氷花の鬼神って誰のことですか?え、僕のことってどういうこと?

皇城咲依

53.初めての依頼

エレミヤ達が異能力者だということを知ってしまった、ギルドにいた人々に箝口令という名の脅しをかけてからエレミヤ達は色々大変だった。
ランクを特例としてAに上げると言われたり、どこの異能力者組織に入っているのか聞かれたりした。

もちろん、エレミヤ達はAランクになるのをお断りしたり、聞かれたことに対して笑ってごまかしたりしてした。

すると、依頼板を眺めていたミイロが囲まれているエレミヤの方へ依頼を持って走ってきた。

「まっくん!見て!」

彼女の手には「龍草の採取」と書かれた紙が。
必要ランクは、SS。

「私、これやりたい!」

龍草とは龍の発する気を長い間浴びながら育った草のことだ。
高い癒やしの力があり、価値も金に近い。

しかし、その近くには龍がいる可能性があるため、SSランクとなっている。

「駄目だよ、僕らはGランクなんだ。ズルはいけないよ。」

とエレミヤは苦笑いしながら言う。
しかし、ミイロは笑う。

「SSSランクの人がいるじゃない!ね、ユウさん!」

ユウはこちらを向いた。

「う〜ん……。俺が一人で行くのなら別にいいけど、この場合は一番低いランクの人と合わせるんだよ。」

と説明する。
するとミイロは頬を膨らませ、

「なぁんだ…。」

明らかに不機嫌になった。
そして依頼書を元に戻す。

そしてその隣にあった紙を剥がし、持ってくる。

「ん!」

と言いながら依頼書を突きつける。
「ゴブリンの討伐 必要ランク G」
エレミヤはそれを受け取ると一瞥し、頷く。

「うん、これにしようか。」

ミイロはエレミヤがにっこり笑い、頭を撫で始めると、機嫌をすっかり直したらしい。
ミイロは顔をほんのり赤くして、ニッコリ笑う。

周りから男性の痛い視線…。

「なんだよ。あの男…。」
「ちょっと顔が良いからって調子乗り過ぎだよな…。」

ドッ!

