氷花の鬼神って誰のことですか?え、僕のことってどういうこと?

皇城咲依

50.ユウと花園

「ありがとう。水、飲ませてくれて。」

ユウがエレミヤに言う。

「いえ。この湖はみんなで使うものなので。お礼はいりません。」

するとユウは少し考えたあと、

「君たちって、どこに行こうと思ってるの?自分の国?」

と聞く。
エレミヤは首を横に振る。

「旅人ですので。いきあたりばったりでやっていこうと。」

すると、ユウは

「なら、俺と一緒に行かない?俺も旅人だし。」

と聞いてきた。
エレミヤはそれを聞いて、思わずユウの手を取っていた。

「いいんですか?!やった!」

と喜ぶ。
その喜びっぷりにユウは目を瞬かせる。

「いや〜…。僕、首に、つけてるのでそういうことはないと思ってました!」

と言いながらエレミヤは笑顔で首元を指す。

「明らかにユウさん、僕とティナのこれに気づいていたので。」
(うっ…。バレてたか…。)

こっそり見たつもりだったのに、なんだこの少年。食えないな。
鉄の色をした普通の首輪だったが、その端には小さく数字が書いてある。

「いや、龍に乗って飛び回れるなら、許可はとってあるんだろうな、って思って…。」

とユウは言う。

「いや、まさにそうなんですよ!なんか、ホントはつけられるはずではなかったんですが、祖父を庇ったら、条件としてこれ、つけられたんですけど…。」
「そ、そうなのか…。」

しかし、エレミヤは笑顔で続ける。

「まぁ、これ厄介ですよねぇ…。命令に反したら首締め付けられるし。一回、外に出るなって言われて、喉乾いたなーってドア開けちゃったんです。そしてたら、ギューッて締め付けられて。あはは…。」

ユウはエレミヤの言葉に笑い半分、呆れ半分の笑いを浮かべる。

「そ、そうなんだ…。」

それにエレミヤは笑顔で言う。

「まぁ、首の骨脱臼したくらいですし。」
「え?」

とスラスラと普通のことのように言う。

「骨は脱臼しても普通に戻せるので。」
「え?」
「まぁ、死ぬことはないので。」
「え?」
「まぁ、少し痛いくらいですから。」
「え?」
「まぁ、どうでもいいので早く行きましょう!」
「えぇぇぇ?!」

ユウは目の前の異常な少年の軽い言葉に目を点にした。

「ちょっとエレミヤ。お前、ユウを困らせてるぞ。」

低い声が聞こえた。
ユウがその声が聞こえた方向を見ると、そこにはティナと言う名の少女と双子たちがいた。

今の声は?
誰から聞こえてきた?

するとエレミヤはキョトンとした後、

「そうなの?ティナ。」
「え?」

と言った。
ユウは目を見開くと、バッ、とティナを見た。

「見て分かんないのか。馬鹿だな。エレミヤ。」

と毒を吐き、ため息をつくティナ。

「なっ……。」

そんな!あんなかわいい子が、男みたいな口ぶりを…。

ユウは目を閉じる。

(かっわいい……!)

ユウはティナを見た。

凛とした顔、ほっそりとした体つき。

「?どうした、ユウ。俺の顔になにか付いてるのか?」

僕っ子ならぬ俺っ子……。
いいっ…!
かわいい…!

前世ではヲタクであったユウはそれはもうメロメロになっていた。

顔には出していないが。

「おーい、ユウお兄ちゃーん?どしたのー?」

すると、そこにグラムという名の少女がこちらを覗き込んできた。

「ラム姉、驚かせちゃいますよ。」

ミストルティンという名の少女が姉に言う。

「いや、大丈夫だよ。」

と言いながらも、

(何この子達…。可愛すぎて萌えるっ…!)

