氷花の鬼神って誰のことですか?え、僕のことってどういうこと?

皇城咲依

27.大闘祭(1)

「第一回戦〜!エレミヤ・ロガーツ対『豪鉄』のベルファゴス〜!」

エレミヤは闘技場の中へと入っていく。
手には1振りの長剣。
対して大柄の相手は両手斧にごっつい盾。
しかもその体を覆うすべてが鉄。

(ワォ!イッツ アメージング!)

何故か英語で驚くエレミヤ。
氷蓮は自分の出番がないことに不機嫌だ。

『我も戦いたいのだよ……。』
〔こらヒョウレン。エレミヤがここで氷花の鬼神とバレるわけにはいかないのは知ってるだろ?仕方ないよ。だからエレミヤを困らせるな。〕

なんとかルティーエスが宥めている。

『むう…。分かってるけど…。我だって…エレミヤと同じく鬱憤晴らしたいのだ。ジリアスに。』
〔名指しかよ。まぁ、お前がジリアスに怒り心頭なのはわかってるけど…。〕
『わかってるなら行かせろ。』
〔しかし、そうしたらエレミヤの正体がバレるって言ってるだろ?〕
『ぐるるるるる…。』
〔はいはい。〕

唸る氷蓮最強を軽くいなせるのはルティーエスが氷蓮の人懐こさを知っているからだろう。

【まぁまぁ。ごめんね、氷蓮。ちょっと我慢しててね。あと、ルティーエス。ありがとう。】
『うるる…。エレミヤがそう言うなら…。我慢する…。』
〔まぁ、良いって。〕

エレミヤの謝礼に氷蓮とルティーエスは笑う。

そして審判の大声が響く。

「では、決闘…始めぇー!」

その瞬間、ベルファゴスが地面を蹴る。それと同時に
どぉぉぉぉん!
轟音がした。

「よっ。」

しかし、エレミヤは突進してきた彼をくるっとつま先で回転する事で避ける。

「ぬぅ…。やるな、小僧。」
「そうですかね?」

ベルファゴスが初めて声を出した。
そしてベルファゴスはエレミヤに対峙し、

「ぬううん!」

彼に向かって鉄の斧を振り下ろした。
エレミヤは薄く笑う。

「遅い。」

エレミヤは一歩後ろに下がる。
その瞬間、先程までエレミヤが立ってきた場所が抉られ、土埃が舞う。

そしてゆっくり土埃が晴れていく。

しかし、そこに居たはずの少年は居なかった。

「なっ!」

慌てて周りを見渡すベルファゴス。
しかし、どこを見渡しても彼は居なかった。
その時、

「ここですよ。」

右横からエレミヤの声がした。
ベルファゴスは勢いよく右手を見る。

エレミヤは確かにそこにいた。

(一回相手の視界が失われば相手の死角を潜り続けることは簡単。悪いけど、ここで終わりにさせてもらうよ。)