ミイロが男達のひそひそ話を聞きつけ、真顔で聖弓レジュリアートを放つ。

矢は男達のちょうど中間にあたった。

男たちは無言で冷や汗をダラダラ流しながら硬直し、笑みを引つらせる。

「「……すんません。」」
「それでよし。」

ミイロは真顔で頷く。
一方のエレミヤは苦笑いを浮かべる。

「あの…あまり脅さないほうが良いかと思うのですが…」

と言うも、ミイロはエレミヤを振り返り、

「まっくんは優しすぎるの!」

と叱る。

「すみません…。」

勢いに飲まれ思わず謝るエレミヤ。
それに聞いてミイロは満足そうに頷く。

そしてミイロはその依頼書を握りしめたままエレミヤの手を引き、

「ほらっ!ゴブリン退治、行っくよー!」

と言うと楽しそうに走っていく。

「え、今から?」
「あったりまえじゃない!」
「……まあいっか。」

そして彼らは武器を携え、ゴブリンが出没するらしい「オドルワースの森」へ向かった。

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そして……。

結論から言うと、ちゃっかり終わった。

剣を振るうだけで飛んでいく首。
それを何十回か繰り返し、回収するだけ。

三十分もかからず終わったこの依頼は肩慣らしにもならず、エレミヤやユウはもちろんのこと、まだ幼いユユリアでさえ

「つまらなーい!」

と叫びながらゴブリン達を普通に狩っていた。

「うん、さすがゴブリン。実際の異世界でも徹底したモブっぷり!」

とエレミヤは関心さえしていた。

そして、

「はい、ゴブリンの討伐、五十二匹討伐してきました。」

受付嬢は顔を真っ青にしながら証拠となるパンパンに詰め込まれたゴブリンの頭部を受け取った。

「は、はい。確認しました。ゴブリン五十二匹、全てで1560ロン…です……。」

1560ロンとはいわゆる15600円と同じである。

新人がこれだけのお金を貰うことでさえ異常である。
エレミヤは笑顔で受け取る。

「ありがとうございます。じゃ、次の依頼は〜…。」

受付嬢は肩を落とした。

「これじゃ、赤字になっちゃいます…。」

と呟いた。
隣の受付嬢も彼女の方を優しく叩き、無言で同情した。

「…仕方ないですね…。はぁ…。」

と呟いた受付嬢の目にはエレミヤ達に対しての期待の色が浮かんでいた。

するとそこに、エレミヤが来た。

「これ、受けます。」

見せたのはゴブリンと同じく雑魚モンスターの一種である、リザードマンの討伐依頼だ。

しかし、リザードマンは単独で移動するゴブリンとは違い、集団で行動するのだ。

「分かりました。今度は何匹狩ってくるのやら。」

受付嬢は笑顔で頷き、冗談めかして言う。
それにエレミヤは優しく笑うと、

「…うーん……。リザードマンなら三十匹ぐらいですかね…。」

受付嬢の額から冷や汗が流れた。

(まずい、これは本当に赤字になっちゃうかも!うわぁん!それは嫌だ!給料が少なくなると私の唯一の楽しみである月末のお酒がぁ!)

受付嬢は心の中で号泣しながらもエレミヤ達を笑顔で送り出した。
すると、隣の受付嬢が彼女に真剣な顔でこう言った。

「…今月はあたしが奢るわ。マナリー」
「うぅ…。ありがとうございます、キラ先輩!」

優しく、頼れる先輩に新人受付嬢であるマナリーは先輩であるキラに泣きついた。

「はいはい。まずは仕事ね。ほら、さっさとやるっ!」
「はいっ!」

マナリーは締まりきったドアをじっと見る。

「エレミヤ様…。そういえば、姓を聞いていなかったわね。」

と独り言を呟く。

「おーい、マナリーちゃん?どうしたのかなー?」

常連である冒険者がマナリーの名を呼ぶ。
マナリーは物思いから覚めると、

「はいっ!申し訳ありません、ちょっとぼーっとしてました。」

ペコリと頭を下げて謝罪をすると、冒険者はニコニコと人当たりのいい笑顔を浮かべ、

「いやいや、いいよ!俺もマナリーちゃんの顔をじっくり見れたから良かったし!」

マナリーは笑顔を崩さず、笑い続けているが、そのこめかみは今にも引きつりそうであった。

「あら。それはそれは。」

棒読みになってしまったことに気づいていない冒険者。
そしてマナリーが促し、列からずれてもらった。
そして、その後ろには…。

「え?!エレミヤ様!もう帰ってきたんですか?!」

当のエレミヤは片手に持った袋を持ち上げながらぎこちなく頷く。

「はい。宣言した通り三十匹…。って、え?あの、どうしたんですか?おーい。」

椅子に座り込み、俯くマナリーにエレミヤは慌てた。

「救急車……じゃない、医者に連れて行ったほうが……。」

エレミヤは何かをポケットから取り出そうとする仕草をしたあと、オロオロと周りを見渡す。

(私のお酒代がぁぁぁぁ…。)

先輩が奢ってくれると知っていても、金銭的に余裕のない新人受付嬢にとってはかつてないほど悲しいことであった。

その時だった。
冒険者ギルドに取り乱した見知った女性が駆け込んでくるのを見た。

「レイ…?」

レイチェル・オーバーレス。
マナリーの同僚。
最近子供を産み、休みをとっている女性だ。

「マナリー!」

マナリーはエレミヤに笑いかける。

「あ、ごめんなさい。」

しかし、エレミヤは両手を振り、

「いえいえ。」

と笑って答える。
当のレイチェルは泣きそうになりながら叫んだ。

「私の…私の子が誘拐されたの!」

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