氷花の鬼神って誰のことですか?え、僕のことってどういうこと?

皇城咲依

37.作戦と出国

「さて、作戦実行だ!」

エレミヤはその後、かなり気合が入ったようで拳を握りしめながら叫ぶ。

『「「おぉ!」」』

すると、氷蓮が真剣な顔で頷き、剣姉妹はお互いの手を握りながらその繫いだ手を高く掲げる。

そんな二人を見てエレミヤは満足そうにうなずく。
水龍は後で合流するらしい。

「さて、まずは…。アーシ、ダーシャ。頼むよ。」
「はーい!」
「了解です!」

そしてアーシリアとダリアは走り去っていく。

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「アーシはそのおじさんとぶつかればいいのね。」
「ダリアは姉様がぶつかったらおじさんを挑発すればいいのですね。」

アーシリアとダリアは真剣な顔で話し合っていた。
そして彼女たちは頷くと、再び駆け出す。

ネグロックを探すこと3分。
アーシリア達はごってごての服を着ているネグロックを見つけた。

(あ、居ましたよ。姉様。)
(分かった。ぶつかってくる!)

アーシリアは普通の子どもの様に楽しそうに走り出す。

「おっ菓子ーおっ菓子ー。わぁーい!」

とはしゃぎながら。

(姉様…。逆に不自然です。)

ダリアはそう思った。
そしてアーシリアはわざと

「きゃ!」

と叫びながらぶつかる。
ネグロックは額に青筋を立てながら

「おい小娘。誰にぶつかってんだあぁ?!」

と叫ぶ。
するとアーシリアは地面に尻もちを付きながら涙ぐみだす。
そこでたくさんの人の視線がこちらに向かう。

「うわぁぁぁぁん!」

と大泣き。
もちろん、演技な……はず…。え、本当に泣いてる?
そしてダリアは姉のもとへ向かう。

「姉様!だいじょうぶですか?!」
「ダリアぁ〜…。」

アーシリアがダリアに泣きつく。
そしてダリアはネグロックにがん飛ばす。

「私の姉になにかしてくれたらぶっ飛ばしますからね!」
「うっ…。」

と言い放つ。
そんなダリアの迫力にたじろぐネグロック。

「よしよし。大丈夫ですよ。姉様。このダリアがついていますからね。」
「ダリア〜…。ありがとう〜!」
「いえ。感謝などいりませんよ。姉様。私はあなたの妹なんですから当然です。」

…あれ、姉妹逆転してないか?

「今すぐ父様がいらっしゃいますので。少々お待ちください。姉様。」
「ダリアもパパも大好きぃ〜!」

すると、そこにエレミヤがやってくる。

「アーシ、ダーシャ!大丈夫か?!」

そしてエレミヤは親バカっぷりを発揮してネグロックを睨みつけるのだ。

「よくもうちの娘を泣かせてくれたな…。灰にしてくれようか…。」

という魔王のようなセリフを吐いたエレミヤ。
流石、ログラーツ国王ボルクエーズの孫。
後ろで雷鳴が響いていそうな恐ろしさだ。

現にネグロックは怯えている。

「な、何を…。お、俺様は異能力者なんだぞ…。なにかしたら、しょ、承知しないからな!」

エレミヤはそれを鼻で笑う。

「はっ、だから何だ?僕はお前より強い異能力者をたくさん知ってる。雑魚が。昨日も別の異能力者相手に負けてだろうが。」
「な、なぜそれを知って…。」
「お前のような弱い奴がうちの娘に触れていいと思うなぁーっ!」
「ひ、ひぃぃぃっ!」

