氷花の鬼神って誰のことですか?え、僕のことってどういうこと?

皇城咲依

41.ログラーツの思惑

「いいか、これから向こうの状況を説明するぞ。」

ティナは王宮のバラックの部屋にてエレミヤ達に向かって真剣な顔でいった。

エレミヤ達も真剣な顔で頷く。
ティナは口を開き、話し出す。

「お祖父様は、これからこの国に……。」

ポン!

「パパぁーっ!!」

ティナの説明を遮ったのはエレミヤから現れたアーシリアだった。

「ごめんなさい!蜘蛛、解除できなかったぁー!!」
「蜘蛛?」

エレミヤに抱きつき、グスグスと鼻を啜るアーシリア。

訳がわからず、アーシリアの頭を取り敢えず撫でておくエレミヤ。 

「うぅ…。アーシ達はやっぱり無力…。」

そこに後から出てきたぐったりした様子のダリアもソファに座っているエレミヤの膝の上によじよじと上り、脱力した。

「こ、ここで眠らせてください…すぴー。」

早速、寝始めた妹の横で姉はすすり泣く。

「うう〜…。」

エレミヤは二人に何が起きたのか全く分からず、優しく聞く。

「どうしたんだ、アーシ、ダーシャ。」

するとアーシが涙声で報告する。
「パパにかけられた蜘蛛の異能力を解除しようとしてたの。でも、パパの神経と完全に同化していてね、その異能力を消すにはパパの神経ごと消さなきゃならなかったの……。」

またしゅんとして肩を震わせながら泣き始めた愛娘の一人にエレミヤは頭を撫でる。

「アーシ!僕は大丈夫だから。でも、ありがとう。」

コクリと頷いたアーシリア。
そしてエレミヤの隣に座るとエレミヤの膝の上で寝ている妹の頭を撫で始めた。

話は終わったと思ったティナが咳払いをしたあと、女口調で話し始めた。

「ううん!…でね、お祖父様はこの国に奇襲を仕掛けようとしているわ。」

うんうん。

皆が一斉に頷く。

「で!それが実行されるのは今日の夜!」

うんうん。

「ジリアス元隊長の火葬とともに行われるわ!」

うんうん。

「捕獲対象は王族、シノハナの皆、そしてあなた方。」

みんなが顔を見合わせる。
そして、

「「「なんで?」」」

と口を揃えて言う。
アーシリアはお菓子の乗ったテーブルからお菓子を両手いっぱいに掬い、口に頬張り始める。
それを見てエレミヤがアーシリアに注意をする。

「こら。誰も取らないからゆっくり食べなさい。」
「はぁーい。」

またも話が逸れた。
するとティナが強引に話を戻す。

「それでね!質問の答えだけど、王族はともかく、あなた方はお祖父様、そして兄上…。エレミヤにとって大事な人だからよ。」

ほぉー。
なるほどー。 

それぞれの感想が漏れる。

「メハナよく分からないけど、メハナ達は好かれてるから殺されないってこと?」

と確認を取る。

「ユユリアよ。そのような解釈であっているぞ。」

と父であるジュリバークが言うと、ユユリアは笑顔でこう聞き返す。

「かいしゃくって何?」

また話が逸れた。
ティナはもう諦めた様子で話が終わるのを待っている。

その間アーシリアは幸せそうな顔でお菓子を頬張り続けており、ダリアは父の膝の上でぐっすり寝ていた。

❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅

「パぁパぁ、眠いよぉ…。」

その夜、アーシリアが悲鳴を上げる中、エレミヤは王宮からジリアスの火葬の様子を眺めていた。
ちなみにダリアな昼間寝たせいで目がスッキリと冴えていた。

「姉様、だらしないですよ。祓魔剣とあろうともお方が。」
「う、うるさい!ダリアはずぅーっと眠ってたからそんなことが言えるんだい!しかも、パパの膝の上で!」
「だって、力を使いすぎたんですもん。」

エレミヤの後ろで剣姉妹が口喧嘩をしている。
恐らく、アーシリアの眠気を覚ますためにわざとダリアが喧嘩をふっかけたと見たエレミヤはそれを見てみぬふりをした。

「うわぁーん!パパぁー!ダリアがいじめるー!」

アーシリアが泣きついてきた。
エレミヤはアーシリアの頭を撫で、ヒョイと抱っこをした。

そしてエレミヤは不貞腐れているダリアをおんぶした。

「グスン…。」

本気で傷心していたアーシリアはエレミヤの肩に顔を埋める。
ダリアは申し訳なさそうに目を瞑ると、姉と同じようにエレミヤの肩に顔を埋めた。

(まったく、仲いいんだか悪いんだか。)

エレミヤは小さくため息をつく。
その時だった。

どぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!!!!

爆音が鳴り響いた。
トゥーリス王国の門がログラーツによって開けられようとしているのだろう。

〔…来たね。〕

ルティーエスが呟いた。

【あぁ。】

エレミヤは心の中でそう返した。

〔だから言ったろ?いるべき場所を見分けろって。〕
【はは、そんなこともあったね。】
〔やれやれだ。…さぁ、門が壊され始めた。〕

エレミヤはそちらを見る。

門がどんどん凹み始める。

〔国の中で戦争だなんて、爺様もどうかしてるよ。多くの民が亡くなるかもしれないのに。〕

ルティーエスがそうつぶやいたその時だった。

ゴーン。ゴーン。

鐘が鳴り響いた。
戦闘員の急遽収集を呼びかける鐘だ。

予見していたシノハナの皆はお互いに顔を見合わせ頷き合うと、燃えるジリアスに向かって一礼し、風のように走り去る。

学園で勉強中の学生達がお互いに顔を見合わせると空いている4つの席を見た。

ミイロは弓を、バラックは長剣を、ユユリアはナイフを、ジュリバークは拳を握りしめながら立ち上がると、一斉に歩き出す。

各国の王は部下に指示を出していた。

ロンガットは屋敷の中で胸に手を当て、目を強く瞑る。

ティナは顕現してきた風鷹を強く抱き、歩き出す。

エレミヤは二人の娘達を下ろし、ニ匹の龍を顕現させ、徐ろに片手を前へ持っていく。

どぉぉぉん!

遂に門が耐えられなくなり、倒れる。

ガシャァァァン!

重たい鉄の塊が多くの家を踏み潰す寸前、その動きが止まった。

よく見るとその下には氷の柱が。
それは分厚く、純粋。
壊れる事はなく、ただ立派に立っていた。

「行くよ。」

エレミヤは片手をおろしながら後ろにいる5人の仲間に声をかける。

「「「おぉ!」」」

全員の声が響く。

そして彼らは闇夜の中に溶けるように消えていった。

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