氷花の鬼神って誰のことですか?え、僕のことってどういうこと?

皇城咲依

63.大きな嘘

「どういうつもりだ…!」

ルイはトゥーリス王にこう叫ぶ。

「あいつの…エレミヤの旅仲間を殺せとはっ…!」

トゥーリス王はニッコリと笑うと、

「どうだ?」

ともう一度聞く。
ルイは怒りに任せて叫ぶ。

「誰がやるか!いい加減にしろ、おまえはこうやって仲間を裏切る気か!」

トゥーリス王は笑みを深め、淡々と言った。

「仲間?『仲間』なんぞ必要ない。『部下』だけいれば十分だ。」

ルイは怒りが膨れ上がっていくのを感じた。

部下…だと…?!
こいつが本当にジュレークの親父なのか?

いや、違う。
ジュレークは皆全員を部下では無くて仲間として認識していた。

なのにこいつは…。
トゥーリス王は笑う。
そして唐突に

「実は、私は嘘をついている。」
「…なんのことだ。」

と告げた。

「私の言う嘘は…。」

トゥーリス王は肩をすくめる。

「全てだよ。」
「は?」

怒りを忘れて素っ頓狂な声を上げるルイにトゥーリス王はもう一度言う。

「だから、全てだ。私の言ったことも、全てな。」
「は?」
「私は嘘つきだからな。」

トゥーリス王はニッコリと笑う。

「君が信頼に値するかを確かめたのだよ。だから、そんな怖い顔をするな。」

すると、トゥーリス王はエレミヤに触れる。
その瞬間、無理やり覚醒させられたエレミヤがピリピリした空気を感じ、

「…何これ。」

と呟いた。

「やぁ、おはよう。」
「あ、おはようございます。ルイもおはよー。」
「お、おう。」

一通り挨拶を交わし終えてから、夕方の赤い空の下で沈黙が流れる。
エレミヤは頬をポリポリとかく。
攻撃体制のルイと飄々としているトゥーリス王をじっくり観察してエレミヤはなにかに気づいたようだ。

「…陛下。」

エレミヤが低い声で言う。
トゥーリス王はフューと下手な口笛を吹いて明後日の方向を向いている。

「あなた、ルイになんかしたでしょう。絶対に。」

と鋭い質問。
トゥーリス王はニコニコと笑うと、

「あー。こんな時間だー。もう行かなくちゃー。」

スルー&棒読み。

ルイは武器を握り直し、エレミヤは目を細める。

その瞬間、王様の足元から眩い光が。

「じゃ、私はそろそろ行くよ。ジュレークからも聞いたと思うけど、5ヶ月後、ゆっくりでもいいからお願いねー。」

と言うと光に飲み込まれ、消えた。
そこにはナイフを構えたルイと呆れた様子のエレミヤが残った。

「…あの人、変人か?」

とルイが容赦ない事を呟き、

「そうかも。」

エレミヤも容赦ない返事を返す。

二人は顔を見合わせると、思わずフフッと吹き出す。

しばらくエレミヤとルイは笑いあった。

しかし、エレミヤがルイの父親を殺したことは紛れもない事実。
でも、ルイは思ったのだ。

こいつは自分に似てる、と。

何か大事なものを無くした記憶がある。
もしくはそれを取り戻そうと躍起になったことがあるのだろうと。

(あの男、変人だったけど…。俺らの仲を取り持ってくれたのか?)

そう思えざるを得ないルイにエレミヤは笑いかける。

「まぁ、僕が君のお父さんを殺したことは事実だし。君が僕を殺したいのなら僕らに同行しなよ。」
「…何?」

自分の寿命を縮めている発言を口に出すエレミヤにルイはポカーンと口を開く。

「え?」

と声を漏らすルイにエレミヤは首を傾げる。

「来ないの?」

首を傾げるエレミヤにルイは口元を引つらせる。

「あ…。行く…けど…。」

するとエレミヤはニッコリと笑うと

「じゃ、事情説明するからみんなのところ行こっか。」

と言うとルイの腕を掴み、走り出す。

「お、おいおい!いいのか?自分を殺すようなもんだぞ!」

エレミヤはフフッと笑う。そしてルイを向いて言う。

「だって、恨みを無くせ、なんて言えないし。それに、同行してくれれば僕の仕事のこととか、皆のこととか分かってもらえると思ってね。」

ルイはエレミヤの言葉に思わず苦笑いする。
エレミヤの言葉には自分が殺されるという仮定すらなかったからだ。

「…自信ありすぎだろ。」

エレミヤは呆然としたルイに

「一応、シノハナの一人ですので。」

と得意げに言う。
エレミヤはその間にもルイの腕をガッチリ掴んで走り続ける。

「まぁ、そうか。」

どこか納得できるエレミヤの言葉にルイはそう呟く。

一方のエレミヤは新しい旅仲間ができた事にとても喜んでいたことはルイは知らない。

(それに、とても強いしね!)

一番の決め手はやはりこれだ。

強いは正義。
この世界はそれがモットーのようなもの。
強い仲間が増える事で皆が安全に、楽しく旅ができる。

エレミヤは空を見上げる。

(さてっと……。)

そして口元にわずかに笑みを浮かべた。

(この国に長く居ないほうがいいみたいだな。)

いつも色とりどりの色で光っている月が今日は雲で翳っている。

エレミヤにはそれがなにかの前兆のように思えて仕方がなかった。

「今日も月が綺麗だね…。」

そう呟くとルイが反応した。

「…ぼんやりしてるな。あれでも綺麗なのか?」

エレミヤはニッコリと笑うと足を止め、振り向く。

「うん。僕には綺麗に見えるよ。」

ルイはもう一度空を見上げる。

やはり、翳っている。
でも、藍色に光る月はやっぱり綺麗かもしれない。


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