから、

「あー、クソッ! これで死んだら化けて出てやるからな!」

俺は悲鳴の元へ駆け出した。

……。

…………。

………………。

「くっ……! こんな所で時間を取られる訳にはいかないのにっ。私は巻き込んだ側の人間として、あの人を守る責任があるのに!」

鬱蒼うっそうとした森を全速力で駆けること数分。

俺は、ようやく目的の人物を視界に捉えた。

彼女は複数の狼型モンスターに囲まれながらも、毅然とした態度を崩さず、力強い眼差しで敵を睨みつけている。

そして、その手には精緻せいちな装飾が施された白銀の杖が握られており、豪奢ごうしゃな赤いローブに身を包んでいた。

「あの子は……まさか!?」

俺は、彼女に見覚えがあった。

この一週間で数える程度しか顔を見てないけれど、その美しい金髪と、どこかうれいを帯びた蒼い瞳が妙に印象的で、記憶に残ってたんだ。

王国の第3王女、リリィ。

俺達を召喚した王族の一員である。

「……けど、それがどうしたって話だな」

相手が誰かなんて関係ない。

俺は悲鳴の主を見捨てないと決めて、ここに来たんだ。

他の誰でもない、自分自身のプライドのために。

だから、

「おら、狼ども! そんな、ちっちゃい女の子じゃ物足りないだろ! こっちに、もっと大きな獲物がいるぞ!」

腹の底から声を張り上げ、自分の存在を全力でアピールする。

女の子は既にボロボロで満身創痍といった様子だ。

だから俺が注意を引き付けて、適当に逃げ回る。

この入り組んだ森の中なら、そう簡単に捕まる事もないだろう。

後は、何とか街まで引き返して、門番にでも泣きつけば良い。

「なっ、あなたは!?」

当たり前のことだけど、狼型モンスターだけじゃなくて、リリィも俺の存在に気付いた様子だ。

その目は大きく見開かれ、上品に口元を押さえている。

まぁ、でも俺の顔を覚えてるかは微妙だよな。

リリィと違って俺は特筆する点のない凡人だし。

というか、よく考えたら気付かれない方が都合が良いのか。

せっかく助けた相手に無能とか罵られたくないし。

「なーに、名乗る程の者じゃない。いいからアンタは、気にせず逃げろ!」

くぅー! 一度で良いから言ってみたかったんだよな、このセリフ!

俺の正体も隠せるし、一石二鳥だ。

「待って、そうじゃないの! それじゃ駄目なの! 私は貴方を――――あっ!?」

足は止めずに首だけ振り返ると、リリィが膝から崩れ落ちていた。

やはり体力の限界だったんだろう。

何か言い掛けていたようだけど、その続きは機会があれば聞かせてもらうとしよう。

「そらそら、どうした狼ども!? 追いつけるもんなら追いついてみろよ!」

それなりに距離を取った状態から逃げ出しているので、まだまだアドバンテージには余裕がある。

なので俺は、適当に拾った石や折った枝をを投げたりして狼達を挑発していく。

その甲斐かいあってか、全ての狼が俺に狙いを定めたようだ。

もうリリィの周りに危険はない。

「あとは自分の身を守るだけ……なんだけど。うん、ちょっと迂闊うかつだったかもな」

ガサゴソと草を掻き分け、迫ってくる足音。

背後から聞こえるソレとは別に、側面からも何やら気配を感じ始めていた。

「そりゃあ、夜中に、こんだけ騒いでたら狩ってくれって言ってるようなもんだよな……」

どうやら、他のモンスターの注目まで集めてしまったらしい。

今の所、接触する様子はないけど、これで街に向かうルートが潰されてしまった。

「こりゃ、完全にやっちまったか? ……まぁ、でも、あんな美少女を守って逝くなら、死に様としては悪くないか……」

せめて、骨は拾って、弔いの一言くらいは掛けて欲しいものだ。

とはいえ、大人しく死ぬ気は、さらさら無いけどな。

最期に1匹くらいは道連れにしてやろう。

そんな事を考えながら、俺は死に場所を探るように走り続けた。

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