唯一、エレミヤはその感情の動きを読み取り、

(え、何?ロリコン?アーシとダーシャを近づけさせるわけにはいかないな…。)

と思っていた。

「あのー、早く行きましょうよ。ユウさんは…そうですね、僕と一緒に乗りましょう。氷蓮、大きいので。ラムとミストはみぃと乗ってね。」

と言う。
ユウは笑顔で頷いたが、

(せめてティナちゃんかグラムちゃん達と乗りたかった…。)

と心底がっかりしていた。

「もう疲れたよぉー!早く行こうよぉー!」

そこでユユリアという少女が叫ぶ。
ケモミミをぴょこぴょこさせ、父に嘆願している。

(…俺、ずっとここに居るわ…。天国…。)

ユウが一人で有頂天になっていると、ミイロという少女がユユリアに言う。

「めーちゃん、もうちょっと我慢してね?」

(うわ……。ちょっと胸が大きい…。足もスラリとしてるし…。それに、顔もいい!優しそうな微笑み!聖母のようだ!)

「うん!メハナの叔母さんになるみーねーちゃんの言うこと、聞く。」
(え?)

すると、エレミヤが急に顔を赤くして、ペコペコ謝ってきた。

「メ、メハナ!こんな時になんてことを…。あの、ごめんなさい。うちの妹が…。」
「あ、いえ…。」

ユウは少し絶望していた。

(妹?叔母さん?へぇ。じゃあ、ミイロちゃんと結婚するんだ。へー。いーなー。エレミヤくん、いーなー。まー、キレイな顔立ちしてるもんねー。白い髪も青い目を際立ててるというか、はっきり言うと髪の色は雪みたいでキレイだし?目の色もサファイアみたいでキレイだし?あと、俺はティナちゃんがいるから別にいいし。)

つらつらと誰に向かって話してあるのかよく分からない言い訳を心の中で述べるユウ。

おとなしそうな見た目に反して実は肉食系の女性好きであったユウ。

それを知らずにエレミヤは頭をかきながら、

「い、許嫁といっても、爺様が決めたことだし…。それがまだ適用されるのかもよく分からないし…。」

と言う。

「なっ…。私は!どんなことがあってもまっくんと結婚するから!」
「みぃ?!なに宣言しちゃってるの?!ってか、恥ずかしいんだけど!」
「本心よ、本心。」
「そこは冗談よ、って言って欲しかった…。まぁ、嬉しいけど…。」

ボソッと最後の言葉を呟くと、それに聞いたミイロがエレミヤに飛びつく。

「わぁい!まっくん、だぁい好き!」
「わぁぁ!はっ…恥ずかしいよ!」

それを優しそうに見る皆。
しかし、その中で嫉妬の色を浮かべるティナを見つけた。

(…え?)

するとティナは自分の胸元を見てため息をつく。
あまりない胸を見てシュンとしているのだろうか。

「エレミヤのバカ…。私の気持ちも知りはしないで…。」

と女性口調で呟く。

なんと…!あの男、ティナちゃんまでも虜に…。

「エレミヤは…私の兄なんだから…。腹違いとはいえ…。」

と呟く。

(なぁーんだ、ただのブラコンか。ブラコン、ツンデレ、俺っ子、たまに女性口調…。良いっ!まさに好みっ!)

心の中で、闘志の炎を燃やすユウ。

そんな彼にエレミヤは言う。

「みぃ、僕と一緒に乗るそうなので、紅蓮をお使いください。」

途端に彼はときめく。

(あの、かわいい子達と一緒に…!)

しかし、エレミヤはにっこり笑顔で言う。

「ラムとミストはこちらで乗るので。」

それを聞いた瞬間、ユウは北風に吹かれた気分になった。

「分かりました…。」

エレミヤは息を吐くと、氷蓮に向かって歩き始めた。
ミイロとグラム、そしてミストルティンを連れて。

そしてユウは水を飲んでいた馬を野に放し、紅蓮という名の龍に乗った。

そしてかけられた言葉が、

『どんまい。』

だったことはかけられた本人以外知らぬことだった。

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