エレミヤはベルファゴスが振り向いた瞬間、長剣の柄で相手の腹を突く。

「ごばぁ!!」

ベルファゴスの硬い鉄を砕き、エレミヤの剣の柄はきっちり生身の肌へ突いた。

「おいしょっと。」

エレミヤは倒れてくるベルファゴスの体を支えた。

「勝者、エレミヤ・ロガーツ!!」

わぁぁぁぁぁぁ!
と歓声が聞こえた。

「なんだあの坊主!」 
「きゃぁぁぁっ♡」
「強い…!」
「おい、汗一つかいてないぞ!」
「バケモンかよ…。」
「かっこいいーっ!!!」

完全に気を失ったベルファゴスをゆっくりと地面に横たえたエレミヤは己の師匠を見た。

ジリアスは緊張が突然切れたようにぐでーっと椅子の背もたれに寄りかかっている。
その横でロンガットがニッコニコの笑顔で拍手していた。

エレミヤはアーシリアに目を移す。
アーシリアは投げられたことにまだ怒っているようだが、エレミヤが勝ったことを喜んでいる。

え?なんで分かるかって?
それはまた後で。

❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅

「大闘祭ニ回戦〜!!!エレミヤ・ロガーツ対ユキノ・ナディア!」

エレミヤはナイスバディで色々露出し過ぎのの女性の前に立っていた。
と言ってもエレミヤは基本的に目を逸らしているのだが。

「あら。さっき乱入してきたかわいい子じゃないのぉ〜!」

女性はカタナを握りしめながら嬉しそうに叫ぶ。

「ははは…。」

エレミヤは笑う。目を逸らしながら。

(ユキノ…?日本人っぽい名前だな…。しかも、あの刀は…。)

「ちょっとぉ、顔見せてよぉ!」
「いや、無理っす。」
「年上の言うこと聞けないの?」
「……無理っす。」
「でも、顔背けていたらすぐ負けるわよ?」
「そこんとこは大丈夫です。」
「ふぅん。それはどうかしら?」

女性はカタナを軽く回した。
エレミヤは顔を逸しながら長剣を構える。
そして顔を戻したかと思えば、少し顔を赤らめ、目を閉じる。

「僕、暗いところでの戦闘は何度も経験してますから。」
「あら。なんか素敵ね。キスを待ってるみたいで。」
「キっ……?!」

エレミヤは目閉じながら顔を赤くした。

「そ、そんなんじゃないですから!馬鹿なこと言わないでくださいね!」

エレミヤは裏返った声で叫ぶ。

そんな時だった。

「え〜と、時間押してるので…戦闘開始ぃ〜!」

審判が叫ぶ。
ユキノがゆっくりとカタナを両手で握る。 

「話は…また後でね!」

そう言いながらカタナを振り下ろす。
エレミヤは目を閉じたままひらりと躱した。

「うっそお!」

ソフィアがどこか嬉しそうに叫ぶ。

エレミヤはそのカタナの速さに驚いていた。
エレミヤがなぜ目を閉じたまま戦えるのか。
それはエレミヤの殺気や気配への敏感さにある。
その全身から発せられる殺気や気配を感じ取り、武器の振り下ろす動作などを感知しているのだ。

(まぁ、師匠やティナも使えるけどね…。待って、まさかこの大会にティナが出てきたりしないよね?!)

ヒラリヒラリと次々と襲ってくる剣戟を躱しながらエレミヤはそう考えた。

「くっ、はぁっ、ええい、おりゃぁ!」

ユキノは目を閉じた少年が自分の攻撃を難なく躱していることに舌を巻いた。

ユキノの一家、「ナディア家」は先祖代々このカタナを使う「サムライ」だった。
ユキノの先祖はニホンという国からやってきたサムライだった。

本当は「サトウ」という名字だったらしいが。この世界に馴染むようにナディアと言う名前を作ったのだとか。

彼らはこの国で上に立つ者がいない剣の速さを武器としていた。

それをっ…。こうもたやすく避けられるなんて…。

すると不意に少年は笑う。

「懐かしい…。まるでニホンにいたときの感覚だ…。」

と言いながら。
ユキノは手を止めた。

ニホン。少年はそう言った。

目の前で少年が目をゆっくり開いていく。
そして…。

「雪乃さん、で良いですか?」

日本語で語りかけた。
ユキノは先祖代々伝わるその言葉を口から発した少年を見た。

少年はさほど疲れた様子もなく肩をすくめた。

「あ、僕は三野真龍と言います。」

この広いコロッセオにエレミヤの声が響く…事はなかった。



「祓魔剣アーシリアの固有スキル…【時間操作】。」

エレミヤは笑いながらそう言った。
ユキノは驚きに目を広げた。

「祓魔剣アーシリアのスキルをなぜあなたが使えるの…?」

エレミヤはその質問にあっさりと答えた。

「僕がアーシリアと契約してるからですよ。」


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