なぜ怒りがそっちに行くか分からないが、まぁ、順調に進められているエレミヤの計画。

すると、そこに水龍が来るのだ。

「あれ、ご主人さま?」

と言いながら。
すると彼女を見たネグロックは目を輝かせた。

「す…いや、リュウナ!よかった、アイツをぶっ倒せ!!」

しかし水龍は動かない。
するとポロポロと泣き始めた。

「もう戦いたくないてす…。ご主人さまは酷いです…。私のようなか弱い女子を己の私欲のために戦わせるなんて…。」

と。周りに聞こえるように言いながら彼女は俯きながら肩を震わせる。

「な……!」

絶句のネグロック。
すると、周りから共感の声が殺到する。

「可愛そう…。」
「あの子ってリュウナちゃんだよな?!」
「許せねぇ…。」
「女の子の手を血で汚すなんて!」
「貴様男として最低だな!」
「う…うるせぇ!ぶっ殺されてぇのか!」

最終的にネグロックは大声を張り上げる。
が…。

「うるせぇ!汗だっらだらかきながら言われたって怖くもなんともねーよ!」
「そうよ!そこのイケメンのお兄さん!頑張って!」

エレミヤは観客に向かって爽やかな笑顔を浮かべる。

「「「キャーーーっ!!」」」

黄色い悲鳴とはこのことか。
しかし、無自覚イケメンで、しかも無自覚モテ男のエレミヤはただ感謝の意味を込めて笑っただけなのに…。と混乱していた。

「くっそぅ…。どいつもこいつも…。ぶっ殺してやるぅ!」

怒りに震えていたネグロックは遂に水龍の力を使う。
水龍は膨大な力を使われて、地に膝をついている。

それは当然だろう。
この国全体を覆うほどの水が現れたのだから。

ネグロックが掲げた掌からは溢れ出す水。

「おらおらぁ!俺様のことをバカにするやつは俺様の神聖なる聖水を食らって改心するがいい!まぁ、死ぬかもしれないがな!がっはははははははは!」

するともちろん、観客達は逃げ惑う。
その瞬間、
パチンと音を立て、水が弾け飛ぶように消えた。

「は?」

素っ頓狂な声を上げるネグロック。

そして辺りを見渡した彼が見たのは小さな手を前方に向けているダリアの姿。
そして、同じく手を前方に向けているアーシリア。
そしてアーシリアは叫ぶ。

「祓魔剣アーシリア特殊スキル、『時間操作』、皆…止まって!」

すると逃げ惑う観客たちの動きが時間が止まったように止まる。

「な…なんだ…!」

ネグロックがせわしなくあたりを見渡す。
するとエレミヤが歩き出す。

「この子達の特殊スキルですよ。ネグロック・ドル。この子達はアーシリアとダリアといいます。ここまで聞けばこの子達の本性、お分かりですね?」

ネグロックは目を見開く。
アーシリアとダリア。
この二つの名前はそれぞれ一つしか知らない。

最強の剣祓魔剣』と『最善の剣魔剣』だ。

アーシリアとダリアはお互いに顔を見合わせると頷きあう。

「ここは私達が作り上げた世界と言ってもいいの。」

とアーシリア。

「ダリアは異能力やスキルを解除することができ、姉様は時間を止めることができるのです。それに、父様の『氷』の能力が合わせれば完璧です。」

とダリア。
ネグロックは二人の説明を聞いてエレミヤを見る。  

「こ…氷…?じゃ、昨日のあいつは!」

エレミヤが手を上げ、言う。 

「はーい。私、エレミヤ・ロガーツにございまーす。」

とはっきりと。

「あと、僕はシノハナに加入していましてね。昨日、この服を着ていたのですが…。暗くて見えていませんでしたよね。」

と言いながらエレミヤは氷のお面とローブを羽織る。

「シ…シノハナっ…?!」

エレミヤはお面を少しだけ外し、瞳を覗かせる。

「驚きました?あ、このことは秘密ですよ。僕、訳合って追われてるのでー!言ったらちょっと痛い目合わせるかもー。」

何気なく脅すエレミヤとそれにまんまとハマるネグロック。
ネグロックはガタガタと震えながら、

「わ、分かった。何でもする、何でもするから、殺さないでくれぇー!!」

エレミヤはお面で隠した口元を笑みの形に歪ませる。

(ちょろい。)

