氷花の鬼神って誰のことですか?え、僕のことってどういうこと?

皇城咲依

48.裁判と旅のはじまり

トゥーリス王国城門前。

「さぁ、行くよ!」

エレミヤが旅の荷物を背負いながら呼びかける。

「「「おぉ!」」」

ミイロ、ティナ、メハナ、ジュリバークが片手を付きあげる。

彼らを見守るのはガルゴス家当主であるギリウスとロンガット、そして王太子に任命される予定であるバラックである。

「エレミヤ。お前の俺の甥のような存在だ。たまに帰ってくるんだぞ。」
「エレミヤさま、無茶はせずに。しっかり就寝して、ご飯を食べ、昼間は運動するのですよ。何かあったらいつでもお手紙をお書きください。このロンガット、いつでもご相談に乗りますぞ!!……皆様方。エレミヤさまをどうぞ宜しくお願いします!」
「お前はエレの爺さんか。…まぁ、そういうことだ。帰ってくるときは連絡よこせな。」

エレミヤはみんなの言葉に頷く。
そして踵を返すと、

「行ってきます!」

仲間を連れ、走り出した。

その3日前。

エレミヤとティナは捕まった元ログラーツ王の隣でトゥーリス王と謁見をしていた。

「この者たちの処遇を決める。」

と言うことらしい。

「エレミヤ殿を罰する、ということか?」
「そんな!ティナ殿だって我々に尽くしてくれたぞ!」

と口々に反論が起こる。
しかし、少なからずエレミヤにも、ティナにも非はある。

エレミヤは戦争を起こす火種を作った張本人だし、ティナはジリアスを殺したのだ。

ザワザワとざわめく彼らに一喝した人物がいた。

「静まれ!」

ジュレーク、つまりバラックだ。
エレミヤとティナは顔を伏せ、バラックの顔を見ないようにしていた。

瞬時に静まる貴族たち。
そこでティナが口を開く。

「僭越ながら申し上げます。私、ティアラ・ログラーツ、いえ、ティアラ・ロガーツはあなた方の大事な人物の一人であるジリアス・ガルゴス殿を暗殺しました。その罪は紛れもなく死罪に刑されるべきことにございます。そんな私が罪を逃れることはできるはずはないと心得ております。」

エレミヤもその後、口を開く。

「僕…いや、私は対戦の元凶と言えるべき存在です。私がトゥーリスへ来ようとしなければ、戦争は起きず、又、たくさんの人の命が失われることはなかったと考えております。我々のことを弁護してくださることは大変光栄でございますが、我らとしてもそれは耐え難いものもあるのでございます。それは隣にいる、我が祖父にも同じことが言えるのです。」

反論をしてた彼らは口を閉ざした。

バラックはこちらを見ようとしないエレミヤとティナを見た。
バラックの隣ではスィーシアとセファリアが俯いている。
スィーシアの方は今にも泣き出しそうだ。

エレミヤはそれきり、ティナと同じように口を固く引き結んだ。

「元聖ロガーツ王国国王、ボルクエーズ。お前は何か言いたいことはあるか?」

トゥーリス国王がボルクエーズに話を振る。
すると、ボルクエーズはここぞとばかりに目を鋭く光らせて吐き捨てる。

「あるに決まってる!何故貴様が私に向かって偉そうな口をきいてるんだ!」

これにはエレミヤもティナも嘆息した。

「爺様。」

エレミヤがボルクエーズに呼びかけるも、聞いていない様子。
周りの人たちも怒りに眉をしかめている。

「大体だな、この青二才が…」
「爺様。」
「小僧めが国を豊かにするだと?は、無理だ無理だ!」
「爺様。」
「戦争?は、そんなもんで賢王かどうかが決まるわけないだろうが!」
「爺様。」
「賢王どうか決めるのは民だ!私は民から慕われていた!よって私が王にふさわしい!」
「爺様!!!」

