氷花の鬼神って誰のことですか?え、僕のことってどういうこと?

皇城咲依

43.氷花の鬼神(2)〜トゥーリスの炎上と国滅の龍〜

暗闇の中で甲高い金属音と二人分の足音が響く。

エレミヤとログラーツ王、ボルクエーズは熱戦を繰り広げていた

「くっ…。流石シノハナ隊員。強いな…。」
「どーも。」

お互いに一歩も譲り合ない。
ログラーツ王は「獅子王」と呼ばれる剣技では彼の上に立つ者はいないと言われた名の通った剣士だ。
一方、エレミヤも最強が集う「シノハナ」の中でもトップクラスの剣士と言われている。

「あなたも結構やるな。」

エレミヤもそう返す。

「なんせ、私は獅子王だからな。」

エレミヤは鼻で笑う。

(さて…。どうするか。僕の正体がバレずに一通り終わらせる方法は…。)

エレミヤ一歩大きく下がりながらは翡翠に頼み、水を出現させる。
それを弾丸の様なスピードでログラーツ王に発射させる。
ログラーツ王は慌てて剣でそれを受け止めようとする。

(流石だな。この世界にはない銃でも余裕に勝てそうだな。この人。
でも…。普通の弾丸と違う点が一つある。物体が直撃するその瞬間に、この水を凍らせる!)

エレミヤは宣言どおり剣にぶつかるその瞬間、氷蓮の力を使い、凍らせる。
速度に干渉しないで凍らせるのに少し苦労した。

そして…。

キィィィン!

嫌な音がする。
硬すぎる物同士がぶつかった音。

そう、ログラーツ王の剣とエレミヤの氷の弾がぶつかった音だ。

エレミヤは顔を歪め、押し勝とうと全力を注ぐ。
ログラーツ王も硬い物体を斬ろうとせめぎ合っているその場所に全力を注いでいた。

しかし、押し負けたのはエレミヤだった。

「うわっ!」

エレミヤは斬られた氷の弾を見て驚きの声を上げた。

そして、エレミヤはその氷を再び水に戻した。
ぴちゃんと水が地面に着地する。

「ふん、手強かったがこんな物で私を倒そうと?驕り高ぶり過ぎたな。」

エレミヤは眉を顰める。

驕り高ぶり過ぎた?
僕が?
いや、有り得ない。

…でも、本当にそうか?
僕の心の奥では驕り高ぶる感情があったのか?

エレミヤはそこまで思考を回した後、軽く頭を振る。

(ここは戦場。一瞬の隙が命取りになる。目の前の相手だけに集中しろ、僕。)

「…なんとでも言え。」

エレミヤはそう吐き捨てる。
彼は目の前の祖父に途轍もない怒りを覚えていた。

自分の触れられなたくない場所に触れられてしまったような。
そんな気持ちになって。

エレミヤはゆっくりと息を吐く。
そして双剣をかまえたその時だった。

「な…。これは…煙?!」

エレミヤは顔を上げた。
あちらこちらからもうもうと上がる黒煙と立ち昇る炎がそこにあった。

ログラーツ王はニヤリと笑う。

「やってくれたな、あいつら!いいぞ、もっと燃やせ!あ、王宮は燃やすなよ、ルティーエス達が居るからな!わっはっはっはっは!!」

勝利の高笑いをするログラーツ王。
彼に向かって二本の矢が一斉に襲いかかった。
ログラーツ王はそれを叩き切る。

「この…外道!!」

ミイロが叫ぶ。
エレミヤは本気でログラーツ王に突進した。

「この…やろう!」

エレミヤは怒りの炎を燃やしていた。
周りの熱気かそれを後押ししているかのように感じた。
エレミヤはもう、迷う余地はなかった。

「ログラーツ王よ。お前が求める者達はあそこには居ないぞ。」

と言う。
そこに、シノハナの服装に見を包み、緑色の仮面をつけたティナがやってきた。

「イー。向こうは終わったわ。」
「ありがとう。」

そしてティナは祖父を見る。

「おい、ルティーエスとティアラが王宮にいないとはどういうことだ!では、とこにいるのだ!」

エレミヤは無言で足元を指差す。

「ここさ。」

ログラーツ王は目を見開いた。

「殺して埋めた、とでも言いたいのか、貴様ぁ…。」

エレミヤは鼻で笑う。
ティナはミイロの隣まで下がり、戦いに手を出さないと言うことを示した。

「違うさ。言ってるだろ?って。」
「何…。じゃあ、お前は!」

エレミヤは薄く笑うと両手を上に掲げた。

「氷蓮、翡翠!力を貸せ!」

と叫ぶ。

『了解!』
『分かったわ!』

その瞬間、エレミヤの手から膨大な量の水が放出された。

それは不自然に広がり、国全体を覆うように 傘状に広がっていく。

ざぁぁあ

と降り注ぐ水。それを氷蓮が一瞬で凍らせる。

ジュッ…。

空に浮かぶ氷の冷気ですべての炎が一瞬にして鎮火した。

そしてエレミヤはすぐさまその氷を消す。
すると、ティナがエレミヤの隣に来た。そして、言う。

「お祖父様。ログラーツへお戻りください。」

と。
ログラーツ王は目を見開き、ブルブル震える。

「ティ、ティアラ…?」

と呟く。
エレミヤも軽く頷く。

「爺様。僕は僕の意思でこの国の民を守ると誓いました。なので、あなたとは敵に当たります。」

と。
エレミヤとティナは一斉に仮面を外す。
その仮面の下から現れたのはよく似た整った顔立ちの二人。
エレミヤは普段柔和な顔を厳しく睨みつけるように祖父を見、ティナは悲しそうな目で祖父を見る。

「ルティーエス…。ティアラ…。」

ログラーツ王はおぼつかない足取りで一歩、ニ歩と下がる。

「せ、正気に戻れ!ルティーエス!ティアラ!」

しかし、必死な祖父の叫びでもエレミヤとティナは聞かない。

そこにバラック、ユユリア、ジュリバークの三人が合流した。
三人とも、それぞれの武器を血で汚している。

「おじいちゃん、メハナ達はね、正義の味方じゃないんだよ。」

とメハナは言う。

「そうよ。守りたいものを守る。それが私達がこの地を守っている理由。」

ティナは優しく祖父に語りかける。

「いい加減、あなたが目を覚ましたら?」

とミイロ。

「エレも、ティナも大事な人が住んでいるこの国を守りたかっただけなんだよ。」

とバラック。
ジュリバークはなにも言わず、じっとログラーツ王を見つめる。

その時だった。

「エレミヤさまぁー!ご無事ですか?!」

という大声が聞こえてきた。
エレミヤは驚きつつ振り返る。

「ロンガットさん…。」

するとロンガットがエレミヤをぎゅっと抱きしめた。

「良かった…。本当に…良かった…。」

感情を激しく表すことはないロンガットが涙を流す。

「エレミヤさま…。」

そんなロンガットにエレミヤは優しく言う。

「もう年なんですから、あまり動き過ぎるのはいけませんよ。」

ここからジリアス家まで3時間ほどかかる。
なのに、ロンガットはエレミヤを心配して急いできたのだ。

「まったく…。」

動揺して動けないログラーツ王を尻目にエレミヤはロンガットとの再会を果たした。

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