エレミヤはそう思いつつ意外そうに眉を上げる。

「あー、言いましたねー。じゃ、水龍との契約を解除してください。」

ネグロックはポカーンとした後、

「な、なぜ…?」

と聞いた。
水龍がエレミヤの隣に歩き出す。

「それが、彼女との約束なので。ね、水龍さん。」

するとネグロックが目を見開き、水龍を見る。
水龍は真剣な顔で黙って頷く。

「妾はあなたとの契約解除を望みます。」

と一言。
ネグロックはそれを聞いてドスンと下さい、座り込む。

「じゃ、どうしますか?彼女との契約を解除するか、僕に殺されるか。二つに一つです。制限時間十秒!チクタクチクタク…。」

エレミヤは時計の音を真似して促す。 
慌てたネグロックは両手を前に突き出すと、

「わ、分かった!解除、解除する!」

と言った。
その瞬間、水龍との契約が解除されたことを示す、ネグロックと水龍をつなぐ細い糸が可視化され、それがプツン…と切れる。

水龍はそれを見た途端、喜びを顕にする。

「うわぁーい!やったぁ!」

エレミヤはそんな彼女を見て微笑み、アーシリアとダリアはお互いに手を取り合い、喜び合う。

「さて、一件落着っと!」

エレミヤはそう叫ぶと、アーシリアに力を解除するように言い、去っていく。

そしてネグロックはアーシリアのスキルかま解除されてからもワイワイ騒ぐ通行人たちを眺め、ぼぅっと突っ立っていた。

そしてギリウスと合流したエレミヤ達はフォルスワームを出発した。
たった2日しかなかった生活だったが、楽しかったし、得るものもあった。

「えと、水龍さんはこれからどうするの?」  

道中、エレミヤがそう聞くと隣を歩いていた水龍は答える。  

「本当はヒョウくんとずっと一緒にいたいけと、魔獣と契約できるのは一人につき一匹。だから…。」

そこまで言うとエレミヤの中のルティーエスが反応する。

〔二人じゃないか。〕

と。エレミヤは最初、何言ってんだこいつ。と思ったが、
すぐルティーエスの言いたいことがわかった。

「そうだよ!僕は二人いるんだ、一人は僕、エレミヤ。もう一人はルティーエス!水龍、君はルティーエスと契約すればいいんだ!」 

とエレミヤが興奮しながら言うと水龍は目を瞬かせた。

「ちょっと何言ってるか訳がわかりませんが、ヒョウくんと一緒にいられるなら、それでいいです!ルティーエスさん、契約しましょ!」

そしエレミヤとルティーエスが場所を交換し、無事にルティーエスと水龍の契約が終わった。

そしてルティーエスは水龍に『翡翠ひすい』という名を与えた。

「さて!これから師匠の葬儀に向かう!あと二日しかないけど、追手を撃退しながら頑張ろう!」

契約が終わり、今度はエレミヤがエレミヤの体を操ると、開口早々そう言った。

「おう!」
『りょーかい!』
「分かったわ!」
〈はぁーい!パパ!〉
〈頑張りましょう、父様!〉

と皆んなが楽しそうに返事をする。

『疲れたらいつでも言いな!我が皆を背に乗せて運ぶから!』
「…出来るならそうしてたさ…。でも、氷蓮が大きくなったらお前の凄まじいオーラで魔物は逃げるし、爺様の兵にだって位置がバレる。」
『シュン…。』

そしてみんなで笑う。
シュンとしてしまった氷蓮にルティーエスと人間の姿でいる翡翠、そして得るものもの中にいるアーシリアとダリアが笑いながらも慰める。

(楽しい…!)

エレミヤは隣で歩くギリウスの横顔を見る。
するとエレミヤの視線に気づいたギリウスはジリアスによく似た笑顔を浮かべる。

(昔に戻ったようだ…!)

以前、自分の正体を知らなかった頃に。
前世を含め、これまでの人生で一番楽しかったとき。
そして、今日も、とても楽しい…!

それに匹敵するくらい、これからも楽しいだろう。

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