辛抱強く呼びかけていたエレミヤが爆発した。
ボルクエーズは突然の大声にエレミヤを、反射的に見る。

「ログラーツは負けたのです。それを実感なさいませ。」

エレミヤがそう言った。ボルクエーズはこちらを見ない孫の恐ろしいほど穏やかな目に威圧的なものを感じた。

「し、しかし…ルティーエス…。」
「僕はエレミヤです。ルティーエスじゃありません。あなたの愛する孫があなたを裏切るようなことをしますか?」

そこでボルクエーズにも真実が明かされた。

エレミヤの真実を。

エレミヤは怒鳴られるかな?と思ったが、それを越して放心状態になったときは驚いた。

そしてエレミヤとティナに処されたのは軟禁。
こんなに軽いのはトゥーリスに寝返ったからだそうだ。
また、エレミヤにかけられた蜘蛛の異能力を解除するらしい。

ボルクエーズは案の定、死刑であった。
そこでエレミヤとティナはお互いに視線を交わした。

「陛下。」

ティナが言った。
王はティナを見る。

「寛大なる処置、誠に感謝いたします。しかし、このボルクエーズも曲がりなりにも我が祖父であります。死刑だけは…。勘弁して…もらえ…ないか…と…。」

最後は声が掠れていた。
エレミヤも深く頷き、頭を下げた。

「…はぁ。そう言うと思った…。」

王はため息をつく。

「良かろう。しかし、エレミヤにかけた私の異能力は解除しない。ティナ、お前にもかける。更に罪人として首輪をつけてもらう。本来は罪人扱いするつもりはなかったが…。仕方のないことなのだが…。いいか?それが条件だ。」

エレミヤとティナはお互いに嬉しそうに顔を見合わせると、

「「それくらい、お安い御用です!」」

と叫んだ。

結果、ボルクエーズは奴隷となり、売払われ、エレミヤとティナはお互いに話し合い、トゥーリス王国を出ていくことにした。

理由は2つ。

一つはこの国に居づらくなったから。
もう一つは単にあちこちを回ってみたかったからだ。
エレミヤは学園に通いたい、という要望があったが、結局諦めた。

そして今、エレミヤとティナ、そしてミイロ達はトゥーリス王国を出た。

「やっぱり、転生者は冒険しなくちゃね!」

日本語で叫んだエレミヤは、日本語をある程度話せるティナと、転移者であり、勇者のミイロ、転生者のユユリアに意味は伝わってたが、ジュリバークだけ意味が分からず、彼は悔しい思いをしていた。 

(後でユユリアに教えてもらおう。)

そう決心したジュリバーク。
彼の隣では小さな耳をピョコピョコ動かし、尻尾をブンブン振っている娘がいた。

「パパ、どうしたの?寂しそうだよ?」
「ん?何もないぞ。歩くのが疲れたらいつでも言いなさい。」
「はぁーい!」

そんな彼らをエレミヤの声がかかる。

「メハナー?ジュリバークさーん?どうかしましたかー?」

そんな彼の言葉にユユリアとジュリバークが首を振る。

「なーんにもなーい!」

ユユリアが叫び、ジュリバークが薄っすらと笑う。

「早く行きましょう!さぁ、冒険だ!」

エレミヤは楽しそうに笑う。
すると、アーシリアとダリアが出てきて、エレミヤと手をつなぐ。

「アーシも歩くー!」
「父様…。ダリア、疲れました。」
「あぁ!ダリア、あなた歩き始めたばっかりでしょ!パパ、私も抱っこして!」
「じゃあ、おんぶ…って言いたいけど、荷物が…。」
「へっへー。早いもの勝ちですぅー。」
「ひどいよ、ミスト!」
「ラム姉が遅いんですー。」

終いにはここが異世界ということを忘れ、元の名前で呼び合う始末だ。

「ほら、グラム、ミストルティン。落ち着きなさい。頑張って両方とも抱っこするから…。」
「私はアーシリアだよ!グラムなんて可愛くない名前で呼ばないで!」
「私は長いのでミスト、と…。でも、できればダーシャ、と…。」

話が…変わってきてる…。

エレミヤはため息をつくと、「ママ」であるミイロにアーシリアを託した。

「いくよ、アーシ、ダーシャ。皆!」

エレミヤは氷蓮と翡翠を、ユユリアは風龍のふうちゃんを、ミイロは紅蓮を出現させ、全員で彼らに乗った。

「氷蓮!方角、西方!そこで一番近い国へ!」
『了解した!ならば、「アースレッド皇国」へ向かう!』

エレミヤ達の旅は続いていく。


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